第三話 神事る者は掬われる3
よくある『チート・ハーレム・俺Tueeee!』をぶった切る話第一段。
他作品様へのアンチ要素があります。ご注意下さい。
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《そして最後に、貴方様の持ち物についてです。》
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これで終わりかと思ったがまだ説明のメールらしい。これには心底有り難いと思った。
小説に異世界トリップ系はよくあり、『神様のミスでトリップしてチートもらって俺Tueeee ! 』がほとんどで、トリップじゃないなら転生ジャンルだろう。
しかし総士郎は常々思っていた。
『何で神様のミスなのにチート与えるだけでその世界の詳しい説明がないんだ?』
魔法の属性の説明や与えたチートの解説はしていても世界観や国の特徴、種族の数など、他に説明することが山程あるだろう。ろくな説明もないまま俺Tueeee!からのハーレム結成?あるわけない。まあそこは「ファンタジーだし」で無理矢理納得して読み進めたが。それに先に説明すると楽しみがなくなるだろう。
だがいきなり別世界に飛ばされて「チートあげるからそこで過ごして」なんて言われても自分は絶対に納得などしない。その世界の攻略本を、それが不可能なら取り扱い説明書を要求する。
だから例えメールだとしても説明をくれるのはとても有り難い。だいたいの予想をつけて異世界を回れるのだから。
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《貴方様の持ち物全てに我々の持てる全力を注ぎました。以下に例を載せております。
・電池切れなし
・何時でも何処でも電波が通じる
・貴方様以外の使用禁止
・紛失や盗難の場合、翌日には貴方様の鞄に戻っている(※売買の場合は戻りません)
・貴方様、及び他人からのどんな攻撃を受けても壊れない
・貴方様以外に画面は見えない
・貴方様以外に音が聞こえない
・データフォルダやUSBメモリの容量限度なし
・魔法効果付与
・法術効果付与
・精霊術効果付与
など、主に安心・安全面を強化させて頂きました。勿論他にも様々な補強は勿論、キマナーザ用にアプリケーションなどは作り替えさせて頂きましたので、ご安心下さい。》
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何気なく書いてあるが、実質持ち物が一番凄い気がする。元々万能なスマフォが異世界用にカスタマイズされているらしいし、他の所持品もチート化しているとのこと。そう言えばこの作り替えられた身体で何度も握りしめたこのスマフォが、地面や雲すら割れたと言うのにヒビすら入っていない。試しに軽く力を入れてみるが、ミシリともいわない。それどころか本来入っていたキズや画面の汚れが全くない。新品のようだ。
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《貴方様の所持品のほとんどがキマナーザには存在しません。ノアザーク国では科学も発展していますが、地球ならば、まだ産業革命が起こらなかったレベルの発展しかしていません。所持品を何か一つ売るだけで、一生遊んで暮らせるだけの価値があります。》
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「気軽に売れなくなりましたねえ!!」
メール文だから仕方ないとは思うが、重要なことを淡々と言わないで欲しい。売るつもりもないが。
どうやら次のメールが最後らしい。日がだいぶ傾いている。時計を見ると、ゲートをくぐってからもう二時間近く経っていた。
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《以上で説明は終了です。各国や各種族の詳しい説明は、ホームにあるアプリケーションを拝見して下さい。このメールの末尾にある【リンクA】をタッチすると、家作成のためのアプリに接続されます。お好みの外見や内装をカスタマイズして作成、お過ごし下さい。
くれぐれも力をコントロールする前にポドゾルを離れないよう、お気をつけ下さい。貴方様が「もう大丈夫だ」と判断した場合、【リンクB】をタッチして下さい。周りに人がいない場所に転移出来ます。自力で離れるのも可能でしょうが、くれぐれもお気をつけ下さい。
この度はまことに申し訳ありませんでした。
【リンクA】 【リンクB】
追伸
何かしら不満や御都合等おありでしたら、下記にご連絡下さい。
Tel
5017-1444-0004》
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ここでメールは終わっている。一息つこうとしたが、そう言えばもうすぐ夕方だなと思い【リンクA】をタッチする。
《要塞建設アプリ、『必要塞城建』へようこそ!》
「何だこのアプリ」
アプリ名も気になるが、それより『要塞建設アプリ』とは何だ。誰の何の為に作られたんだこのアプリは。
そう心の中でツッコミつつもアプリを立ち上げる。指示に従い自分が想像するように外見や内装を変化していく。
「……よし、出来た」
表示されているのは小さめのログハウス。洋室と和室が一部屋ずつ。キッチンやトイレは勿論完備、お風呂は露天風呂だ。全体的に落ち着いた仕上がりになっている。ログハウスにしたのは憧れだったからだ。巨大なきらびやかなお城――アプリ名通り要塞――にするのもアリかとも思ったが、しばらく住むので広いと何かと落ち着かないだろうと思い小さめにした。洋室と和室が両方あるのは、気分によって替えるためだ。
《ファイナルアンサー?》
「……ファイナルアンサー」
本当に誰だ、このアプリ作ったの。
タッチすると、目の前が光り、ログハウスが現れた。画面に表示されていた通りの完璧な小屋だ。
中に入ってみると、先程自身が作成したままに家具や部屋が設置されている。
「……ヤベェ」
総士郎はようやくここが異世界だと実感した。やはり説明だけでなく、実際に力を使ってみなくては騙された感満載だ。しかし目の前に自身が作成した通りの家が出来ているならば、もう疑る必要もない。
総士郎は身体を振るわせると大声をあげた。
「俺の時代が来たぁああーー!!」
☆ ☆ ☆
小屋に入り荷物を広げる。作成する時に自分の家の間取りを浮かべながらしたため、殆ど違和感なく生活できそうで安心した。
あらかた整理が終わると、総士郎は椅子に座り、再びスマフォを操作し出した。
ホームに明らかに増えているインストールした覚えがないアプリの数々。とりあえずこの改造された身体をコントロールしないことにはこのポルゾンから出ることも儘ならない。総士郎はアプリの一つをタップした。
《押忍!人体改造アプリ、改造保安・凶にようこそッス!》
な ん か 出 て き た。
デフォルメされた筋肉ムキムキの色黒な男が挨拶してきた。二頭身なので可愛いらしさはあるが、それでも暑苦しい。加えてまたもや意味不明なアプリ名。
《ここでは使用者に応じた鍛練法で自分を高めていくッス!まず、大まかなゴールを決めるッスよ!入力して下さいッス!》
入力スペースに[無意識にコントロール出来るまで]と入れる。
《了解ッス!次は難易度を決めるッスよ!》
「…………」
『楽』『普通』『しんどい』『死ぬ』の四択。いや『やや楽』位が良かったのだが。
散々迷って『普通』を選ぶ。まあ自分の中では楽な方二択に絞られていたが。
他にも身長や体重など、この身体になってから判明しなかった事実があったが、そこは勝手に判断してくれた。
しかし百七十後半で低迷していた身長が百九十台に突入していたとは驚いた。体重は七十台にまで増えたが、恐らく筋肉分だろう――。
そこで総士郎は気が付いた。否、気付いてしまった。
髪や目の色の変化はメール本文を読んで明らかになったのはまだ分かる。しかし変化した肉体はどうだろうか。
身長が二十センチメートル以上もふえ、手や足の筋肉質も劇的に変わっているにも関わらず、自身がメールを読むまで気付かなかった。今まで見てきた視界とは明らかに違っているというのに。
メールを読み進める内に気付くべきだった。手の大きさや爪の長さも明らかに変わっている。
だが総士郎が怖いのは劇的な変化を遂げた自身の身体ではない。
そんな身体にされたというのに、メールを読むまで一切気付かなかった自身の認識の遅さに恐怖したのだ。
異世界という見知らぬ世界に置く自身の危機管理能力の低さに、総士郎は絶望せざるを得なかった。
アプリ名は適当に名付けました。これをカタカナ読みすると厨二っぽいですよね。