表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生、千里を駆ける〜乱世最速の男の三国戦記〜【第一部】  作者: トベ・イツキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/28

第十九話 張飛(二)

「おい、張飛(ちょうひ)


 何をしている!」


 そこに現れたのは僕らの大将・劉備(りゅうび)であった。劉備(りゅうび)は僕から無理に愛馬・彗星(すいせい)を奪い取ろうとする張飛(ちょうひ)を一喝して窘めた。

 劉備(りゅうび)の側には、いつの間に姿を消していた簡雍(かんよう)が立っている。どうやら、彼が劉備(りゅうび)を呼んできてくれたようだ。


「あ、兄貴……」


 自身の敬愛する兄貴の登場に、張飛(ちょうひ)は一転、萎縮(いしゅく)してしまった。


「お前が奪い取ろうとしているその馬は劉星(りゅうせい)の愛馬だ。


 張飛(ちょうひ)、何故、そんな真似をする」


 劉備(りゅうび)に睨まれ、張飛(ちょうひ)()ねた子供のような顔で、伏し目がちに答えた。


「だってよ、生意気じゃないか!


 この軍で馬持ちなのはまだ兄貴だけだぜ!


 それなのに二人目の馬持ちが、あんな玩具付けなきゃ馬にも乗れないような奴なんて納得出来ねーぜ!」


 そう言って張飛(ちょうひ)は僕の吊るした(あぶみ)を指差した。この時代にはまだ馴染みの薄い(あぶみ)が、彼には玩具にしか見えないようだ。


 だが、劉備(りゅうび)には既に(あぶみ)の良さを語って聞かせている。彼は(あぶみ)の重要性を理解してくれていた。


「その器具は馬をより円滑に乗りこなすためのものだ。完成したら俺の分も作ろうかと思ってたくらいなんだぞ」


 張飛(ちょうひ)は説教された子供のように縮こまりながらも、それでもなおも悪態をつく。


「兄貴!


 なんでこんな新参の肩ばかり持つんだよ!」


 もはや駄々っ子のような文句だ。どうやら張飛(ちょうひ)は俺への擁護が一番気に入らなかったようだ。


「訳アリの奴なんだ。配慮してやるくらいいいだろう。別に劉星(りゅうせい)にだけ特別なわけではないだろう」


 劉備(りゅうび)も呆れたような口調でそう答える。しかし、気に入らない張飛(ちょうひ)はなおも叫ぶ。


「とにかく、コイツの馬術は兄貴が目をかけてやるほどのもんじゃねー!


 俺の方がよっぽど馬に乗れるぜ!


 こんな奴じゃなくてオレに馬をくれよ!」


 張飛(ちょうひ)は駄々っ子のようにとにかく馬を要求してくる。それに対して簡雍(かんよう)は反対に尋ねた。


張飛(ちょうひ)、おめぇ、馬なんか乗れたのか?」


「舐めんじゃねーぜ!


 お前らが遠征している間に牛に(またが)って何度も練習したぜ!」


 張飛(ちょうひ)は得意げに胸を張ってそう答える。それには簡雍(かんよう)も呆れた様子でため息混じりに聞き返す。


張飛(ちょうひ)、あのな、馬に跨がれても、乗った事にはならないんだぜ」


「何だと!


 オレが馬に乗れねーってか!」


 張飛(ちょうひ)は顔を真っ赤にしながら、今度は簡雍(かんよう)に食ってかかる。

 もはや、誰にでも喧嘩を売りそうな勢いに、劉備(りゅうび)も声を上げて止めに入った。


「わかった。


 張飛(ちょうひ)、お前は劉星(りゅうせい)と馬で競争しろ。


 もし、劉星(りゅうせい)に勝てたら……劉星(りゅうせい)の馬はやれねぇが、代わりにお前専用の馬買ってやるよ」


 専用馬を買ってやる。この一言で張飛(ちょうひ)は目の色を変えて跳び上がった。


「ホントか、兄貴!」


 犬のように無邪気に喜ぶ張飛(ちょうひ)に対して、劉備(りゅうび)からさらに追加で条件が出された。


「その代わりもし負けたら、この劉星(りゅうせい)から馬術を習え」


「え、コイツから?」


 張飛(ちょうひ)は僕の方に振り返りながら不満な声を()らす。それに劉備(りゅうび)はにじり寄って問い詰める。


「やるのか、やらねーのか?」


「や、やってやるぜ!」


 張飛(ちょうひ)の了解の一言を得ると、劉備(りゅうび)はニヤリと笑って僕方へと振り返った。


「というわけだ。悪いが張飛(ちょうひ)と一勝負してくれ。


 もし、お前が勝てたら、その(くら)(あぶみ)の代金を俺が持ってやるから」


 厄介なことになった。まさか、あの張飛(ちょうひ)と勝負することになるなんて。相手は三国志を代表する豪傑・張飛(ちょうひ)だ。これが一騎討ちならまず勝ち目はないだろう。


 しかし、馬でのレースとなれば話は違う。僕は元プロのジョッキー、レースは僕の本業だ。負けるわけにはいかない。しかも、勝てば(くら)(あぶみ)が手に入るとあっては、勝たないわけにはいかない。


 勝負が決まると、わらわらと劉備(りゅうび)軍団の面々が集まってきた。僕らは彼らを従えて楼桑里(ろうそうり)の村門の前へと場所を移した。


 村の前には広々とした荒地がどこまでも広がっている。これなら馬でいくらでも走れそうだ。


 僕が乗るのはもちろん、月毛(つきげ)の愛馬・彗星(すいせい)だ。装備には直したばかりの(くら)と木製の(あぶみ)を着用している。


 今回のレースはこの直したばかりの(くら)(あぶみ)の試運転を兼ねている。基本を意識した乗り方を心がけよう。


 馬は左側より乗る。手綱と(たてがみ)を掴み、左(あぶみ)に足を掛けて、一気に体を持ち上げる。そこから馬を跨ぐ。この時、馬を蹴らないように注意する。(たてがみ)から手を離し、両手でしっかりと手綱を持つ。そして、右足を右(あぶみ)に入れてば乗馬姿勢の完成だ。


 対する張飛(ちょうひ)はまだ愛馬がないので、劉備(りゅうび)青毛(あおげ)の愛馬・驪龍(りりゅう)を借りての参戦だ。こちらは(あぶみ)は未装着。しかし、よく見ると(くら)簡雍(かんよう)の言っていた硬質のものになっている。


 気位の高さそうな驪龍(りりゅう)は始め、主ではない張飛(ちょうひ)を乗せるのに渋っている様子であった。だが、劉備(りゅうび)が頼むと、渋々その場に(うずくま)り、張飛(ちょうひ)をその背に乗せた。


 なるほど、足を掛ける(あぶみ)が無いから、一度馬を座らせないと乗れないのか。(あぶみ)がないのだから当然乗り方も変わってくるか。


「よし、二人とも準備はいいな」


 これにて両者が揃った。張飛(ちょうひ)とのレースの始まりだ。


「お前たち、あそこの木が見えるな」


 劉備(りゅうび)が向こうにある一本の大木を指差した。ここからなら1キロちょっとくらいの距離だろうか。周りに他に木はないので一目でわかる。


「ここから出発し、あの木を折り返して、またここまで戻ってこい。


 先に辿り着いた方の勝ちだ。木の周りにも人をやっとくからズルはするなよ」


 あの木まで行って帰ってくる。往復で2キロ。競馬でいうと中距離走だ。特に障害もない平坦な道。これなら問題なさそうだ。


「では、二人とも位置につけ」


 僕らは地面に書かれた線の手前に並んだ。


 合図用にと、戦場で使っていた太鼓が引っ張り出されてきた。両者が揃ったところで、簡雍(かんよう)が馬が驚かない程度の音量でドンと太鼓を叩いた。


 それを合図に、僕と張飛(ちょうひ)はほぼ同時に前に飛び出した。


「さあ、彗星(すいせい)、いよいよ勝負だ。


 だが、焦る必要はない。いつも通りに行こう」


 今更、この程度の中距離を走るのは、彗星(すいせい)にとって何の問題もないだろう。僕はそう彗星(すいせい)に声をかけ、首元を撫でた。


 今回のレースは基本に忠実な乗馬がテーマだ。


 まずは背筋をまっすぐ伸ばす。横から見て、頭、肩、尻、(かかと)が一直線に並ぶのが良い乗馬の姿勢だ。太ももを馬に密着させて挟む。そして、足は八の字を意識する。


 競馬のジョッキーの乗馬というと、(あぶみ)の長さを短くして、尻を(くら)から離して前傾姿勢での乗り方が主流だ。この乗り方をモンキー乗りという。

 このモンキー乗りは騎手の体重が前方に掛かり、馬の負担が少なく、スピードが出やすいという利点がある。

 しかし、今回はモンキー乗りは封印だ。モンキー乗りは(くら)ではなく、(あぶみ)に全体重を預ける乗り方だ。強度に問題のあるこの(あぶみ)でとても出来る乗り方ではない。


(あぶみ)に体重を掛け過ぎては壊れてしまう。


 (くら)と左右の(あぶみ)、この三点にバランス良く体重が分散することを意識して乗ろう」


 僕は足で彗星(すいせい)の腹を押して合図を送り、徐々にそのスピードを上げていった。


 僕らはそのまま何事もなく折り返し地点へとやってきた。その周囲には祖達ら観戦中の劉備(りゅうび)軍の面々が数名並び、ヤンヤヤンヤと喝采を浴びせる。僕らは木をグルリと周り、元来た道を戻って行った。


 折り返すと張飛(ちょうひ)と向かい合わせの形となる。僕らを真正面に見て、張飛(ちょうひ)は焦りを見せて、より驪龍(りりゅう)の手綱を強く引いた。


「おい、驪龍(りりゅう)、急げ!


 このままじゃ負けちまうぜ!」


 そう言うと張飛(ちょうひ)は、思いっきり驪龍(りりゅう)の馬体を締め上げた。張飛(ちょうひ)の怪力に締め上げられ、驪龍(りりゅう)は驚いき、苦しそうな様子を見せた。


 その瞬間の表情を見て、僕はすぐに危険に気づいた。


「あのやり方はまずい!


 張飛(ちょうひ)、それ以上締め上げるのはやめるんだ!」


「うるせぇ!


 お前の言葉なんか聞かねぇ!」


 張飛(ちょうひ)は聞く耳を持たない。

 しかし、ついに耐えられなくなったのか、驪龍(りりゅう)は勢いよく前脚を跳ね上げ、立ち上がった。


「うわー!」


張飛(ちょうひ)!」


 《続く》

ここまでお読みいただきありがとうございます。


感想やご意見などいただけると、とても励みになります。


本作は別の場所でも掲載を行っておりますが、内容自体は同一のものとなっております。更新状況などに多少の違いがある場合がありますので、もしご興味があれば作者のプロフィール及び(ツイッター)アカウント等もご参照ください。


トベ・イツキ(ツイッター)アカウント

https://x.com/tobeitsuki

↑作者のtwitterアカウントです。


この作品の続きの話や三国志のことを話してます。よければよろしくお願いします。


引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ