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鎧、師匠になる

周囲に誰もいないことを確認して、道に出る。

エルミたちに別れを告げ、いよいよ、旅の始まりだ。


「ビル様、姉様、お気を付けて〜!」

エルフの結界内からエルミの声だけが聞こえる。

達は、今はもう見えないエルミのいる森の方へ手を振り、

「いってきま〜す!」エルトが返す。

(何かいいな、こういう旅立ちって。)


こうして、俺とエルト、(ついでにキョウカ)の旅が始まった。

エルトは、魔術を使えるようになるために。

俺は、人間の相棒を見つけ、人間の街か村で鍛冶師として気ままな生活を手に入れるために。

この鎧に取り込まれてたった6日だが、これから先の未来に想いを馳せる俺だった。

が、しかし、俺の期待感とは裏腹に、後日、大変なことになっていく事は、今の俺には知る由もない。

そして、この鎧、”鏡花水月”の秘密が一つ一つ解かれていく、、、、、、


どのくらい、馬車で移動しただろうか。もうエルフの棲まう森も見えない。

馬車の御者台に二人して並んで、ゆっくりと道を進む。

とりあえず南方向へと。

(さて、森から出たし、どこか休憩した時に魔術付与を試すか。おっとそうだ、エルトに言わなければならないことがあった。)

俺は、エルトの肩に触れて、念話する。


『エルト、君に言っておかなければならない事がある。』

『はい、何でしょう?師匠!』

『え?師匠?』

俺の思考は、一瞬停止した。


『えーと、師匠?』

俺は、エルトに再度聞き返す。

『はい。魔術の師として、鍛冶の師として、ビルハインド様を師と仰ぎます。駄目ですか?』

『うーん、そうかぁ。そうなるかぁ。少し、小っ恥ずかしい気がするが、、、』

(まぁ、他の人間に名乗る時もそれで問題なさそうだし、いいか。)


『よし、では、師匠と呼ばれるからには、俺も頑張らないとな。魔術も鍛冶もまだまだ未熟な俺だけど、よろしくな。』

『はい、私の方こそよろしくお願いします。っと、話ってなんですか?』


『おぉそうだった。実はな、この鎧には、俺の人格以外に先住民と言うか、鎧の人格がもう一人いてな。』

『え!そうだったんですか!もしかして、時々入れ替わっていたり?』


『いや、そいつは、俺のみとしか意思疎通ができないから、エルトや他の人と”会う”機会はない。』

(今のところだけど。)

『はぁ。驚きですね。鎧の精霊みたいな感じでしょうか?それで、その方がどうされました。』

『鎧の精霊か、言いえて妙だな。実を言うと、俺の使う魔術の多くは、その彼女、、、えと、俺はキョウカと呼んでいるんだが、そのキョウカから教えてもらっているんだ。』


『え?女性の人格なんですか?どんな方なんですか?師匠の好みの方なんですか?』

(おい、エルトよ、そこが気になるのか、、、)

『いや、まてまて、そいつがどんな奴かは置いといて、今は、この鎧がそういうものだと知ってもらうのと、魔術の知識に関しては、俺よりもそのキョウカの方が上であることを知っててほしい。そして、今から試そうと思うこともキョウカから教わったものだ。エルトが扱えるようになる魔術がどんなものかわからないから、一つ一つ俺が見せてみて、試していこうと思うんだ。』

『はい。それは願ってもないことですが、試すこととはいったいどんなものでしょうか?』


そう、おれは、天樹の素材でアレを試すことにした。

『そうだな。ちょうど小川が見えてきた。馬車を止めて、馬を休ませるか。』

『いったい、どんなことなのか凄く楽しみです。それと機会があったらキョウカさんのことも、、、』

『あぁ、キョウカのことはおいおいな。』


だだっぴろい平原を流れる川にかかる橋の手前で、道から外れ馬車を止めた。

馬に小川の水を飲ませるために荷車から外してやり、小川まで連れて行く。

(さて、天樹の樹皮をいくつか次元収納から取り出して、、、)

俺は、天樹の樹皮に魔力を流し込む。

そして、適度に流れたら属性付与を試してみる。

エルトは、俺の隣で俺の所作を見ている。

樹皮を2つ用意し、相性が良さそうな水属性と土属性の付与を試す。


「あっ!」(お?)

それぞれがじんわりと属性を帯びだした。

(成功したか?)と思った瞬間、土属性の樹皮は枯れてしまい、水属性の樹皮は、散り散りになってしまった。

(あちゃぁ失敗か。)

「失敗ですか?」


エルトが俺の手元を見ながら、少し残念そうにしている。

『そうだな、失敗だ。でもな、なんでも最初から上手くいくことなんてないんだ。むしろ、失敗することで色んなことに気づき学べるから、エルトも色んなことに挑戦して失敗を繰り返せ。それは、魔術だろうが鍛冶だろうが、自身の成長に繋がる。』

『はい、今のお言葉を胸に刻みます。』

『うん、それはちょっと大袈裟だけどな。まぁ大袈裟ついでに偉そうに言うとだな、失敗を恐れることはない、ということと、失敗を無駄にしないようにそこから学べ。というのが俺の師匠からの言葉だ。』

『師匠の師匠ですね!流石です!』

(なにが流石なんだか、、、)


『まぁ、今は、こんなふうに付与魔術があるということを学んでくれたらいい。』

『はい、とても興味深いです!』


と、ここで、俺はあることに気づき、エルトに頼んでみる。


『頼みがあるんだが、エルトの持つ姿見の護符をじっくり見せてくれないか?』

『はい、良いですよ。これです。』


エルトから差し出された護符を受け取る。

その瞬間エルトが本来の姿であるエルフに戻る。

人間の15歳位の少女が見目麗しい成人女性エルフになっている。

(おぉ!凄いべっぴんさんじゃないか。いや、それはともかく。)

見惚れそうになった俺は、受け取った護符に意識を戻す。

そしてじっくり観察する。


(確か、魔力検知されないような魔術が仕込まれているとか?あぁこれか。)

俺は、護符の裏側に取り付いている小さな黒っぽい宝石を見つけた。

(これは、宝珠?こんな小さな宝珠に魔術が付与されているのか?これは、外せないけど、この宝珠の魔力解析をしてみるか、、、)

俺は、あの謎の館にあった魔術錠にしたのと同じように魔力構造を分析してみる。

(ほぅそうか、この宝珠の特性と相反する属性が付与されているのか?)

どうやらコツは、素材の特性と相反する特性の魔術を付与しているようだ。

(お互い拒絶しながらも引き合って、バランスを保つのか?その間に、なにか、、、お?魔力の隙間があるのか。)


正直、驚いた。

こんな小さな石に複雑で濃密な術式と、そして、その絶妙な魔力バランス。

こいつは、この素材に宿る精霊の残滓、つまり精霊力。

その精霊力と付与する魔力量を拮抗させて仕上げている。

おそらく、宝珠が取り付いている板札の方も同じ仕組みだろうな。

そして、双方の特性を引き出しているようだ。


『、、、ししょう?師匠!』

『は!すまん。集中しすぎたか?』

『もう心配しました。いくら呼んでも反応しなくなっちゃうんだもの、、、』

『あぁ、でもおかげで、この護符の仕組みが少し理解できたぞ。』

『ほんとですか?すごいですね、、、』


俺は、護符をエルトに返し、エルトに説明する。

『エルフ達がこの護符を再現できない理由がわかった。この姿見の護符は、二つのパーツを組み合わせたものだ。一つは、護符本体のこの板札。おそらく天樹の素材だろうこの板とこの裏に埋め込まれている小さな宝珠。そしてそれぞれに魔術が仕込まれている。宝珠の方に変化魔術。板の方に魔力検知妨害の魔術だな。偽装魔術とでも言うのかも。』

『師匠、凄いですね。簡単に解析できちゃうなんて。』

『それでだ。この魔術、どちらもエルフの扱う精霊魔術ではない。』

『え?でも、エルフのキキョウ様と言う方が作ったんですよね?』

『そうだと思うが、確証はない。ただ、全く精霊の力が宿っていないわけでもない。ここから、いくつか推測できる。まず、これをキキョウが作ったのであれば、キキョウはエルフでありながら、精霊魔術以外の魔術、人間や魔族が扱う魔術を扱えたことになる。そして、エルフ特有の精霊魔術の根幹となる精霊力の調節もできたと思う。』


『エルフなのに精霊魔術以外を使える?』

『そうだ、ここにエルトの魔術修行の道標があったな。つまり、エルトは精霊魔術を具現化することはできないが、精霊魔術以外は、使える可能性あると、キキョウという前例がしめしているわけだ。』

『エルフなのに、、、エルフでも?他の魔術を?、、、師匠!』

『お?なんだ?』

『私、俄然やる気が出てきました!他の魔術を覚えて、使ってみせます!』

『おおぅそうだ。その意気だ。キキョウにできてエルトにできないことは無いと思うぞ。』

『はい、頑張ります!』


彼女のこの頑張りは、思わぬ奇跡を生むことになるが、それは、もう少し先の話になる。

今はただただ、彼女の成長を促し、笑顔でいられるよう尽力しようと、俺は思ったのだった。

初めて投稿します。

数年前から仕事の合間に書き綴ってきたファンタジー世界です。

世の中、異世界ものが乱立し、数千数万の物語が作られています。

できるだけ独自性を出しつつ、なじみ深いRPG単語を出しています。

が、結局、あの漫画からのセリフでは?とか、あのエルフ漫画の影響があるな。とか。

まぁ、否定しません。

自分が楽しく書いていなければ、読む人も楽しくないのでは?

という勝手な思いで、そこかしこに小笑いポイントを忍ばせています。

”クスっポイント(KP)”とか勝手に言っていますが、この序章では控えめにしています。

さて、序章として、鎧になったビルハインドとエルトの旅立ち迄をお届けしましたが、

文章として入力済なのが、これだけでして、次章以降、ゆっくりアップしていきます。

書きなぐりノートは既に6冊分あるので、エピソードには困りません。

あとは、入力していくだけ、、、

ストーリーのテンポが遅いという指摘もありますが、あえて、遅くしています。

ビルハインドの旅は、とある理由で物語内時間で1か月のうちに完結しなければならないのです。

文中、時折、鎧になって何日目、と表現していますが、30日がタイムリミットだからなんです。

そのために、鎧状態であれば夜も眠らずに活動するビルハインドという設定になっています。

したがって、文章量も増えていくわけで、、、

次章メインタイトル、鎧、冒険者になる、では、そのあたりもチラッと説明されます。

いよいよ冒険の始まりです。

鏡花水月の謎、新たな登場人物との出会い、そして何よりエルトの成長ストーリーをお楽しみに。

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