鎧、付与魔術をマスターする
俺達は今、だだっぴろい平原を流れる川にかかる橋の手前で、道から外れ、昨夜キョウカから教わった魔力付与、属性付与、魔術付与を天樹の素材に試している。
『それでだ、今の俺にはこんな複雑な護符は作れないが、この護符の仕組みから得たヒントで、こんなのを今つくった。』
俺は、エルトに説明しながらも手を止めずに天樹の樹皮に火球魔術を仕込んだものを見せた。
『こ、これは、、、?』
『いいか、よく見てろよ。火球!』
俺は、火球魔術を付与した樹皮を川の方へ投げた。
樹皮を投げたその瞬間、その樹皮から火球が飛び出し、川の中で「ボン!」と小さな爆発を起こした。
少し離れて水を飲んでいた馬をびっくりさせてしまったが、成功した。
『これが、魔術付与した天樹の樹皮だ。一回きりの使い捨てだがな。』
『す、すごいです!魔術付与!さすが師匠です!』
『この樹皮に宿っている精霊力が小さいから、火球もこれ以上は威力を上げられない。しかし、大きな天樹の素材なら色んな魔術が付与できそうだろう?』
『私、私にも教えてください!その方法を!』
『エルト、気持ちはわかるが、お前はまず低級でもいいから魔術をマスターしないと。』
『そ、そうでした。』
『それにだ、これはまだ、俺にとっても試行錯誤しなければならない課題多き魔術だ。中途半端な状態でお前に教えるのは危険すぎるだろ?』
『そ、そうなんですね、、、』
『まぁそう肩を落とすな。そうだな、魔力付与くらいなら試してみるか?』
俺は、エルトに魔力付与の方法を教えた。教えたんだが、、、
『できました。』
『できたんかーい!』(ちょっとまて、いくらなんでも習得が早すぎじゃね?もしかすると、、、)
『エルト、属性付与をやってみてほしい。そうだなぁ。樹皮だと小さすぎるから、これくらいの枝なら、付与しやすいか?』
俺は、次元収納からエルトの背丈より少し短めの天樹の枝を出してみた。
『土属性をやってみようか。手順は、、、』
『こうでしょうか?』
天樹の枝が一瞬にして魔術師が持つ杖に様変わりした。
いや、見た目はただの枝なんだが、性能が半端ない。
『できたな。』
「できちゃいましたね。」
『おいおい、エルトさん。旅立ったその日のうちに魔術使えたじゃん。どうするよ。』
「はい、どうしましょう?」
(あ、こいつ、嬉しすぎて思考放棄してないか?
念話も忘れるくらい。
「うわぁ!ほんとに使えたぁ!!」
『うぉっと、びっくりした。急に叫ぶなよ。』
『え?えぇ、すいません。でも嬉しくって〜私にも魔術が使えたぁ〜!』
エルトが土属性を付与したこの枝、もとい杖だが、無茶苦茶頑丈にできている。
おそらくは、剣で振り下ろされても切断されないだろう。
金属並みだ。
しかも金属と違ってしなる。つまり硬いのに折れない。
見た目のギャップが凄いから、相手の油断を誘うこともできるしな。
(ただ、このまんまじゃアレだから少し加工して、、、)
俺は、その杖を持ちやすくするために持ち手部分をナイフで加工しようとした。
(硬ぁ!無理!)できなかった。
(じゃぁこれでは、どうかな?)
次元収納から天樹の樹皮を数枚取り出し、その杖に巻き付けて持ち手部分を作った。
樹皮は柔らかく、この杖とも相性がいいハズ。
仕上げに魔力付与して、、、
『ほら、これで持ちやすくなったぞ。この杖は、エルトが使えばいい。魔術師っぽいぞ。』
『え?いただけるんですか?』
『こいつはまだ未完成だと思う。俺の見立てでは、魔術付与もできると思う。エルトは弓矢しか持っていないだろう?防具なり盾の代わりが必要だと思ったんだ。ちょうどいいんじゃないか?この杖は、槍にも盾にもなる。』
(
おまけに魔術を付与する余地もありそうだし、宝珠を埋め込めれば、魔術効果向上なんかの支援魔術もつけることができるかもしれない。)
『あ、ありがとうございます。クスン、大切にします。』
『こんなことで泣くな。』
『あ、つい涙が、、、』
まぁそれだけ、村での生活が辛かったのだろうな。
『それにしても、付与を試しただけのつもりだったが、エルトは、そっちの才能があるのかもなぁ。』
『えへ、でも私、もっと精進していきます。ところで、この杖に名前をつけてもいいですか?』
『ん?もちろんいいが、何てつけるんだ?』
『ビハインドの杖って!』
(ぶっ!)
『駄目ですか?師匠の名前をもじって、私自身の魔術会得が遅かった、という意味を加味しました。』
『まぁ好きになさい。』
「やったぁ!私の初めての魔術の成果ですぅ!」
(なんか、喜ぶ姿はエルミと一緒だな。生まれて数十年以上たってもまだまだ子供だもんな。さてと、もう一つ作ってみるか。)
俺は、エルトがやってみせた土属性付与を見て、思いついたものを作り始めた。
エルフの村でもらった天樹素材の丸テーブルと丸イスを出して、少しもったいないが、足を外して即興で成形した。
2つの丸い大小の板となった。
その丸い板にこれまた天樹の樹皮で持ち手部分を取り付け、扱いやすくしてから、それぞれに属性付与をしてみた。
そして、魔術付与も試してみた。
(うん、火属性、土属性ともうまくいった。)
『できたぞ。属性付与と魔術付与の二重付与だ。』
テーブルだった大きい方は、土属性で頑丈にしてある。
そして、土塊を放てる魔術を付与した。
エルトが天樹の枝にやってみた付与の応用だ。
丸椅子だった小さい方は、火属性付与で火に強くなっていて、自分の身を守りながら火球を放てる仕様とした。
(我ながら上出来。木の丸い盾を装備した白い騎士。見た目の違和感はともかく、これで何が来てもエルトを守ることができるだろう。)
そう、俺は、今までの反省に基づいて、この旅に何が足りないかを念頭においている。
つまり、盗賊たちと戦う術もなかった自分自身を振り返り、まず何が必要なのかを考えた。
二人旅の場合、敵に襲われたとき、自分たちの身を守り逃げることを優先する。
敵にもよるが、味方が4人以上居ないと戦うという選択は、非常に危険だと思っている。
(さて休憩になっていない休憩だったが、そろそろ出発しようか。)
エルトは、俺の作ったウッドシールドを観察したり、触ったりしている。
『エルト、この天樹の樹皮を十数枚、渡しておく。魔力付与の練習に使いなさい。それと、何かアイデアがうかんだら教えてくれ。』
『あ、はい、師匠。ありがとうございます。』
『あ、そうだ、魔術が使えるようになったら、村に帰らないといけないんだっけ?』
『師匠〜!意地悪いわないでくださ〜い。』
『はっはっは。まぁ、まだ鍛冶師として、何も教えていないからな。どちらも一人前になってから帰るということにしておくか。』
『はい!がんばります!』
エルトは、涙目から満面の笑みを浮かべて返事をする。
そうして、俺達は再び馬車を南へと走らせた。
(この道の先に人間の村があると思うが、旅人や商人たちと行き違わないな。あの盗賊たちのせいかな。)
どのくらい走ったか。そんなことを思っていると少し先に森が見えてきた。
そして、その森の入口付近の茂みに生体反応を感知した。
『エルト、その杖を持っとけ。この先に何かいるぞ。2つだけだが生体反応があるんだが、急に襲ってこないとも限らない。』
『わかりました。魔獣ですかね?人間だといいのですが、、、』
『そうだな。だが、近づいてみないとわからないな。』
どんどん森の入口に近づくが、その二体は動く気配がない。
俺達がその茂みを通り過ぎるかどうかという時、かすかに声が聞こえた。
「た、すけ、て、、、」
(!!)
「師匠!馬車を止めてください!」
(エルトにもきこえたのか。)
俺は、馬を止めて声のした方向に意識を集中させる。
俺達は、馬車を降り、エルトに指示を出す。
『エルト、声をかけてくれ。』
「はい。えと、そこに誰かいるの?怪我でもしているの?」
すると、しげみからガサガサと、人間らしき子供が這い出てきた。




