鎧、旅立つ
『い、いや、偉そうなことを言ってしまった。俺もまだ道半ばの未熟者なんだった。』
『いえ、今までの私の考えでは、すべてを受け入れて何もわからずに、何も知らずに過ごしていたことでしょう。』
『おっと、その何も知らずにっていうのも、ある意味幸せなことなんだよ。ただ、君たちのように悲しい未来まで享受する必要はないと思ったんだ。』
『何だか難しいですね。』
『そうだな。悲しいことは完全に無くならないが、未来が悲しいって決まっているのは、つまらないと思うんだ。だから、今をもがくあがく、ジタバタしてみる。それでも変わらない未来なんだったら、自分の子や意思を継ぐ者に託す。その位の自由があっても良いんじゃないか?』
『私、頑張ってみます。』
『エルミ、頑張って。私も魔術が使えるようになったら、ここに戻ってきてエルミをサポートするわ。』
『姉さまぁ〜ありがとう〜』
(あれ?また二人して泣いてしまった。)
ただ、さっきの涙よりは良い涙なんだろう。
二人の気持ちが軽くなったことを祈ろう。
(しくしく、だんなぁ〜)
(キョウカか?どした?)
(ぐす、旦那の言葉に感動しちゃってんのさぁ〜グス。)
(お?おう、そうか、、、ん?お前、鎧だよな。感動しちゃうのか?)
(何よぉほめてんのにぃ。ところでエルフの脅威ってなんだろうね?)
(そぅだなぁ、人間や他の種族と接触しないだけなら、ここまでの力は要らないと思うし、なぜ接触も駄目なのかもわからないから、一つづつ過去を調べるしか、、、あ!キョウカ、少し前にキキョウの記録みたいなのがあるって言ってたよな。エルフに何があったか記録がそこにあるんじゃないか?)
(おぉ〜確かに。旦那、目の付け所がいいね!)
(いや、目はないけどな。)
(ちょっと探してみるね。)
(おぉう。頼むな。俺のボケはスルーか、、、)
とりあえず、二人が元気になったところで、二人には朝食を摂りに行ってもらった。
その間に、農作業エルフのエルノだったか?が工房に訪れ、農工具を引き渡した。
すごく感謝されたが、俺は言葉が出せないので、エルトに書いてもらっていたメモを渡した。
葉っぱに書かれたメモの内容は、
「農工具の整備代、天樹様よりの頂き物。量は、各自の想い。」
というものだ。
まぁ少量でも良いので、こんな曖昧な表現になったが、それは、俺の予想外の事態となった。
てっきり、葉や枝ばかりが集まるのだろうと思っていたのだが、集まった素材は、いや、もう素材でもないものも多かった。
机、椅子、棚、はしご、大きな布、果ては木製の食器類、衣類まで。
もちろん大量の枝葉もある。
この村に来たときの広場を埋め尽くすほどの木製品が集められた。
(椅子やテーブル、ベッドまで、、、)
どうやら、エルトとエルミの二人がウラで動いたのであろう。
それに、エルフの姫であるエルミを助け、無事に村に帰してくれた。
ただ助けただけでなく、エルミの態度まで変えた。
という、礼まで兼ねているのだろう。
(次元収納に入るかなぁ。)
という心配は、杞憂だった。
(収まったな。)
(まぁ食料を提供していて正解だったね。)
(おぅ、結構ギリだったのか?)
(そうね、次に収納したいものが出てきたときのために、実験にどんどん使っていこ〜。)
(おおぅ、、、やる気だな。しかし実験に使うにはもったいない品々だな。どうしようかなぁ。)
(別にいいんじゃない?水属性付与したベッドとか、涼しそうだし。火属性を付与しておいて、火事になっても中身も燃えないタンスとか。)
(おぅ、なんだか目的が違ってきているようだが、、、それってどこかに売れそうだよな。と思ったりして。)
(あはは、だんなは商売上手だねぇ。)
(とりあえず、使いやすそうな樹皮や葉っぱから使ってみるかな?村を出てからだけど。それはそうと、エルフの記録かなんかあったのか?)
(あ、ごめん、まだ、、、)
(あ、って忘れてた?ちゃんと探してる?)
(うんうん!絶賛調査中!)
(大丈夫か?頼むぞ。)
(はいはーい。ちょっと回線切るね。)
(回線?ってなんだ?)
キョウカの返事がなくなった。
(まぁちょっと放って置くか、、、さてと、村の広場に集められた家具やら素材を収納したはいいが、エルトの文字授業ができなかったか。まぁ後はおいおいでもいいか。)
『ビル様、どうされました?それにしても、、、』
『ビル様の次元収納ってすごいですよね。』
エルミとエルトが揃って、お互いの顔を見合わせ、笑い合っている。
『さて、二人とも。これ以上、俺がこの村にいたら、エルフの方々に気を使わせてしまう。そういうことで、今から村を出ようと思う。』
『え?』『えぇ!』
『すまん。急で。エルトは長老に連絡と旅の準備を。』
『は、はい、わかりました!』
さっそうとエルトは長老の住処に向かった。
『エルミ、今朝、言ったように希望は捨てるなよ。』
『はい、大丈夫です。私は私で調べてみます。』
『よし、良い返事だ。』
そうして、俺は、預けていた馬と荷車を準備しながらエルトを待った。
すぐに長老がやってきた。
「ずいぶんと慌ただしい出立ですな。何か我らに不手際でもございましたかな?」
俺は、首を振り、長老に握手を求め、そうして念話で事情を伝えた。
『すまない、長老。村の皆さんに気を使わせたくないのもあるが、部外者がウロウロしているのも問題となるだろう?事実、鎧を脱がない俺を不審がる者もいる。問題が出ないうちに、ここを出ようかと』
『そうですか。わかりました。あまりに急な事なので心配しましたが、納得しました。どうか、お気をつけて。あぁ、エルトのこと、よろしく頼みます。』
『エルトの事、確かに頼まれた。まぁ大丈夫と思う。道筋は見つけているようだし。色々と世話になった。』
別れの挨拶を済ませ、あとは、エルトが来れば出発だ。
出発前に荷車に水と食料が積み込まれた。エルノが持ってきてくれたものだ。
これでエルトの食事には困らない。
礼をしてありがたく頂いておく。
ほどなくしてエルトがやってきた。鼻息を荒くして。
「おまたせしましたぁ」
(こらこら女の子なんだから少し落ち着きなさい。)
エルトの荷物は、俺と出会ったときとそれほど変わらない。
弓矢と背負袋1つだ。
中身はわからないが、多くもなさそうだ。
村公認の旅立ちだから表情も明るい。
荷馬車周辺には、話を聞きつけた数人のエルフが見送ってくれるみたいだ。
みんな、笑顔だ。
泣いている者はいない。
いや、一人いた。
「姉さまぁ〜」
「ほらほら、エルミも笑って見送ってください。」
「ビルハインド殿、エルフの領域出口まで、このエルタがご一緒します。」
(あぁこの村で最初に出会った飛翔エルフだな。)
俺はジェスチャーで礼を言う。
「私もそこまで行きます!」
(エルミ、、、大丈夫かなぁ。)
急に連れて行けって言わないか心配になった。
「エルミ様、領域から出ないでくださいよ。あぁ心配だ。私も行きます。」
(ほら、エルテが心配しているじゃないか。)
「出ないわよ!私は私のやるべきことをやるわ。」
「なら、いいのですが。ほんとに出ないでくださいね。」
「むぅ〜」
やれやれ、そんな感じで俺は、出発の合図を出し、エルフの村、エルトッキュに別れを告げた。
飛翔するエルタ、エルテが先導して、馬車はエルフの森を進む。
俺は、御者台から森の不思議な雰囲気を感じながら、馬を操る。
エルト、エルミは、俺の左右にぴったりくっついていて、、、何やらこそばゆい。
(肌はないんだけど。)
『ところでビル様。行き先はどこなんです?』
エルトが聞いてきた。
『ハイラックという人間の街だ。』
(そういえば、俺は、今現在の場所がわからない状況だったな。)
『ただ、その前に、、、』
『人間の相棒ですね。』
『そうだ、しかし、そう簡単にはいかないだろうなぁ。』
『ふふ、姉様、帰ってきたら旅の話をいっぱいしてくださいね。』
『どんな人間に出会うのでしょうね?少し怖いですね。』
『二人とも人間の第一印象が最悪だからなぁ。あんな盗賊たちに出会うなんて稀だと思うぞ。』
とはいっても、俺も人間のことは、そんなに詳しくはない。
まぁ魔族のような一族の結束ってのがないのは知っている。
人間同士でも戦争があるからな。
これから出会う人間が悪人でないことを祈ろう。
そうして、エルフの森の領域外になるであろう所までたどり着いた。




