追手の竜と青年 1
「すまない」
落ち着いたバシレウスが、ヴェルリスに言った。
(何がだ?)
ヴェルリスが首を傾げながら言った。
バシレウスは一瞬呆け、すぐに笑みを浮かべた。
「いや、何でもない」
ヴェルリスは更に首を傾げる。
夕日の光を浴びて、紅蓮の鱗が輝く。
バシレウスは、ヴェルリスの仕草に笑みを深めた。
グオォォォォォォォォォ!
と言う鳴き声が、響いた。
地面に座っていたバシレウスは、慌てて立ち上がり、岩山の麓の森に向かって走り出した。
ヴェルリスもその後に付いて行く。
森に入ると、大きな茂みに身を隠した。
バサッバサッバサリ
と、羽ばたく音が聞え、地面に影が映った。
空を見ると、緑色の竜が翼を力強く動かしていた。
その竜の爪は金色で、夕日の光を反射してきらりと輝いていた。
しばらくすると羽ばたく音も聞こえなくなり、バシレウスとヴェルリスは茂みから出た。
(フレイル、あれは何だ?)
ヴェルリスの質問に、バシレウスは空を見上げながら答えた。
「竜の名前はアルキス。アルキスのライダーがローランだ。あいつ等は追手だ」
ヴェルリスの瞳がきらりと光った。
(悪魔を殺した?)
バシレウスは首を振り、否定した。
「ローランも闇の力に手を出したが、悪魔を殺してはいない。
悪魔を殺したのはビロンと言うやつだ」
バシレウスがそう言うと、別の声がした。
「フレイル、ビロン様を悪く言うとは…。ビロン様が刑を和らげてやろうとしていたのに…」
バシレウスが顔を歪め、声の主の名前を呼んだ。
「ローラン…」
声の主は緑の髪に、黄色い瞳の青年だ。
青年、ローランは眉をひそめた。
「なんだい、その口の利き方は。昔みたいに呼んでくれよ、フレイル」
バシレウスは鼻を鳴らしてローランを笑った。
「お前のような奴に、敬語を使う必要などないよ」
ローランは怒りに顔を歪めた。