最強?最弱?ユニークスキル【テンプレ】をゲットした俺は異世界で無双できるのか?
数ある作品の中から本作を開いていただき、本当にありがとうございます!
本作は、異世界ファンタジーにおける「お約束」をシステムとして利用し、主人公がメタ知識と力技で無双していく爽快な成り上がりストーリーです。
「ここでこういう展開が来るよな!」というWeb小説あるあるをたっぷり詰め込んでいますので、ぜひ主人公と一緒にテンプレ展開をしゃぶり尽くす感覚をお楽しみください!
目を覚ますと、見渡す限りの草原だった。
そよぐ風、草の匂い。そして目の前に浮かぶ、半透明のステータス画面。
【レベル:1】
【職業:なし】
【ユニークスキル:テンプレ】
「……なんだこれ」
過労で倒れた記憶が最後だ。どうやら王道の異世界転生を果たしたらしいが、伝説の聖剣も、全属性魔法の適性もない。あるのは【テンプレ】というふざけた名前の謎スキルだけ。
途方に暮れていると、ガサガサッと茂みが揺れた。
飛び出してきたのは、額に一本の角を生やした真っ白なウサギだった。
愛くるしい赤い目が、じっとこちらを見つめている。
「なんだ、最初は可愛いウサギか。おいで——」
俺がしゃがんで手を伸ばそうとした、その瞬間。
ピコンッ!
脳内に、無機質な電子音が響き渡った。
【テンプレイベント『初陣:異世界の洗礼と一角ウサギの突進』発生】
【クリア条件:直進してくる角の刺突を回避し、隙(硬直時間)を突いて討伐せよ】
【失敗条件:死亡】
「……は?」
次の瞬間、ウサギの愛くるしい赤い目が、完全に血走った。
キシャァァァァッ!! という両生類のような叫び声を上げ、ウサギが地を蹴る。
それはもはや動物ではなく、俺の心臓を一直線に狙い澄ました、毛玉の形をしたミサイルだった。
「うおぉぉっ!?」
頭で考えるより先に、【テンプレ】スキルの強制力が働いた。
『ここで避けないと死ぬ』という絶対的な直感が脳を支配し、俺は無様なほど全力で横にダイブした。
風切り音。
直前まで俺の顔があった空間を、鋭利な角が猛スピードで通り抜けていく。もし油断して手を伸ばしたままだったら、間違いなく腕ごと胸を貫かれていた。異世界の動物、殺意が高すぎるだろ!
ズドォンッ!!
突進を外した一角ウサギは、そのまま後方の太い木の幹に激突した。
深く突き刺さった角が抜けず、ウサギがジタバタと暴れている。
(……硬直時間!)
スキルの条件文が脳裏をよぎる。ゲームやラノベのお約束。大技を外した敵には、必ず隙ができる。
俺は泥だらけのまま立ち上がり、足元にあった手頃な石を掴んで駆け出した。
「ふざけるな! レベル1にやらせていい難易度じゃないだろ!」
ヤケクソの叫びと共に、動けないウサギの脳天に向かって石を全力で振り下ろした。
ピコンッ!
【テンプレイベント達成:評価S(チュートリアル完全クリア)】
【報酬:莫大な経験値ボーナスを獲得しました】
【レベルが1から5に上がりました。全ステータスに『成長限界突破』の補正がかかります】
【ドロップアイテム:一角ウサギの角、少しの肉】
光の粒子となって消滅したウサギの後に残されたのは、鋭い角と、綺麗にパックされた肉。
そして、全身から湧き上がるような万能感だった。
「はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」
その場にへたり込み、自分の手を見る。
ウサギ一匹でこれだ。ステータスが上がったとはいえ、この先どんな理不尽な魔物がいるか分かったもんじゃない。
だが、仕組みは理解した。
この【テンプレ】というスキルは、この世界に点在する「お約束の展開」を強制的に引き起こし、それを王道通りにクリアすることで莫大な恩恵を引っ張り出す能力なのだ。
「なら、やってやるよ。この世界の『お約束』を全部しゃぶり尽くして、最強になってやる」
俺はドロップアイテムを拾い上げ、遠くに見える城塞都市へと歩き出した。
異世界の最初の村(街)に向かったら、次にやるべきことは一つしかない。
目指すは『冒険者ギルド』だ。
平原を抜け、巨大な城壁に囲まれた街にたどり着いた俺は、迷うことなく『冒険者ギルド』の看板が掲げられた大きな建物の扉を押し開けた。
カランカラン、という無骨なベルの音。
中に入ると、昼間から安いエールをあおる荒くれ者たちの熱気と、脂の乗った肉を焼く匂いが充満していた。あちこちで武器が擦れる音が響き、ガハハと笑う粗野な声が飛び交う。
(おお……完璧にテンプレ通りの光景だ。匂いまで想像通りとは恐れ入る)
内心で感動しつつ、俺は受付カウンターへと向かった。
そこにはもちろん、お約束の『笑顔が眩しい美人受付嬢』が立っている。
「ようこそ、冒険者ギルドへ! 本日は新規のご登録でしょうか?」
「ああ。それと、ついでにこいつの買い取りもお願いしたい」
登録用紙に「レン」と名前を書き終え、俺は先ほど一角ウサギからドロップした『鋭角』と『上肉』をカウンターに置いた。
それを見た瞬間、受付嬢の目が驚きに大きく見開かれた。
「えっ!? これ、ホーンラビットの素材ですか!? しかも傷ひとつない最上品……。駆け出しの方が、一人で倒したんですか!?」
「まあ、運良く隙を突けただけだよ」
受付嬢の大きな声に、周囲の空気が少しだけ変わるのを感じた。
驚くのも無理はない。一角ウサギは初心者殺しの代名詞だ。それを丸腰に見える新人が、魔法も使わずに討伐したのだから。
「素晴らしいです! 素材の質も完璧ですので、特別ボーナスをつけて銀貨5枚での買い取りとなります!」
ポンッ、とカウンターに銀貨が積まれる。
俺がその銀貨に手を伸ばそうとした、その時だった。
「おいおい、どこの乳臭いガキかと思えば。たまたま罠にでも掛かったウサギを拾って、冒険者気取りかぁ?」
背後からドンッと肩を強く小突かれ、俺は振り返った。
そこには顔に大きな傷のある、筋骨隆々のスキンヘッドの大男が、ニタニタと嫌な笑みを浮かべて立っていた。後ろにはニヤつく取り巻きらしき男が二人。
周囲の冒険者たちが「あーあ、またガストンの新人いびりかよ」「あのガキ、銀貨5枚も持ってるから目ぇつけられたな」とヒソヒソ声を漏らし始める。
「新人はギルドのルールを知らねぇようだな。先輩への『挨拶代』ってのがあるんだよ。その銀貨と、持ってる荷物を全部置いていきな。そうすれば、可愛がってやるよ」
(……完璧すぎるだろ、このテンプレ!)
もはや台本があるのかと疑うレベルの、美しいまでのカツアゲ展開だ。
——ピコンッ!
その時、脳内にあの無機質な電子音が響いた。
目の前の空間に、赤いウィンドウが乱入してくる。
【テンプレイベント『冒険者ギルドの洗礼』発生】
【クリア条件:脅威の無力化】
今回はたったの一文。だが、これで十分だ。
俺はあえて、ラノベで読んだ通りの『余裕のあるクールな返し』を実践してみた。
「悪いが、今はクエストの報告中だ。それに、あんたみたいな三流に払う『挨拶代』は持ち合わせてない」
途端に、ガストンの顔がみるみる怒りで真っ赤に染まった。
「……生意気なガキが! 冒険者の厳しさを俺様が教えてやる!!」
怒号と共に、丸太のような太い腕が俺の顔面に向かって豪快に振り抜かれた。
素手とはいえ、巨漢の全力のパンチだ。まともに食らえば首の骨が折れかねない。
(来る——!)
レベル1から5に上がり、【成長限界突破】のステータス補正がかかっている俺の身体能力なら、ギリギリ反応できる。
酒の入った大振りのパンチ。俺は飛んでくる拳に対し、反撃の意思を見せず、半歩だけスッと後ろに下がってその一撃を空振りさせた。
「なっ……!? ちょこまかと!」
自分のパンチが空を切ったことに体勢を崩し、逆上した男が腰の剣に手をかけようとした、その瞬間だった。
「——そこまでにしておけ、ガストン。ギルド内で剣を抜く気か?」
凛とした、しかし絶対的な威圧感を伴う声がギルド内に響き渡った。
いつの間にか、俺と大男の間に一人の人物が割って入っていたのだ。
白銀の軽鎧を身に纏い、腰には見事な装飾の細剣を提げた、燃えるような赤髪の女剣士。
「あ、Aランクの『紅蓮』のセリア……!」
大男の顔からサッと血の気が引くのが分かった。
Aランク。それはこの街の冒険者の中でも頂点に近い存在だ。
「新人の持ち物を横取りしようとした挙句、避けられて逆上とは見苦しい。ギルドマスターに報告されたくなければ、さっさと自分の席に戻れ」
「チッ……覚えてろよ、ガキ!」
捨て台詞を吐いて、逃げるように去っていく大男たち。
ギルド内に安堵の空気が流れる。
——ピコンッ!
【テンプレイベント達成:評価S(高ランク冒険者の介入フラグ回収)】
【報酬:大量の経験値ボーナスを獲得しました。レベルが5から8に上がりました】
【特典:新規スキル『回避行動(小)』を獲得しました】
脳内に流れるファンファーレを聞きながら、俺は内心でガッツポーズをした。
クリア条件の「無力化」。それは自分で殴り倒すことだけが正解ではない。こうして強者の介入を誘発させ、ノーダメージで状況を収拾するのも立派な「無力化」だ。
男たちを見送った後、赤髪の女剣士——セリアはこちらを振り向き、興味深そうに俺の顔を見つめた。
「怪我はないか、新人。……それにしても、今のはいい動きだったな。ガストンの拳を、無駄な動きを一切せずに最小限の歩法で躱すとは」
「いえ、たまたま運が良かっただけですよ」
「謙遜しなくていい。私の名前はセリアだ。君の名前は?」
「レンです。今日から冒険者になります」
どうやら俺の無双生活は、この上なく順調な——そして最高にテンプレなスタートを切ったらしい。俺は差し出されたセリアの細く白い手を、しっかりと握り返した。
セリアさん、仲裁に入っていただいて助かりました。実は俺、今日この街に着いたばかりで……どこか、初心者向けの手頃な宿屋を知りませんか?」
俺が尋ねると、セリアはパッと表情を柔らかくした。
「そういうことなら、ギルドの裏通りにある『踊る麦亭』が良い。あそこの女将のマーサは元Bランクの冒険者でな。新人の面倒見が良くて、何より飯が美味いぞ」
「元高ランク冒険者の女将……! 最高の宿ですね。行ってみます」
俺はセリアに礼を言い、ギルドを後にした。
(元実力者の女将が経営する宿屋。これまた見事なまでのテンプレ物件だ。情報収集の拠点としてはこれ以上ない)
教えられた通りに裏通りを歩くと、すぐに木造の温かみのある建物が見つかった。
中に入ると、エプロン姿のふくよかで快活な女性——女将のマーサが「いらっしゃい!」と声をかけてきた。
「ギルドのセリアさんに紹介されて来ました。一泊、夕食と朝食付きでお願いします」
「おや、セリアの紹介かい? なら、サービスして銀貨1枚でいいよ。ほら、空いてる席に座りな!」
俺は一角ウサギの買い取りで得た銀貨を支払い、食堂の席についた。
運ばれてきたのは、少し硬めの黒パンと、ゴロゴロとした肉と野菜が煮込まれた熱々のシチュー、そして木の実のサラダだった。
(異世界最初の飯といえば、やっぱり硬いパンとシチューだよな)
一口食べると、素朴だが肉の旨味が溶け込んでいて、疲れた身体に染み渡るように美味かった。
前世のコンビニ弁当ばかりの生活を思い出し、少しだけ泣きそうになりながら完食する。
部屋に案内されると、そこには簡素なベッドと小さな机しかなかったが、シーツは清潔で太陽の匂いがした。
俺はベッドに倒れ込み、ステータス画面でレベル8になった自分の能力値を確認しながら、泥のように深い眠りについた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
1階の食堂で目玉焼きとスープの朝食を済ませた俺は、厨房にいるマーサに声をかけた。
「女将さん。俺、まだちゃんとした武器を持ってなくて。初心者がぼったくられずに買える、いい武器屋を知りませんか?」
マーサは皿を拭く手を止め、ニヤリと笑った。
「あんた、運がいいね。東の職人街の路地裏にある『黒鉄の槌』って店に行きな。ドワーフのガンコ親父がやってる店で、愛想は最悪だけど、腕と見立ては街で一番だよ」
——ピコンッ!
その瞬間、俺の脳内に小気味良い電子音が鳴った。
【テンプレイベント『情報収集:凄腕で頑固なドワーフの鍛冶師』のフラグを獲得しました】
【恩恵:対象の店舗での交渉に微小な補正がかかります】
(よっしゃ! やっぱり酒場や宿屋の女将は、隠れた名店を知っているというテンプレ通りだ!)
俺は心の中でガッツポーズをした。
ただ闇雲に街を歩き回るより、こうしてNPC……いや、この世界の住人からしっかりフラグ(情報)を引き出すことで、スキルの恩恵まで受けられるのだ。
「ありがとうございます! 行ってみます」
「ああ、親父を怒らせないように気をつけなよ!」
マーサに見送られ、俺は朝の活気に満ちた街へと足を踏み出した。
まずは職人街へ向かい、ドワーフの親父から「おっ、新人にしては良い目をしてやがる」と言わせるような武器を手に入れる。
そして、そのまま冒険者ギルドへ向かい、記念すべき『最初のクエスト(薬草採取か、ゴブリン討伐あたりだろう)』を受注するのだ。
(さて、今日はどんなテンプレが俺を待っているのか……!)
胸の高鳴りを抑えきれないまま、俺は武器屋を目指して路地裏へと歩を進めた。
最強への道程は、この『お約束』の積み重ねの先にあるのだから。
東の職人街は、朝からカンカンと鉄を打つ音が響き渡り、むせ返るような熱気に包まれていた。
女将のマーサに教えられた通り、路地裏の奥へと進むと、煤けた看板に『黒鉄の槌』と書かれた薄暗い店を見つけた。
扉を開けると、そこは所狭しと武具が並ぶむさ苦しい空間だった。
カウンターの奥では、立派な髭を蓄えた筋骨隆々のドワーフの親父が、火の入った炉の前で腕を組んでこちらを睨みつけていた。
「なんだ、冷やかしか? うちにゃあ、駆け出しのお坊ちゃんが振り回すようなオモチャは置いてねぇぞ」
(おおっ……! これぞドワーフの鍛冶師、完璧な第一声!)
「『踊る麦亭』のマーサさんに、街で一番腕のいい鍛冶師がいると聞いて来ました。俺のなけなしの金でも買える、実戦に耐えうる武器が欲しいんです」
俺がそう答えると、ドワーフの親父はピクリと眉を動かした。
「……マーサの紹介か。フン、あのお節介女め。まあいい、俺は店主のゴルドだ」
ゴルドは顎で、店の隅に置かれた大きな木樽をしゃくった。
「駆け出しが持ってる金なんて、たかが知れてるだろう。その樽の中には、型落ちや少し重くて誰も買わなかった『訳あり品』が突っ込んである。そこから好きなのを一本選べ。銀貨3枚で持ってっていいぞ」
——ピコンッ!
その瞬間、俺の脳内に期待通りの電子音が鳴り響いた。
【テンプレイベント『ドワーフの武具屋:埋もれた名剣(掘り出し物)』発生】
【概要:無造作に置かれたガラクタの中から、主人公だけが『真の価値』を見抜き、頑固な店主に一目置かれる王道イベント】
【クリア条件:樽の中から、最もポテンシャルの高い武器を引き当てろ】
(来たぜ、武器調達の最強テンプレ! ここはピカピカの新品じゃなくて、あえて『薄汚れた重い剣』を選ぶのが正解ルートだ!)
俺は意気揚々と樽の前に立ち、中を漁り始めた。
綺麗な装飾の細剣や、使いやすそうな軽い鉄剣には目もくれない。俺が探しているのは『見た目は悪いが、実は凄い素材で打たれたロマン武器』だ。
樽の底の方から、一本の剣を引きずり出す。
装飾は一切なく、刀身は艶のない漆黒。そして何より、片手剣のサイズでありながら、両手剣かと錯覚するほど異様に重い。
「親父さん。俺、これがいい」
俺がその黒い剣をカウンターに置いた瞬間、ゴルドの目がカッと見開かれた。
「……お前、本気で言ってるのか? そいつは『黒鋼』を混ぜて俺が打った失敗作だ。頑丈さだけは一級品だが、重すぎて並の剣士じゃまともに振れねぇ。他のやつにしとけ」
ゴルドは呆れたように止めてきたが、俺は内心ガッツポーズをしていた。
(ほらキタ! 頑丈で重すぎる失敗作! これこそ後々、俺の異常なステータスと噛み合って最強の相棒になるパターンのやつだ!)
「いや、不思議と手に馴染むんです。ちょっと振ってみても?」
俺はゴルドの許可を得て、その場から少し離れ、黒鋼の剣を軽く片手で振ってみた。
ブンッ!!
鋭く重い風切り音が店内に響く。
レベル8に上がり、【成長限界突破】の恩恵で筋力ステータスが跳ね上がっている今の俺にとっては、この重さがむしろ遠心力を生んでちょうど良く感じられた。
「なっ……!?」
ゴルドが持っていた手入れ用の布をポトリと落とし、あんぐりと口を開けた。
「そいつを、片手でそんな軽々と……。お前、いったいどういう腕力してやがる……」
「やっぱりこれ、最高です。銀貨3枚でいいんですよね?」
俺が笑顔で念を押すと、ゴルドはしばらく俺と剣を交互に見つめ、やがて「カッカッカッ!」と豪快に笑い出した。
「面白ぇ! そいつをそんな風に振れる奴が現れるとはな。いいだろう、そいつはお前のモンだ。だが、手入れを怠って刃こぼれでもさせたら、俺が直々に叩き直してやるからな!」
——ピコンッ!
【テンプレイベント達成:評価S(頑固職人からの信頼獲得)】
【報酬:経験値ボーナスを獲得。レベルが8から10に上がりました】
【ドロップ(購入)アイテム:『黒鋼の無骨剣(成長型)』を獲得しました】
【恩恵:『黒鉄の槌』での武具修理・購入が永続的に割引されます】
(よっしゃあああ!! 成長型の武器ゲット!! しかも割引フラグまで!)
「ありがとうございます、ゴルドさん! 大事に使わせてもらいます」
銀貨3枚を支払い、俺は最高の気分で『黒鉄の槌』を後にした。
手には、ずっしりと頼もしい黒鋼の剣。
装備は整った。情報も集めた。
「さて、いよいよ冒険者稼業の初仕事だ」
俺は足取りも軽く、冒険者ギルドへと向かった。
最初のクエストといえば、薬草採取か、それともゴブリン討伐か。
テンプレの神様が次にどんなお約束を用意しているのか、楽しみで仕方なかった。
ギルドに戻った俺は、クエストボードの前に立った。
初心者向けの依頼といえば『薬草採取』と『ゴブリン討伐』。効率厨の基本テンプレに従い、俺は迷わず二つの依頼を同時に受注した。
街を出て、近郊の『迷いの森』へと足を踏み入れる。
まずは薬草採取だ。
——ピコンッ!
【クエスト進行支援:対象アイテムをハイライト表示します】
「うおっ、親切設計すぎるだろ」
視界の中で目的の薬草だけが黄色く発光し、わずか10分で採取完了。
続いて現れた五匹のゴブリンも、ドワーフの親父から買った『黒鋼の無骨剣』を横薙ぎに一閃しただけで、巻き起こった突風のような衝撃波に巻き込まれ、あっけなく全滅した。
——ピコンッ!
【通常討伐完了:経験値を獲得しました】
【レベルが10から12に上がりました。筋力値が上昇しました】
「おっ、通常戦闘でもちゃんと上がるんだな。テンプレイベントほどじゃないが、悪くないペースだ」
レベルアップの万能感を味わいながら森の出口へ向かいかけた時、遠くから金属が激しくぶつかり合う音と、女性の悲鳴が聞こえてきた。
(……悲鳴? しかも、このパターンは……!)
音のする方へ駆け出し、茂みの陰から覗き込む。
そこには、豪華な馬車と血を流して倒れる護衛の騎士たち。そして、粗野な野盗の群れに囲まれ、震えながら身を寄せ合う金髪の美少女の姿があった。
「ヒャッハー! こいつは上玉だぜ! どこぞの貴族のお嬢様と見た!」
下卑た笑いを浮かべる、顔に傷のある野盗のリーダー格。
——ピコンッ!
【テンプレイベント発生:『野盗襲撃と貴族令嬢』】
【クリア条件:対象の救出および脅威の排除】
簡素なシステムの文字。だが、俺には痛いほど分かっていた。
(キタキタキタァ!! 絶体絶命のヒロインの前に颯爽と現れ、圧倒的な力で悪漢を蹂躙し、強力なコネを獲得する超黄金テンプレ!!)
俺は興奮を抑えきれず、茂みから堂々と姿を現した。
「やめろぉ! お嬢様に指一本でも触れてみろ!」
「うるせぇ! まずはお前から——」
「——そこまでだ、三下ども」
俺は野盗と令嬢の間に、音もなく着地した。
肩に黒鋼の無骨剣を担ぎ、前世で何百回と脳内でシミュレーションした『最高にクールな登場』を決める。
「な、なんだテメェは! どっから湧いて出た!?」
「ただの通りすがりの冒険者さ。そのお嬢さんから離れてもらおうか」
「ふざけやがって、殺せ!」
リーダーの号令で、十人近い野盗が一斉に斬りかかってくる。
(遅いな。ゴブリンと大差ない)
俺はゴブリン討伐でレベル12に上がったばかりの筋力と、『黒鋼の無骨剣』の圧倒的な重量に任せ、迫り来る野盗たちの武器ごと、大剣を力任せに振り抜いた。
ガガガギィィィンッ!!
「「「ぎゃあぁぁぁっ!?」」」
俺の剣に触れた野盗たちの粗悪な剣は飴細工のように砕け散り、彼らはまとめて森の木々まで吹き飛ばされ、一撃で全員が気を失った。
静まり返る森の中。
令嬢が、涙ぐんだ大きな瞳で呆然と俺を見つめている。
——ピコンッ!
【テンプレイベント達成:評価SSS(圧倒的武力による無傷救出)】
【報酬:莫大な経験値を獲得。レベルが12から18に上がりました】
【特典:新規スキル『威圧』『王都への通行証』を獲得しました】
(よっしゃ! 一気にレベルアップ&王都フラグ回収!)
「あ、ありがとうございます……。貴方様は、いったい……?」
ドレスの裾を握りしめ、震える声で尋ねてくる美少女。
俺はゆっくりと剣を背中に納め、ニヤリと笑って答えた。
「レン。ただの、しがない新人冒険者ですよ」
令嬢と負傷した騎士たちを無事に街の治療院まで送り届けた俺は、そのまま一人で冒険者ギルドへと向かった。
扉を開けると、相変わらず荒くれ者たちが酒を飲んで騒いでいる。俺は一直線に受付カウンターへ向かい、薬草とゴブリンの討伐部位を提出した。
「依頼完了です。確認をお願いします」
「はい、レンさんですね! ……って、ええっ!? もう終わらせてきたんですか!?」
受付嬢が目を丸くする。初心者が森の探索とゴブリン討伐を数時間で終わらせて無傷で帰ってくるのは、通常ではあり得ないペースらしい。
周囲の冒険者たちが「どうせこっそり逃げてきたんだろ」「初心者が調子に乗りやがって」とヒソヒソと嘲笑する声が聞こえてくる。
(ふふっ、笑っていられるのも今のうちだぜ)
俺が内心でほくそ笑んでいると、ギルドの外からガチャガチャと重々しい金属音が近づいてきた。
やがて、ギルドの扉が勢いよく開かれ、この街の治安維持を担う領主軍の兵士たちが数名、慌ただしく入ってきた。
騒がしかったギルドが、水を打ったように静まり返る。
「な、なんだ? 領主様直属の兵士がなんでギルドに……!」
冒険者たちが道を開ける中、兵士たちに守られながら進み出てきたのは——俺が森で助けた、あの金髪の令嬢だった。治療院で最低限の汚れを落としたのか、身なりは整えられているが、その表情には焦燥と興奮が入り混じっている。
「レン様! ああ、良かった。まだギルドにいらしたのですね!」
令嬢はまっすぐにカウンターの俺の元まで歩み寄ると、周囲の目も気にせず、深々と頭を下げた。
「先ほどは野盗から私や騎士たちを救っていただき、本当にありがとうございました。貴方様の圧倒的な剣技がなければ、私は今頃どうなっていたか……」
「い、いや、俺はただの通りすがりの——」
「ただの冒険者に、十人規模の凶悪な野盗団を一瞬で無力化できるはずがありません。貴方様は、本物の英雄です」
ギルド内が、爆発したような騒ぎになった。
『じゅ、十人の野盗団を、あの新人が一人で!?』
『しかも公爵令嬢の命の恩人だと!?』
『ふざけんな、あいつ昨日登録したばっかりだぞ!!』
俺を嘲笑していた冒険者たちの顔が、信じられないものを見るように引き攣っている。奥のテーブルでは、先日俺を庇ってくれたAランクのセリアまでが、あんぐりと口を開けて呆然としていた。
——ピコンッ!
【テンプレイベント『英雄の凱旋(周囲の掌返し)』達成】
【報酬:経験値ボーナスを獲得。名声値が大幅に上昇しました】
(くぅ〜ッ! これだよこれ! 俺が本当にやりたかったのは、この強烈な『周囲の驚き(ざまぁ)』なんだよ!)
脳内に鳴り響くファンファーレを聞きながら、俺はクールな表情を崩さないよう必死に堪えていた。
「レン様。もしよろしければ、王都からの迎えの馬車が到着次第、私と一緒に王都へ来ていただけませんか? 父である公爵も、必ず貴方様を厚く歓待いたします」
令嬢の頬が、ほんのりと朱に染まっている。
断る理由など、どこにもなかった。
俺のステータス画面の『特典』の項目には、先ほどシステムから付与された【王都への通行証】がしっかりと刻まれているのだから。
「ええ、喜んで。俺も、王都には行ってみたいと思っていたところです」
俺がそう答えると、令嬢は花が咲いたような眩しい笑顔を見せた。
こうして俺の異世界冒険の第一歩は、最高級のコネクションと圧倒的な名声と共に、王都への旅立ちという形で幕を開けるのだった。
ガタゴトと、規則正しい馬車の揺れが心地よい。
俺は今、クリステル公爵家の紋章が刻まれた最高級の馬車に揺られ、王都へと向かう街道を進んでいた。
「レン様、長旅お疲れ様でした。そろそろ王都が見えてまいりますわ」
向かいの席に座る公爵令嬢——アリシアが、窓の外を指差して微笑む。
その視線の先には、辺境の街とは比べ物にならないほど巨大で、天を衝くような白い城壁がそびえ立っていた。
「すごいな……あれが、王都」
「はい。この国で最も大きく、最も華やかな場所です。レン様のような素晴らしい実力を持ったお方が活躍するには、ぴったりの舞台かと」
アリシアの言葉に頷きながら、俺はこっそりと空中に半透明のステータス画面を呼び出した。
【名前:レン】
【レベル:18】
【職業:冒険者】
【ユニークスキル:テンプレ】
【取得スキル:成長限界突破、物理耐性アップ(小)、回避行動(小)、威圧】
【特典:王都への通行証】
【装備:黒鋼の無骨剣(成長型)】
異世界に転生してきてから、まだ数日。
たったそれだけの期間で、俺のステータスは序盤の村人Aから、中堅のベテラン冒険者を凌駕するレベルにまで跳ね上がっていた。
すべては、この【テンプレ】スキルがもたらした「お約束」をしゃぶり尽くしてきた結果だ。
(だが、辺境の街で回収できたお約束なんて、異世界ファンタジー全体から見ればほんの序章に過ぎない)
王都。
それは、ラノベやネット小説における『超大型イベント』の温床だ。
権力を使って平民を見下す腐敗貴族。
なぜか主人公にだけ興味を持つ、ワガママな王女や聖女。
実力主義の魔法学園での入学試験や、国中が熱狂する武術大会。
そして、もしかしたら現れるかもしれない『魔王軍』の幹部たち——。
「……最高じゃないか」
俺は思わず、ニヤリと口角を上げてしまった。
これから待ち受けているであろう無数の『テンプレ』イベント。それを知恵とメタ知識、そして圧倒的な暴力でへし折り、誰よりも美しくクリアしてやる。
——ピコンッ!
王都の正門をくぐろうとしたその瞬間、俺の脳内に、これまでで一番大きく、期待に満ちた電子音が鳴り響いた。
【メインストーリー『王都編:蠢く陰謀と王立学園』が解放されました】
【新たなテンプレイベントの気配を多数検知。準備はよろしいですか?】
システムからの問いかけに、俺は心の中で力強く応えた。
(ああ、いつでも来い。俺が全部、王道通りに無双してやるよ)
こうして、謎のユニークスキル【テンプレ】と共に始まった俺の異世界生活は、新たな舞台へと突入した。
最弱の平民から始まり、やがて世界最強の存在として歴史に名を刻む俺の冒険は、まだ始まったばかりだ。
【了】
最後までお読みいただきありがとうございました!
最弱の平民スタートから、お約束の「ウサギ討伐」「ギルドでの新人いびりからの実力者介入」、そして「貴族令嬢の救出」と、王道テンプレをフル活用して一気に成り上がったレン。
次なる舞台「王都」では、さらにスケールの大きい(そして厄介な)お約束イベントが彼を待ち受けています!
「この先も読んでみたい!」「テンプレ展開の回収がスカッとした!」と少しでも楽しんでいただけましたら、ぜひページ下部より【ブックマークの追加】や、【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしての評価をいただけますと、今後の執筆の大きなモチベーションになります!
ご感想や「こんなテンプレ展開が見たい!」といったコメントもお待ちしております。
引き続き、レンの無双劇をよろしくお願いいたします!




