第二話 神事る者は掬われる2
読み辛さMAX!ただメール見て考えてツッコミ入れているだけ。
気付いた方もいらっしゃいますが、名前や持ち物を色々変えました。
雲を割る、という自分が起こした事象に理解が追い付くと、再びメールを読み進めた。
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《実際にしてみると分かりやすいでしょうが、お勧めはしません。ですが、これで貴方様をポルゾンに送ったら理由が理解出来たことと思います。なぜ貴方様の身体を作り替えたかですが、それは単純に「危険だから」です。キマナーザの生物は地球とは進化の仕方が全く異なります。地球に存在した生物はこの世界にはいない、と考えて下さい。色などの見た目は勿論のこと、狂暴さや餌、嗜好品や趣味なども全く異なります。簡単な例を挙げますと、地球でいう犬ですね。色々種類がありますが、チワワを思い浮かべて下さい。そのチワワをおよそ百倍に拡大し、歯を牙に変えたのがキマナーザでいうチワワ、通称ワルチルルです。》
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「そんなのはチワワじゃない!」
思わず叫んでしまい赤面する。周りに誰もいなくて良かったと心から安堵した。
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《お分かり頂けたでしょうか。今のは極端な例です。ちなみにワルチルルは愛玩生物ではありません。「魔物」に分類されます。》
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いやそりゃそうだろうよ。そんなチワワが愛でられてたまるか。
そう心の中で悪態づけながらも本文を読み進めたる。
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《魔物がいるからこそ、貴方様の身体を再構築する必要がありました。キマナーザ世界で生きていくことに於いて、魔物と戦って勝つことがまず前提条件として挙げられます。具体的に数値で表してみると、地球での身体能力の上限値を百、平均値を五十とした場合、貴方様の値は三十七です。そしてキマナーザで一番弱いとされている魔物、ラビリン――地球でいうとウサギに似た魔物なのですが、その値は三十です。付け加えると、キマナーザでの一般人男性の平均値は二百、獣人の平均値は三百ほど。英雄レベルだと五百を超す位でしょうか。》
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神様が身体を作り替えた理由が理解出来た。もし生身だったらラビリンにすらようやく勝てる、といった所だろう。というか地球の上限値ですらこの世界では一般男性の半分しかない。はっきり言って自殺行為だ。
「……ん? まだ続きがある」
終わりかと思ったがまだ下がある。残りも少ないので一気にスクロールした。
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《なお、貴方様の身体能力値は百万です。それに伴いまして、外見も少し構築し直させて頂きました。》
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嫌な気がして慌ててシャツを捲った。するとそこには、
「……腹筋が……割れてる、だと……!」
うっすらとしか割れていなかった腹筋がボコボコに八つに割れており、生えていた胸毛はきれいさっぱりなくなっている。腕や太股も調べてみると、フニャリと摘まめた筈の肌が全く摘まめない位筋肉がついていた。目立っていた脛毛なども一切残っていない、所謂完璧な『細マッチョ』だ。
身体がこんな男の理想を詰め込んだ完成美へと変化してても顔や中身がなあ、とそこまで考えてふとメール内容を思い出した。嫌な予感がし、念の為にスマフォの鏡アプリを立ち上げて自分の顔を見て自分の予想が当たっていたことに膝が折れた。
「……誰だよこのイケメン」
日本人らしい童顔平凡顔は何処にいったのかと問い質したくなる美貌が映し出されていた。黒髪は烏の濡羽色と言えるような艶のある色に変化し、黒みがかった茶目は灰色――アッシュグレー――に変化していた。決して人間にあり得る色彩ではない。どこぞの二次元でもない限り。
それだけならまだしも、目はアーモンドの形をしており鼻はツンと高く、口は艶めかしい朱色だ。見るからにどこぞの魔王のようなオーラや迫力がある。これは最早自分ではない別の誰かだ。男の理想を詰め込んだ身体に自分という精神を入れただけだ。再構築などでは決してない。
地面に両手と膝をつけてうなだれた総士郎が、最初の手紙を書いた神様とこのメールを送ってきた神様、その両方を全力で殴りたいと考えたのは仕方ないだろう。
「何してくれたんだーー!!」
……そして今度は地面にクレーターが出来た。
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《それでは次の説明に移りたいと思います。》
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何とか落ち着いて五通目を開いた。もうHPがエマージェンシーレベルレッドな気がする。
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《先程のメールで触れたように、その世界には「魔法」と「法術」、そして「精霊術」が存在します。》
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いよいよ本格的だと感じた総士郎はポテチを開き、割り箸で挟んで食べながら指を動かす。腹が減っては戦は出来ない。
「(あれ、これ他人から見たら超イケメンがポテチ食べてることになんのか?……いや、気にしたら負けだ。別に誰もいないし)」
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《キマナーザには地球では一般的にはお伽噺やファンタジーでしかなかった「魔法」が、普通に日常生活で使われています。使い方は簡単で、詠唱をするだけ。人によっては無詠唱も可能です。》
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「ファンタジー キターー!」
大学の講義の合間に小説投稿サイトでよくファンタジー系小説を読んでいた総士郎は感動した。まさか自分が。その気持ちで一杯だったのだ。
……しかしこの見た目だと自分はいわゆる『やられキャラ』なのではないだろうか、とふと考えて頭を振る。
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《ごく普通に存在が広められていますので、マギナロクの国民でなくとも息をするように扱うことが出来ます。ただし、扱うには「魔力」が必要となり、全員が必ずしも扱える訳ではありません。》
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「……小説だと……魔力がないってだけで迫害されて家を追い出されて帰ってきたら最強になってるパターンだよな」
以前読んだ小説を思い出しながら読み進める。
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《しかし、必ずしも全員が扱える訳ではない、ということも知られているので、魔法が使えないから周りからの風当たりが激しいなどということは一切ありません。そんな彼らのために「法術」があります。
法術は、魔力が個人が持つ魔力に左右されるのと違い、魔力がある者は法術を使えないのです。
法術は、「法石」と呼ばれる特殊な石の力を借りて発動する術のことを言います。しかし、魔力がある者は法石から力を借りることが出来ないため、使用することは出来ないのです。》そしてもう一つの特殊な力、それが精霊から力を借りて発動する術、「精霊術」です。これは魔力がある人もない人、つまり、魔法使いも法術使いも使うことが出来ますが、使える人はキマナーザ世界を探しても百人に満たないでしょう。精霊を使役する精霊術は、まず力を借りる精霊を視認しなければいけません。》
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まあ妥当だと総士郎は思った。力を貸してもらおうとしているのに何処にいるかも分からなければ、貸してもらうに貸してもらえないだろう。相手を見て直接貸してもらわなければいけない。
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《精霊を「視る」のに特殊な力はいりません。ただ心の底から存在を信じれば良いだけです。》
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簡単に言っているが、それがどれだけ難しいことか。見えないものは信じられないように、視えないモノを簡単に信じろ、というのは無茶だ。人間は情報の多くを自分の目、すなわち視覚から得ている。つまり、視覚で知覚できるからこそ信じられるのであり、その逆は難しいのだ。
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《そして貴方様は、魔力があり、法術を使え、精霊を使役出来る唯一の人間です。》
ここで魔法の説明に戻らせて頂きます。魔法を使うには魔力が必要だと言いましたが、当然個人によって魔力値は違います。しかし一般的に「属性」はキマナーザ世界には存在しません。》
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へえ……と溜め息を洩らす。創作小説だと魔法に属性はつきものだったが。
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《個人の魔力の量により威力は変化しますし、上達具合によって使える魔法にも違いはあります。しかし属性という認識が存在しないため、あらゆる魔法を万人が使えるのです。
また、基本的に「人間」は身体能力と魔法のバランスは同じ位で、「亜人」は法術の扱いは群を抜いています。「獣人」は身体能力が高く、「魔人」は魔法に秀でていますね。「エルフ」は人によって不得手が違います。稀に極端に偏ったりもしますが、人間とさほど変わりはありませんね。》
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想像していたより格段に平和そうな世界だと総士郎は思った。魔法が使えないだけで迫害されたりはしないし全員が全員同じように魔法を使うことができる。身分の差はあるが、さほど問題らしい問題は少ないだろうと推測する。
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《ここでも具体的に数値化してみましょう。キマナーザにおける一般人の魔力量を百とした場合、魔人は二百前後ですし、法術師は十あれば高い方です。そして貴方様は百万です。》
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「……身体能力値と同じか。凄く覚えやすいのは有り難い……うん」
総士郎は目から滴る水を止めることが出来なかった。