↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生、千里を駆ける〜乱世最速の男の三国戦記〜【第一部】  作者: トベ・イツキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/28

第十七話 名付け

「そういや、劉星(りゅうせい)。


 お前の字(あざな)はなんだ?」


 劉備(りゅうび)が何気なく聞いてきたその発言に、僕は言葉を詰まらせた。


(字(あざな)というと姓名以外のもう一つの名前の事だよな。


 確か、名前を直接呼ぶのは失礼だから、普段は字(あざな)を使うんだったか。

 でも、詳しくは知らないんだよな。ましてや、どうやって名付けていいのかもわからない。


 適当な事言うわけにもいかないし、どうしたものか……)


 急に字(あざな)を聞かれても、そんな文化で育ってきてない転生者の僕は困ってしまう。前世で『三国志』を読んでいる時に、字(あざな)というのが出てきたので、そういう姓名以外の名前があるのは知っている。しかし、名付け方までは物語で紹介されなかったからわからない。


 僕が質問に答えることができずに、冷や汗を流して頭を掻(か)いていると、劉備(りゅうび)は察して再度尋ねてきた。


「お前、もしかして字(あざな)がないのか?」


 劉備(りゅうび)の問いかけに、隣の張飛(ちょうひ)が、そのどんぐり眼(まなこ)を見開いて聞き返した。


「兄貴、字(あざな)が無いなんてあるのか?」


「だいたいは成人した時に付けるが、家庭には様々な事情があるもんだ。


 ここは様々な事情を持った者が集まりやすい場だ。あまり責めてやるな」


 劉備(りゅうび)の言葉に、彼の弟分の張飛もそれ以上は言わなかった。劉備(りゅうび)の物分かりが良くて結果的に助かったようだ。


「しかし、劉星(りゅうせい)よ。字(あざな)はあった方が良いぞ。


 字(あざな)は名を尊重し、みだりに呼ばないために設けるものだ。


 俺たちの仲間内では、そこまで気にしないから名で呼んでも構いはしない。


 だが、今後、仲間内以外の人と話す機会は必ずある。そういう場には字(あざな)が必要になる」


 劉備の言う事も尤(もっと)もだ。この先、三国志の世界で生きていくなら字(あざな)は絶対に必要だ。

 しかし、問題もある。どうやって字(あざな)を決めていいのか全くわからない。


「でも、字(あざな)ってどうやって付けるんだ?」


 この時代にあっては割と非常識な質問だと思うが、劉備(りゅうび)は懇切丁寧(こんせつていねい)に答えてくれた。


「字(あざな)の多くは成人した時に親や縁ある年長者、または本人が直接付けたりする。


 その付け方は、古典に因(ちな)んだもの、本人の特徴や名に因(ちな)んだもの、兄弟で揃える、といった感じだな。


 例えば俺の『玄徳(げんとく)』は古典の『老子(ろうし)』に因(ちな)んだ言葉だ」


 続けてその弟分・張飛(ちょうひ)がすかさず答える。


「オレの『益徳(えきとく)』は劉備(りゅうび)の兄貴に因(ちな)んで付けた。


『兄貴の“徳”をより“益す”存在になる』という意味だ。


 オレが名付けた」


 張飛(ちょうひ)は鼻を膨らまし、得意そうにそう語った。


 さらにホロ酔い気味の簡雍(かんよう)が盃(さかづき)を置いて、一連の内容を説明するように語り出した。


「劉備(りゅうび)の大将のは古典に因(ちな)んだものだ。


 また、『玄徳(げんとく)』というのはあるような無いようなよくわからん徳を表す言葉だという。一応、本人の人間性も加味した命名だな」


 そう簡雍(かんよう)が語って聞かせると、皆一斉に大笑いを始めた。

「ハハハ、確かによくわからんな」「ちがいねーや」そんな事を口々に語っている。


 確かに僕もなんとなく劉備(りゅうび)に惹(ひ)かれてここまで来たので、彼らが笑うのとわからなくはない。劉備(りゅうび)のあるような無いようなよくわからない人徳が僕らを惹(ひ)きつけた。


 笑いが一通り終わったところで、簡雍(かんよう)が説明を再開した。


「まあ、なんだ。


 他の名に因(ちな)んだものだと、おれの名は簡雍(かんよう)。その名の『雍(よう)』にはやわらぐ、なごむという意味がある。字(あざな)の『和(わ)』の字にも同じ意味があって、それで命名した。


 こんな風に同じ意味の字を使うのはよくあることだ」


 そう話す簡雍(かんよう)に、何気ない疑問を僕は尋ねた。


「あなたの『憲(けん)』はどこから?」


 簡雍(かんよう)はヒヒと笑って答えた。


「ありゃ兄弟で揃えたんだよ。おれの兄弟は皆、字(あざな)に『憲(けん)』がつくんだ」









 その答えを聞いて、山と盛られていた干魚をほぼ平らげてしまった祖達(そたつ)が続けて話し出した。


「兄弟で揃えるというのは多いな。


 俺の『栄(えい)』は兄弟皆に付けられている。


 後は兄弟順に因(ちな)んだ字というのもある。


 長男は『伯(はく)』、次男は『仲(ちゅう)』、俺は三男だから『叔(しゅく)』だ。だから、俺の字(あざな)は『叔栄(しゅくえい)』だ」


 それに補足するように、お喋り好きの小柄な男・邵則(しょうそく)が会話に加わった。


「末っ子だと『季(き)』とか『幼(よう)』とか使ったりするね。


 私の『幼範(ようはん)』は末っ子だから付けられた字(あざな)だよ」


 皆、詳しく教えてくれる。しかし、兄弟の話をされても参考にならない。


「なるほど。参考にはなるけど、僕は一人っ子だからなぁ」


 その僕の言葉を聞いて大将・劉備(りゅうび)が締め括(くく)るように語ってくれた。


「後は字(あざな)でよく使われる字というのがあるな。


『子(し)』、『文(ぶん)』、『公(こう)』、それに『元(げん)』なんてのはよく使われるな」


「ん、『元(げん)』か……」


 劉備(りゅうび)からその話を聞いて、僕は前世を思い出した。


(僕の前世での名は『辰元流星(たつもと・りゅうせい)』。下の名の『流星(りゅうせい)』から、ここでの名を『劉星(りゅうせい)』とした。


 苗字はまだ使ってない。そして、苗字には『元(げん)』の字が使われている。これを音読みしたらそのまま字(あざな)になるんじゃないか?)


 僕は早速、その案を皆に伝えることにした。


「思い出したよ。そう言えば昔、親に字(あざな)を付けてもらってた。すっかり忘れてたよ」


 張飛(ちょうひ)は首を傾(かし)げて僕に聞き返してきた。


「お前、二十歳くらいだろ?


 そんな忘れるほど大昔に付けられたのか?」


 その問いに言葉を詰まらせかけたが、すぐに劉備(りゅうび)が助け舟を出してくれた。


「いや、字(あざな)はどうせ成人になれば名乗る事になるからな。


 家によっては生まれてすぐに字(あざな)まで命名する事もあるらしいぞ。


 それで、お前の字(あざな)はなんだ?」


 今回は劉備(りゅうび)に助けられてばかりだな。


 僕はコホンと咳(せき)払いして話し始めた。


「ああ、僕の字(あざな)は『辰元(しんげん)』。


 劉星(りゅうせい)、字は辰元(しんげん)。それが僕の名前だ」


 その回答に、劉備(りゅうび)は大きく頷(うなず)いた。


「なるほど。


『星辰(せいしん)』は星の並びを意味する言葉だな。名に関連した字(あざな)だ。


 では、これ以降はその名を名乗るようにしてくれ」


 これにて僕の字(あざな)が決定した。字(あざな)が付くと一層、三国志の登場人物になったような気分になる。


 最後に劉備(りゅうび)が注意事項を伝えてくれた。


「それと目上の人や立場のある人は字(あざな)で呼んでも失礼になる。


 その場合は姓に肩書がつけて呼ぶとよい」


「劉備(りゅうび)が破虜校尉(はりょこうい)の鄒靖(すうせい)さんを『鄒校尉(すうこうい)』と呼んでいたアレだね」


「そうだ。


 校尉(こうい)が複数人いるような場だと『鄒破虜(すうはりょ)』と呼んで区別する場合もあるぞ」


 これで字(あざな)の使い方もわかった。


 劉星(りゅうせい)、字(あざな)は辰元(しんげん)。これで僕も三国志の住民だ。


 そう盛り上がっている隣で、新たな火種が燻っていることを僕はまだ知らないでいた。


「この新入りの劉星(りゅうせい)って野郎。やたら劉備(りゅうび)の兄貴に肩入れされてんな。気に入らねぇ……気に入らねえぜ!」


 その鼻息を荒くした張飛(ちょうひ)に呟きに、僕はまだ気付いていなかった。


 《続く》

ここまでお読みいただきありがとうございます。


感想やご意見などいただけると、とても励みになります。


本作は別の場所でも掲載を行っておりますが、内容自体は同一のものとなっております。更新状況などに多少の違いがある場合がありますので、もしご興味があれば作者のプロフィール及びX(ツイッター)アカウント等もご参照ください。


トベ・イツキX(ツイッター)アカウント

https://x.com/tobeitsuki

↑作者のtwitterアカウントです。


この作品の続きの話や三国志のことを話してます。よければよろしくお願いします。


引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。