第二話
お気に入り登録ありがとうございます! 実に二か月半振り……っ!
「異世界」の舞台は実に様々なものがある。中世ヨーロッパ調、戦国調、中華風、近代未来的。未来はともかく、大体の舞台は科学が発展している現代よりも劣っているように描写されていることが多い。
しかし科学よりも魔法が主体の方が発展していると、総士郎は思い知っていた。
「うーわー……。スゲー……」
下道は舗装されてほとんど段差はなく、様々な露店や商店が立ち並んでいる。国体道路並みの広さを誇り、実に多くの者が店を構えている――一方で。
「そんなに驚く事か?」
「いや、まあ、うん……モノはコッチで生まれ育ったんだものね」
人が空を飛ぶという永遠の夢、人間はそれを飛行機で叶え、飛行船まで誕生した。しかし未だに生身で飛ぶ方法は確立されていない。
しかし世界が違えば文明も違う。魔法が主体のキマナーザにおいて、移動手段はもっぱら「空」である。使い魔による空中飛行や飛行魔法、簡単なところならば身体強化で屋根を移動するのも可能である。
地面は舗装されていなければタイヤなどがとられてしまい時間がかかる。その点空を飛んでの移動は、天候にのみ影響されることから、キマナーザにおいて地面はもっぱら徒歩として使われるのだ。
「あれ、自動販売機?」
道の端に見かけたデカめの箱。地球で言う飲み物や食べ物を路上で販売する機械によく似ていた。あまり科学は発展していないと思ったが、そうでもないのだろうか。
「ジドウハンバイキって何だ?」
「あの機械だよ」
見つけたボックスを指差すと、何を言っているんだという目で否定されてしまう。
「あれは全自動魔石販売機だ。そんな変なものじゃない」
「魔石販売機?」
話を聞くと、魔力を込められた石である魔石を買うことができるそうだ。移動が空であるが故に魔力切れが一番怖く、それを防ぐために販売されており、小さいがそれなりの量と質の魔力が込められているそうだ。使用方法は握って魔力を自分に移すだけと簡単だが、それなりに高価とのこと。具体的にはアーモンドサイズ一つで金貨一枚、地球で考えると一万円らしい。
……どうでもいいが略せば「自動販売機」じゃないか? そう尋ねると、予想斜め上の返答が返ってきた。
「何言っているんだ。略すなら『自販機』だろう」
あ、そこは同じなわけねと変に納得してしまった。予期せぬところで異世界仕様である。
旅立つ一か月ほど前に神からこの世界のお金一式を受け取っていたのでお金の心配は一切なし。モノに尋ねると、どうやら神が渡してくれたお金だけで一生遊んで暮らせるらしい。比較的謙虚な日本人からすれば有り余るお金だったが、どうせならパーっと使ってしまえということで。
「あ、あれおいしそう!」
「あっちは美味いぞ」
「あれ何だろう」
「おお、こんなところにアレがあるとは」
目についた店片っ端から行って買い漁っってみた。真っ黄色の肉やドギツイピンク色したジュース、怪しげな彩色をした唐揚げらしきものなどなど、見た目はやばいが味は比較的マシ――というか美味しかったのだ。モノはどうやら食べたことがある物が多いらしく、オススメや危険物などを教えてくれたのでとりあえずあからさまな外れはなく、食い倒れるちょっと手前まで買い漁ることができた。
「ん、コレは……武器屋?」
「らしいな。入ってみるか?」
「うん」
ちょっと一服していたベンチのすぐそばの、目に入った店に掲げられていた剣と盾の紋章からここが武器庫と推測してみたが、地図にもそう記されていたことから予想が当たったようだ。書かれているのは「武器屋 血飛沫」の文字が。正直に言ってここで買いたくはない店名である。
しかし総士郎はこの世界を楽しむためにアグテブ国にきたのだ。次の天下一武術会はおよそ半月後に行われるため、少なくともそれを見てから出国するつもりであり、それまではゆっくりのんびりと過ごす予定なのだ。それこそ、この国中の全ての店を見回るだけの時間も体力も資金もある。特に急ぐつもりなど毛頭ないのだ。
だからいかに怪しい店だろうと、入らない理由にはならないのである。
「へえー……、それなりに種類はあるんだね」
「そうらしいな。結構品揃えがいい」
カランカランとドアベルが鳴って店内に入った二人は、目に飛び込んできた武器の多さに興味を示した。剣だけでも長さや装飾、持ち手や刃の形など様々なものがあるし、それ以外にも盾や矛、槍に斧に棍、弓矢に銃など。男なら一度は手に取って振り回したりぶっ放してみたい武器が、所狭しと並べられていた。
そして「武器」と称されるものは、勿論それだけに留まらない。
「あ、ヨーヨーがある。懐かしいな~、昔好きだったんだよね」
「こっちにはけん玉があるぞ? こんなのも操る奴いるんだな」
「そういうことだろうね。俺の世界でもいたよ、そういうやつ」
「へえー……」
「ただし、二次元に限る」
「……」
一般的に「玩具」と言われるものでも扱いを変えれば敵に使う「武器」となる。総士郎の世界にも広まっていたそれらの玩具も、武器扱いされているものも多い。二次元でしか見なかったヨーヨー使いの不良女子高生刑事やけん玉使いの着物美女なども、この世界ではありふれているのかもしれない。そう考えた総士郎はプッと吹き出してしまい、モノに「何考えているんだ」と睨まれてしまった。
「いやでも考えてみなよ。質量のある球を糸で吊るして、それを振り回せるんだよ? 立派な武器じゃんか」
「……まあ、」
「これが糸じゃなくて鎖だったら? 球じゃなくて棘の付いた鉄球だったらどう? もうそれは『玩具』の領域じゃないよね」
「……そういわれてみるとそうか。意外と子どもの玩具って危ないんだな」
「そうそう」
……もっとも、二人ともに何かを買うつもりはない。二人とも武器を扱う腕はピカイチのくせして体術や魔術を使うのが好きなので、好き好んで武器を持ち歩かないのだ。
――そう、持ち歩かないからこそ目を付けられるというのもあるだろう。
「何かお探しですかな?」
盛り上がっている二人に近づいてきたのは人の良さそうな男性だった。年齢はまだ三十代半ばごろかというくらいで、笑顔になれている優しそうな男性である。
「ああ、いや別に。ただおもしろそうだな~と」
「そうでしたか。どうぞ、手に取ってご覧ください」
そこで二人は気が付いた。
今二人は二人して目立つ武器を持っておらず軽装である。しかし、逆にそれが店主には好都合に思えたのだ。
武器を持っていない、イコール武器を売りやすい。将に二人は格好の餌食だった。しかも二人して人の良さそうな顔であるし、他人受けしやすい美形である。店主としても逃す気など更々なかった。
「こちらの剣などはいかがでしょう? 軽くて丈夫、初心者にも扱いやすいですよ」
「いやあの、」
「近頃は何処へ行くにも物騒になりましたからねえ。武器を持っていないと舐められて、襲われてしまうかもしれません」
現に今あなたもそうですよね。二人はそう思ったが、口には出さなかった。
「こちらの籠手もいかがでしょうか。身軽ながらも簡単な防具があると守りやすいですよ。そしてその隙に剣を一振りすれば! たちまち敵は逃げていくことでしょう!」
いや力説されましても。こちらの反論を許さないとばかり自分勝手に話し続ける店主に若干苛立ちが増してきた二人は、念話でどう切り抜けるか話し合うことにする。
《どうする?》
《どうしたもこうしたもない。とっととズラかればいい》
《でもこれからこの国で暮らしづらくなるんじゃない? あと半年はいるんだよ?》
《変装でもしたらいいだろう。現に今してるじゃないか》
《いやそれはそうだけど……》
完全に一人語りに入ってしまった店主を他所に、二人は話し合っていく。
《いっそこうなったらさ、……でこ……い?》
《……それもありか……よし、それで行くか》
ニッ、とどちらからともなく笑みをかわすと店主の意識を引き戻す。
「すみませーん! あのー!」
「ですからこの剣と盾はあの有名な鍛冶師、エーシンの作でして……はい、何ですか?」
「ちょっとどれがいいか分からないので、試し斬りさせてもらっていいですか?」
「は。……ええ、どうぞ! ご存分、気が済むまでどうぞ!」
「ありがとうございます」
店主がここぞとばかりに高価な剣を探し出したのを見て口元を上げる。気が済むまで、……ね。向こうがそう言うならば、ありがたくそうさせてもらおうではないか。
「はい。気が済むまでやらせてもらいます」
「思う存分、な」
それから用意ができたと呼ばれて行った裏の場所には、何本もの剣や武器、それから的や人型が置かれていた。スペースも広く、建物が離れていることからここなら思う存分力を出せると安堵する。
「さあお好きなものをどうぞ!」
「ありがとうございます。……ところで」
「はい、何でしょう?」
「万が一ということもあるのでお尋ねしたいんですが……試しているうちに、その……破損などしてしまった場合は……」
「ああ、その点はご安心ください! すべてこちらに責任があるので、料金を請求することはありません。ご安心ください」
「そうですか! いや~、よかったです」
「ああ、勿論故意に壊した場合や扱いに無理があった場合はお支払いいただきますが」
「あはは、それは重々承知してますよ。大丈夫、正規の使い方しかしませんから」
武器の使い方は、ね。心の中でそう付け加えて表面上は取り繕う。正規の使い方をして壊れるのは仕方ないんだよね、そういうことだよね。
「――じゃあまずは、この剣から振らせていただきます」
「小生はこの剣だ」
「ええどうぞ。気のすむまでお試しください」
ニヤリ、二人は目を合わせて口元を緩ませると、剣を腰に持ち――勢いよく引き抜いた。
――ザッシュ……スパンッ
普通に剣を振り下ろした時と何ら変わりない音が響き渡る。しかし彼ら二人は普通ではない。
たった二人の少年の剣を抜いて振っただけの動作により――試し斬りをする演習場がズタズタになったのだ。
総士郎は横に、モノは真上に引き抜いただけであり、武器自体はありふれた既製品で、おまけに二人とも魔術は一切使っていないにもかかわらず、演習場は何十、何百もの深い傷跡を残してボロボロになった。勿論的も人型も、その形すら残っていない。
「……ん? ちょっと違うか」
「ああ。別のにしよう」
「え、ちょ」
二人は剣を終い別の武器に手をかける。今度は銃、その次は槍、その次は棍棒……といった風に次々と試しに使っては武器交換を繰り返す。その度に演習場には傷や穴が増え、店員の男が気が付いたときには、すでに大規模なクレーターができてしまっていた。
「あ、あ、あ……」
「うーん……なんか違うんだよなあ」
「もっと切れ味いいヤツはないのか? 全部イマイチだ」
しかし二人はそんな店員の様子など気にも留めず、持ちだされて置かれている武器を手にとっては試し、クレーターを形成しては武器を交換してを繰り返している。
そして日が傾いたころ、ようやく。
「……あれ。なくなっちゃった」
「すまん! どの武器もイマイチだったのだが」
その声に先ほど自分が置いていた場所を見ると全てがきれいに別の場所に山を形成している。そしてようやくそのことに気づいた店主は、顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「な、な、なんてことをするんですか! 弁償です! 弁償してもらいます!」
「なぜですか? 弁償する理由がありません。ただ剣を抜いて軽く振っただけです。何の問題があるんでしょうか」
「うむ。どの武器も壊れてないしな」
そう言われて慌てて武器のほうを見た店主は、どの武器もきれいに置かれていたことを思い出した。急いでその内の一つを手に取り抜いてみるが、壊れているどころか刃こぼれも起こしていなかった。同じようにいくつかの武器や防具も手に取ってみるが、壊れたり欠けたりしている様子は全く見られない。
「……ってことで、弁償はナシですよね」
「始めに確認したぞ? それでアンタは『故意じゃなかったら構わない』って言った。小生たちは剣を抜いて振っただけ、その剣は何処も壊れていない。つまり、何も問題はない……ってことだ」
呆然としていた店主は、それでも思わぬうちに口を開いていた。
「……はい。お代は結構です」
「それはよかった。あ、それと。生憎俺たちに会う武器がなかったんで、すみません」
「悪いな、店主」
「……それと」
総士郎が店主の耳元に口を持っていき、そっと言い聞かせるように囁いた。
「(……ニセモノがいくつか混じってたんですが……ご存知でした? 実に四分の一以上はすぐに壊れる紛い物でしたよ)」
そう言われて店主は一気に肌が粟立ち、冷汗が浮かぶのを感じた。自身の心臓が早鐘を打っているのがリアルにわかり、その音の煩さで耳を塞ぎたくなる。
「(ご存じでなかったらお気の毒ですが、これからは気を付けてください。……もしご存じならば)」
「次にクレーターが刻まれるのは、貴方かもシれマせンヨ?」
「――――っ!」
それからすぐに二人は立ち去ったが、店主はその場にへたりと倒れ込んでしまった。
翌日、とある店主が逃げるようにしてアグテブ国を去り田舎で隠居しているという話が広まったが――真実は不明である。
何が書きたいのか分からなくなっている自分がいる。……プロット練り直そうかな。