鎧、誘われる
『ということで、次。エルトの魔術についてだ。エルトは、属性付与までできるな。』
『はい!』
『しかし、魔術付与の段階に至るには、精霊魔術でない魔術を扱えなければならない。魔術を扱うということは、エルフたちが精霊の力を借りて具現化しているのと少し違う。わかるか?』
『はい。師匠。私は、もとより精霊と対話ができません。』
『そ、そうだったな。精霊との対話は、この際、忘れろ。人間の扱う魔術は、自分の中に存在する魔力を使用する。その上で、結果をイメージしたものを術式にして具現化させる。ここまではいいか?』
『はい。』
『まず、自分の中の魔力を扱う訓練から始める。イメージと術式は覚えればいいだけだから、魔力を扱えるようになれば、魔術の発動は、そう難しいものではない。』
『はい、師匠。試してみます。』
そうして、俺達は、夜更けまで魔術訓練に勤しんだ。
結果、エルトが優秀なのかわからないが、彼女は一晩で鬼火、水膜、土壊まで使えるようになった。
(末恐ろしい子だ。もともとエルフという種族は、魔力の扱いに長けているからかもなぁ。)
『少しコツを掴んだら、あっという間だったな。』
『はい、これも師匠のおかげです!』
『よし、今夜はここまでとして、休もうか。』
『はーい。ありがとうございました〜。おやすみなさい、師匠!』
こうして、エルフの村からの旅立ち初日が終わったのだった。
俺は、寝なくてもいいので、見張りをする。
樹皮玉を作り続けながら、、、
そして、鎧になって8日目の日が昇る。
まだ朝もやが晴れてはない早朝だが、俺は湯を沸かし、朝食の準備をする。
スープの味見ができないから、どうするかなっと考えていたら、エルトが起きてきた。
「す、すいません、師匠。寝過ごしてしまって。あ、おはようございます。いい天気ですね。さぁ朝食の準備していきますね。」
矢継ぎ早に挨拶してくるエルト。
(ははーん、昨夜、寝付けなかったようだ。嬉しすぎて興奮したからかな。まぁ気持ちはわかる。)
『エルト、おはよう。あとは任せる。皆が食事を済ませたら、彼らの体調が良ければ出発する。』
『わかりましたぁ。』
(よしよし、お互いが触れての念話に比べたら、スムーズだな。)
俺は、二人の様子を見に馬車の中を覗く。
二人は、もう起きていた。
「あ、おはようございます。」
俺は、手を挙げて返事の代わりとする。
そして、パッパと二人の寝床として使っていた大きな布と枯れ草を次元収納に収めて、足の低いテーブルを出した。
二人のための食事台だ。
「また、どうなってんだ?魔術なのか?」
二人は、目をパチクリさせているが、まぁ、そのうち次元収納だって分かるだろう。
そこへエルトが2人分の食事を持ってきた。
「気分はいかがですか?この朝食を食べて動けるようなら出発しますが。」
「あぁ、エルトさん、おはよう。朝食をありがとう。俺の体調はいいぜ。ハイリンは?」
「ぼ、ぼくもいいですよ。はい。」
「そうですか。それは良かったです。では、ゆっくりと召し上がってくださいね。少し足りないと思いますが、また、すぐにお出ししますので、安心してください。」
そう2人分の食事というが、量は、合わせて1人分だな。
エルトは、俺の出したテーブルに食事を置いた。
俺は、馬車の外で二人が食べ終わるのを待つ。
その間、二人を観察する。
ハイドは、戦士なんだろう。
直剣を返されて喜んでいたし。
ただ、防具を身に着けていない。
(筋力はありそうなんだが、今すぐには戦えないだろうな。ハイリンは、、、見た目は、魔術師のようだが、よくわからないな。少し聞いてみるか。)
『エルト、通訳を頼む。』
『はい』
俺は、エルトを介して質問する。
「私達はハイラックへ向かうと言いましたが、お二人は?」
「実は、俺達は王都で一つ仕事をこなして、次の仕事に向かう途中だったんだ。行き先は、ハイファー、ここからの南にある大きな街だ。」
「僕達は、冒険者ギルドに所属しているDランクパーティだったんです。」
「、、、だった?」
「ええ、王都で解散してしまいまして、仲間になる人を探す目的もあって王都を出たんです。」
「俺は、パーティ内でファイターを、ハイリンはヒーラーを務めていたんだ。」
(ほぅ、この娘はヒーラーだったのか。)
「俺から質問していいか?」
「ええ、もちろんいいですよ。」
ハイドの質問は、俺達に関することだった。
「冒険者でもなく何処かの騎士というわけではない、鍛冶師とその見習いだけで、ハイラックまで何をしに?無茶じゃないか?護衛もなしで。」
エルトを介して答える。
「確かに無茶だったようです。とはいえ、護衛を雇う余裕もなかったのも事実だそうです。知り合いの紹介でハイラックにある武器屋に行き、その伝手で鍛冶師として働こうと思ったそうです。村を出てすぐに盗賊と出会ってしまいましたが。」
「ふーん、ま、お互いワケアリだな。これ以上は聞かないが、何にせよ、、、、うん?」
「どうしました?兄さん?」
「あぁ、少し考えたんだが、あんたたち魔術をどのくらい扱える?」
俺とエルトは、顔を見合わせた。
(どうしようか。全部言うわけにはいかないが。)
エルトも怪訝な顔つきで、ハイドにワケを聞く。
「質問を質問で返すようで、申し訳ないのですが、それを知ってどうするんですか?」
「言葉が足りなくてすまない。警戒させちまったか?目的は、ハイファーでの仕事を二人に手伝ってもらえないかな、という思いつきだ。」
「ちょ!兄さん!危険ですよ!いくらなんでも初心者を連れて行くのは!」
「そうだ。一緒に仕事をすると言っても、冒険者の仕事って、命をかけての仕事だろ?お互い、信用が足りていないと足元をすくわれるぞ。と、師匠も言っています。」
「何をどうしたら信頼関係を築ける?もうすでにオレ達とあんたらの間には、ハイラックまでの護衛という契約がなされているようなものだ。これは信用ではないのか?」
(確かに。いやしかし、エルトを危険な目に合わせるのは、避けたいのだが。)
「私達は、あなた方二人を信用します。ただ、冒険者の命をかけた仕事というものであれば、それでは足りない。そこは、もっと深い信頼関係が必要かと。っと、おっしゃっています。」
「まぁそうなんだが、、、」
「それに私達は、ただの鍛冶師と見習い。戦闘経験は浅く、あなた方の信頼を得るのにふさわしいかどうか?」
「ただの鍛冶師ってことはないだろう。盗賊団を殲滅させたんだから。つまり、その魔術があれば、ランクDパーティーを維持できるかと思ってな。そもそも、ハイファーにいくもう一つの目的が仲間集めだからな。ハイリン、どうだろう?」
「だけど、兄さん。ビルハインドさんとは会話が一方通行になりがちですよ。そこはデメリットでは?」
(む?そうか、こいつの出番かな?)
俺は、そっと天樹の枝葉をペンダント風にしたものを2つ、二人に出した。
「これは?」
エルトが笑顔で自分の首から下げた天樹の枝葉を見せる。
「身につけてみてください。」
そして、二人に念話を試みる。
『これは、神樹の枝葉なんだが、空間属性を付与している。そして、俺の魔力の波長と同期させたものだ。どうだ?ちゃんと聞こえているか?』
二人は、驚愕の顔で俺の方を見たり、二人で顔を見合わせたりして、口をパクパクさせている。
「す、すごい。」
「いやいや、兄さん!これについて、ツッコミどころが有り過ぎて、、、」
(まぁこれで会話がスムーズになるかな?)
『昨夜、作ったものだ。エルトと二人だけならそれほど必要というわけではないが、4人なら意思疎通がスムーズだし、手間が省けると思ってな。』
『ビルハインドさん!魔力付与できるんですか!』
「やっぱり、並の鍛冶師じゃないんじゃ?」
『ハイドさん、念話で返して見てください。練習として。』
エルトが指摘する。
『お、おう。こうか?』
『はい。できてますね、念話。』
『むぅ、やはり、あんた達に手伝ってもらいたいな。』
『その仕事の内容次第じゃないか?』




