鎧、白くなる
ガストが出かけているあいだ、俺はと言うと、ガスト愛用の道具や炉を眺めたり、手に取ってみたりしている。
手入れが行き届いた良い鍛冶場だ。
なにかこう鍛冶師として腕をふるいたくなったが、、、
(鎧姿じゃ、それも無理か、、、)
だいぶと日が高くなってきたのか、店の外にちらほら人通りが窓越しに見えるようになった。
外からこちらを覗かれでもしたら厄介なので、店の奥の工房でじっとガストのじぃさんの帰りを待つことにした。
程なくしてガストが帰ってきた。
ガストが手袋越しに俺に触れて、念話をしてきた。
『すまんが、相棒探しはこの村では無理じゃ。例のギルドの通達がかなり広まっていてな。儂の手配で別の村に送ってやるから、そこで探してくれ。』
『おぅ、仕方ないか。いやぁ、世話になったな。』
『時間も無いんじゃ。即興でお前さんの色を変える。いいか?』
『偽装か?』
『そうじゃ、そして納品と称してハイラックまで送る。あと、一冊だけじゃが魔術書を買ってきたぞ。』『おおー、ありがたい!あ、だけど、金が無いぞ。』
『そうじゃないかと思ってな。そのハイラックの街の武具屋ケインにお前さんを売る形をとるから、金は不要じゃ。卸売という感じじゃが、いいか?』
『あぁ、いいぜ。何から何まで、、、感謝する。この恩は、いずれ返すぜ。』
『ふむ、期待しておこう。ぜひ、もう一度、相見えよう。魔術書は、荷車に乗ってからでも読むんだな。今は、本当に時間がない。早速、色を変えさせてもらうぞ。』
『わかった。けど、どうやって色を変えるんだ?』
俺も鍛冶師だったからわかるが、俺の知っている武防具は、基本的に素材の色でしか無い。
錆止め薬を塗る程度だ。さて、どうするんだろうか?
ガストは、工房の奥から大きめの壺を出してきて、見せてくれた。
かぱっと壺の蓋を外した中には、白い液体が入っていた。
『こいつは、樹液から抽出したものでな。王都の騎士隊長クラスが身につける鎧に白く装飾をするものだ。』
『ほう、そんなものがあるのか。魔王軍には無かったものだな。その液体の製法に興味が湧くぜ。』
『教えてやるのは構わんが、それは次の機会にしてくれ。お前さんがここに戻ってきたときにでもな。じゃ、早速はじめるぞ。』
ガストは、まず俺を拭きあげて、ハケでその白い液体を塗り始めた。
ほどなくして、黒いプレートアーマーが白く変身した。
『あとは、半日ほど乾燥させてから、もう一度塗る。更に乾燥させれば終いじゃな。』
『で、ガストのじぃさん、何をそんなに急いでいるんだ?』
『明日の早朝にお前さんを発送させてもらう。運び屋は手配済じゃ。実はな、明日、ここら辺の店にギルドの捜索があるらしくてな。』
『そうか、迷惑をかけるな。』
『いや、いいさ。儂も覚悟の上じゃ。あとは、と、違和感のない兜をつけねばな。流石に兜がついていないと検分された時に不自然に思われてしまうからな。』
『ああ、助かるぜ。』
そうして、白く塗られた俺は、乾くまで炉の前で回転していた。
『ほぉわ、これは、楽じゃのう。浮遊魔術か、儂も魔術を覚えたいのぅ。』
そうして、その日の夜。
白くなった俺は、ガストが用意した兜と共に木箱の藁屑の中に収まり、ガストからの説明を受けていた。
『明日の早朝に、このムハイク村からハイラックという街まで向かう荷馬車に運んでもらう。その街の武器屋ケインに納入し、買い手を待つ。ケインには先に手紙を送っておくが、ここにも一通、入れておく。手紙の内容じゃが、鏡花水月という名とお前さんのことは伏せておく。ただ、買い手の条件を記しておくから、良い買い手に出会ったならサインを出してやればいい。』
『どういうことだ?』
『この鎧は、持ち主を選ぶ特性を持っている。と書いとくからの。』
『おー、なんかカッコいいじゃないか。で、サインとは?』
『お前さんが認めたなら、少し浮いてやれ。身体が軽くなったと装備者に思わせればいいんじゃないか?』
『なるほど、わかった。』
『この魔術書は、同梱しておくぞ。あと、これは言うか言わまいか迷ったんじゃが。』
『なんだ?』
『この鏡花水月には、一つだけ呪いがかかっておってな。』
『な、なにぃ!!まじか。本当に呪いの鎧だったのか!』
『いや、慌てるな。呪い殺すとか、人を不幸にする類のものではないぞ。盗まれやすい、盗難という呪いじゃ。』
『、、、それは、意味があるのか?』
『さぁの、お前さんの意識があるうちは大丈夫だろうが、意識がない時ってのはないのか?』
『むぅ、そうか、気をつけるとしよう。』
『うむ。では、木箱の蓋をするぞ。』
そう言って、ガストは、俺に触れていた手袋をした手を離し、蓋をした。
俺は、木箱の中で気付いた。
(暗くて何も見えない。この箱の中で魔術書を読むのは無理じゃん。しかたない、魔術書は鎧の中にでも隠して、木箱から出てから隙をみて読むとしよう。
しかし、そのケインの武器屋に到着するまで、暇だなぁ。
、、、、、、、、、
(ん?ここは?)気づくと周りが真っ白で、、、
(お?自分の姿があるぞ!)
俺は、鎧姿ではなく、自身の手や身体が見えていることに気づいた。
「おぬしは何者だ。」
急にその場に女の声が響いた。
「うぉ!!誰だ!どこに居る!」
周囲を見回しても白い空間しかない。
「なぜここに居る?」
再度、女の声が響く。
「お前こそ何なんだよ!姿を現せよ!」
って、ちょっと、まて。とりあえず、落ち着こう。
うーん、そうか。ここは、俺の意識内なのかも。
そう思うと声をかけてきたのは、いったい誰だ?
急に眼の前の空間に変化があった。
姿を現せ、なんて言ったためか、その空間に人影のような黒い影が形成され、パッと光ったと思ったら、そこに女性が立っていた。
服装は、見覚えのある、、、
衣のようなものを羽織っているが、腰のところをキュッと紐でくくった、白色を基調とした淡い青が入り混じった裾の長いワンピース姿だ。少しだぶついているように見える。
いや、しかし、俺の目をくぎ付けにしたのは、その肩まである黒髪だった。
そんな女が閉じていた目を開かせた。
「ほぉ?これは?なかなかセンスがいいの。」女が自分の姿を確認している。
「お前は誰だ?」
「お主こそ何者じゃ!」
さっきの声よりも可愛らしい声になって言い返してきた。
お互い、その場で睨み合い、、、いや、俺は見惚れているだけだが、、、
「これでは埒があかんの。我は、お主の盗んだ鏡花水月じゃ。」
「えぇ!そんな馬鹿な!鎧に自我があるっていうのかよ!っていうか、盗んだつもりもないぞ!」
「ふん、よく言う。盗人め。」
「大体だな、少し触れただけでこうなっちまったんだ。わけが知りたいし、俺の方が文句を言いたいぞ!」
「なんじゃと?触れただけで?そんな仕様じゃったか?」
この女、口調が変だが、見た目は俺の好みなんだよなぁ。
「やや、これは、どういうことだ?あぁなるほどのぉ。ふむふむ。」
女は、目をつむり、上を見上げながら、独り言を言っている。
「なんか、一人で納得しているが、、、」
「む!お主、、、」今度は、急に俺を凝視し始めた。
そして「すまぬ、早合点のようじゃ。そして、この状況も合点がいった。」
そういって、ウィンクをしてきた。
「いやまぁ、疑いが晴れたのなら、まぁ、いいが、、、」
俺は、目線をそらしてしまい、しどろもどろになってしまう。
「お主は、ビルハインドというのじゃな。」「え?なんで名前を、って、俺の記憶でも見たのか?どこまで俺を知ったのかは知らんが、ちゃんと説明をしてくれるんだろうな。」




