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ワイドエフェクト  作者: 虚言兵器
プロローグ~強制異世界転移~
4/7

第四話 神事る者は掬われる4


 今回は短いです。ええ、特に。


 ……以前のシリアス(もどき)は何処いった?




 「モノー!行くぞー!」

 『(もきゅもきゅ)』


 総士郎がこの世界に転移させられて、今日でちょうど一年がたつ。そして今日、総士郎は修業を終えて、世界巡りに旅立つ。


 「じゃあモノ。十二歳位の姿に成ってくれ」

 『(もきゅー!)』


 モノ、と呼ばれた黒いゼリー状の物体がもぞもぞと動き始め、人の外形をとる。そしてその体から大きな光が放たれた。


 ――そして光が収まると、そこには少年が立っていた。


 少年は自分の身体をペタペタと触りながら総士郎に尋ねた。


 「ソウ、おかしくないか?」

 「ああ、大丈夫だ」


 自分と同じ艶のある黒髪を短く切り揃え、自分とは少し違うシルバーグレーの瞳。ラフな半袖のシャツに長ズボンを見に纏っているその姿は、総士郎と並ぶとまるで兄弟に見える。


 「ソウ、本当にその顔で行くのか?」

 「ああ。変か?」

 「……変って言うより慣れない」


 そうか?と言いながらスマフォの鏡アプリを立ち上げて見る総士郎。地球の頃の自分とは似ても似つかないが、キマナーザにきた頃の美形とも違う。現在進行形で総士郎は、外見を変化させる魔術、《擬似態形トランスフォーメーク》を使っていた。



 修業は体力作りに始まり、魔力コントロールや法石創造、精霊使役など多岐に渡った。神によって作り替えられたこのオーバースペックの身体では、何もしないと全ての威力が最大になるようにできている。そのため総士郎がこの一年学んだほとんどが「抜かりなく手を抜き、限りなく制限し、加減なく手加減するため」の修業だった。


 一口に修業と言っても様々だが、修業の一つに「ジャース世界の常識」がある。通貨や単位、法律や刑罰など。土地が変われば法も変わるのだから、世界が変われば見方も変わる。法が変わらない方がおかしいだろう。


 創作小説などで例を上げると、「未来・パラレルワールドの日本は一夫多妻制を取り入れていた」とかや「ギルドには必ず登録しなければならない」などだ。諸外国に行くだけでルールは変わる。ましてや平和とは程遠い異世界だ。ジャイアリズムが蔓延っていたとしても何ら不思議はない。


 そうして世界の常識を学んでいたある日、総士郎はふと気になって調べてみた。


 「世界美形ランキング」


 婦女子の方々が喜びそうだが、実際に自分が美形になってみると、自分の顔を見てもスゴい以外の感想がない。美形は鑑賞用とはよく言ったものだ。


 神に作り替えられたとは言え総士郎は現在生半可ではない美形になってしまっている。もし仮に醜悪が正反対の世界だったらどうなるだろうか。


 「醜い」 「キモい」 「ブサイク」


 そう罵られ蔑まれ非難の目で見られること間違いないだろう。別にイケメンだからと言ってキャーキャー騒がれたくはないが、負の感情を向けられるよりはよっぽどいい。


 つまりところ、「俺のこの顔、キマナーザだとどれくらいのイケメン度なの?」ってことである。


 その結果、「イケメン度 百点満点」と出ても、総士郎は「あ、やっぱり神様クオリティ」としか思わなかった。


 だが世界全体だったらそこまでのレベルじゃないか、と思って「世界美形ランキング」を開き、神が自重していないことを知った。


 『一位 ソウジロウ・アクネ』


 見た瞬間絶句した。もっとよく調べてみると、地球基準での美形がジャースにおける一般の顔面偏差値だということが分かった。さらに、貴族や王族のほとんどがジャースでの美形に入るのだと。



 貴族どころかキマナーザでの戸籍や住民登録もない総士郎だ。そんな自分が神美形のままのこのこと町に出ていったらどうなるか。想像するのも恐い。


 そんな事情のもと学んだのが《疑似態形トランスフォーメーク》だ。幻覚や変装ではなく、骨格や血管、皮膚や細胞の造形を変化させることで姿形を別人にする魔術だ。《妖精の眼》を持っている者に幻覚系の術は一切効かないと知ってから、古代魔術である《疑似態形》を必死になって覚えた。


 修業の賜物で意識せずとも使える上、実質魔力量が最大の総士郎に魔力切れの心配もなし。現在総士郎の顔面偏差値は、ジャースにおける平均値だ。


 「……いつもの顔の方が良い」

 「我慢しろ。流石に人前であの顔は御免だ」

 「小生の前では見せていたじゃないか」

 「お前自分が人間だとでも言う気か?」

 「……」


 顔を歪めるモノ。分かっている。分かってはいるが、納得は出来ないのだ。自分の主が顔を変えているのだから。



 モノ。通称モノクライム。魔物の一種で、全身真っ黒なスライム状の外見をしている。魔物のなかでも上位種で、その特性は「形を持たないこと」である。モノクライムはゼリー状だが、全ての生物のDNA細胞を持っている。それ故外見をどんな生物にも変化させることが出来る。また、身体を分裂・合体させられるので、複数の個体を産み出すことも可能だ。


 このモノクライムは総士郎の召喚獣だ。半年前に修業の一貫として使い魔を召喚する時があった。その時に総士郎は、どんな召喚獣がいいか決めるに決められなかったのだ。


 『狼も良いし虎も捨てがたい。いややっぱりここは百獣の王の獅子ライオンか!?いやでも連れ歩くなら個体は小さい方が良いよな……』


 召喚する時に必要なことの一つが想像力だ。外見を強くイメージすることによりその通りの獣がきてくれることが多い。


 しかし最後まで決められなかったことにより、全ての生物になれるモノクライムが召喚されてしまった。……まあ総士郎はむしろラッキーと思っているが。


 『え?何にでも成れるってこと?何それ、めっちゃお得!』


 とは総士郎談だ。そしてその言葉通り、総士郎は修業で、モノクライムをあらゆる生物に変身させた。……そのせいでモノクライムの口調が悪くなったが。しかしそれも総士郎にとっては可愛さのスパイスでしかない。「一人称が小生とか!小生とか!」と変な所で悶えていた。




 「……小生と二人きりの時は元の顔でいろ」


 そう言ってプイと顔を背けたモノに、総士郎は口元をおさえた。


 「(何コレツンデレ?ツンデレなの?『お前の本当の顔は俺だけに見せてくれ』とかそういうのなの!?ヤバいモノ超可愛い。何コレお持ち帰りしていいの!?)」


 思考が危ない方向に向かっていくのを感じながらも総士郎は口元をおさえながらふるえていた。そんな主をモノは訝しげに見る。


 「……ソウ?」

 「!あ、いや、何でもない」

 「……だったら良いが」


 声をかけられてよくやく総士郎は思考を中断することができた。可愛いものは正義だ。可愛いモノは正義だ。


 「で?」

 「?何がだ?」


 脈絡もなくかけられた言葉に総士郎は戸惑う。そんな自分を見て「何を言ってるんだコイツ」といった目をしながらモノは口を開く。


 「これからどうするんだ?世界をまわるんだろ?」

 「まあな。まだ当分帰れそうにないらしいし」


 一年経過したにも関わらず未だ書き換え作業は終わらないらしい。いや、正確には終えられないらしい。なんでも、書き換えたら書き換えただけ、情報が改竄されてしまうそうだ。このままではどの世界からも迫害されかねない、ということで暫くキマナーザで過ごして欲しいとのことだ。思わずふざけんなと怒鳴った。一年経ってもなんの進展もないどころかむしろ悪化してるとはどういうことだ。


 「とりあえず四国全部回ってみたいかなあ……」

 「好きにしろ」


 ツンデレですね、分かります。


 全部回るのだから近い所から行くか。そう思い一年振りに神からの最後のメールを開く。


 「……何やってるんだ?」

 「ごめん、モノ。ちょっと掴まって」


 左手を出すと少し戸惑いながら自分の手を握るモノにキュンときながらも総士郎はスクロールを続ける。ようやく一番下まできた。


 「行くよ」

 「何……ッ!?」


 声をかけて【リンクB】をタッチ。シュン、と音を立てて一瞬で変わった目の前の景色にモノは目をこれでもかというほど見開いている。


 「さ、行こっか」


 清々しい位の笑みが浮かんでいると自分でも思いながらも、総士郎はモノに声をかける。そんな自分を見て、モノは青筋を浮かべながら総士郎の襟元を掴んだ。


 「……あらかじめ言っておいて欲しいものだな?」

 「言ったろ?」


 米神をピクつかせながら首元を絞める力を強めたモノ。しかし何も言わずに手を離した。それを見てニヤニヤしていると足を踏まれた。


 ……お前の力も一般人よりはるかに強いんだぞ?


 「……で?ここは何処だ?」


 両側には壁があることから、何処かの路地だと分かる。少し離れた所はから人の声が聞こえることから、町中だろうか。


 「えーと……アグテブの民家裏だね」

 「あっそ」


 ……聞いてきたのに淡白だな、オイ。


 そう思っているとふとモノが此方を見てフッと口元を弛ませた。


 ……さっきの仕返しかよ!





 まずはアグテブ。そして次は――。


 総士郎とモノの異世界放浪は、まだまだ始まったばかりだ。



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