鎧、天樹様の正体を知る
『そうですか、大丈夫ですよ。天樹様からの頂き物と言っても、天樹様が不要となったものを我々が利用しているだけですから。』
『そうか、なら遠慮なく頂きたい。』
『わかりました。みなに伝えておきます。あと、この農具の整備の報酬代わりとしても、エルノ達からもらえると思いますよ。』
『本当か!それは頑張らねば。』
『ビル様は、本当に色々できるんですね。知識も豊富、魔術もエルフ以上。そしてお優しい。』
(だからって、勇者を見るような目で見ないでほしい、、、)
『まぁ魔術はこの鎧のおかげだし、知識は修行していた時に俺の師匠から叩き込まれたからな。といっても偏った知識だけど。』
『いえいえ、すごいです。魔術をほとんど使わずに道具を作ってしまわれるなんて。』
『いや、これが仕事だったから。』
(鬼火、水膜、土壊だけあれば、楽に仕事がこなせるんで覚えただけとは言いにくい。)
『私にもビル様のようなことができるのでしょうか?』
『ん?魔術を使えるようになるのではなく、鍛冶師になるのか?あ、いや、そうだな。両親から仕事を継ぐということか。』
『はい、欲張りでしょうか?』
『いいんじゃないか?君たちエルフには時間が味方する。志す気持ちを失わなければ何でもできるだろう。』
『志す気持ち、、、』
『ああ、そうだ。諦めない心を持つことだ。』
俺は、鍛冶師のような職人に頑固者が多い理由に気づいた。
職人たちは、皆、仕事に誇りを持ち、常に高みを目指している。
剣士や魔術師のような派手さはないし、注目されるような場に出ることもない。
しかし、様々な武具や道具には性能や利便性の向上には上限がない気がする。
良いものを作るという気持ちは、決して諦めさせない心に繋がるのだろう。
『それはそうと、もう夜も遅い。エルトは食事もしていないだろ?ここは、もういいから休みなさい。』
『えぇ!でも、もう少しだけ見ていたいです。水と食べ物は自宅から持ってきます。お願いします。』
『むぅ、じゃぁ一度自宅に戻って、食事を済ませなさい。』
『はい!』
エルトは、そう言うやいなや足早に自宅へと戻っていった。
(だんな。あの子に甘いね。)
(まぁな。俺も早くに両親を失っているからな、多少あの子の気持ちがわかるんだ。)
(だんなの父君も鍛冶師?)
(いや知らない。両親の記憶はわずかだけだ。物心ついたときには師匠んとこで鍛冶を手伝ってた。両親のことは、師匠も詳しくは知らないらしい。師匠の話だと、国同士なのか種族間なのか争いがあって、それに巻き込まれた部族の生き残りだと聞いている。何か気になるのか?)
(ん?うーん、少しね。トリセツも少しづつ読める所が増えてきててね。どのくらい昔かはわからないけど、そういった争いの記録もあったよ。だんなに全部教えようとすると数年かかりそうなんで言わないけど。)
(数年って、、、どんな情報量だよ。っていうか本当に何百年、何千年前の記録なのか?)
(そうねぇ。キキョウ様の記録だと思うの。多分2000年分、、、)
(2000年、、、気が遠くなるわ。)
(まぁ旦那に関係がありそうな記録を見つけたら教えるね。)
(あぁ頼むわ。い、いや、昔の話だから別に知らなくてもいいかな。)
(いいの?じゃぁ重要案件だったら伝えるってことにしておくね。)
(わかったわかった。それでいい。さて、続きをするか。)
と、ここでエルトが戻ってきて、俺も作業を再開させた。
俺の両親がどんな人?魔族?だったか気にならないといえば嘘になるが、知ったところで何も変わらないだろう。
俺は、雑念を振り払い、目の前の作業を進めていく。
(集中集中っと。)
どのくらい集中していたのだろうか。
すべての農工具の整備が終わる頃、森の鳥たちが夜明けを告げる。
流石にエルトは眠ってしまっている。
きっと俺を父親や母親と重ねていたんだろう。
まぁそれで少しは寂しさが紛れるんなら良いか。
と思い、何も言わなかったが、そのままじゃ風邪をひく。
工房の隅に置いてあった大きめの布をかけてやり、起きるのを待つことにした。
(あぁそうだ、小型のナイフを完成させておこうかな。)
昨夜、余った鉄材であらかた仕上げていたナイフをシュッシュと砥石で研ぎ始める。
(さて今日は、どうするか。エルトの文字習得、天樹様の素材集め、あるいは、村の中を散策もいいな。そして、旅の出発準備だな。)
そこへ、コンコンと工房の扉をノックする者が聞こえた。
「おはようございます。エルミです。」
俺は、内側から鍵を外し、扉を開けた。
俺は、エルフ姿のエルミにジェスチャーで挨拶をして、エルミを工房の中に入れた。
「まぁ姉さま、ここで寝てしまわれたんですか?」
エルミがエルトを起こす。
「ん、うー、おはようございます、、、は!私、いつの間にか寝てしまってました!」
「ねぇ様、おはようございます。」
「あら、エルミ?おはよう、って体調はもう大丈夫?」
「はい、もう平気です。叱られ慣れている私ですが、流石に今回の天樹様の説教は、凄かったですけどね。」
(とんだお転婆エルフの姫様だな。っていうか天樹様って何者なんだよ。)
俺は、気になって二人の肩に手を乗せて聞いてみた。
『あぁごめんなさい。天樹様の説明は、していませんでしたね。』
『天樹様は、結論から言うと私の母です。』
『は?』
『えーとですね。村の神樹に宿る精霊様と、先代神職だったエルミの母様との融合体とでもいいましょうか。その絶大なるお力で、この森と村を守ってくださっています。』
『なるほど、そうか。つまり、その力は、神樹によるもの。その守るという意思はエルフの神職によるもの、、、そうかそうか神樹の力だけでは、何を守護するか判断できないからエルフの一人が融合体となることで、仲間を守ってるってことか。』
俺の疑問は解消されてスッキリしたが、二人の顔色は、すぐれない。
『あぁ、すまない。もしかしたら、そのエルミの母君は、融合体という柱になってしまい自由に行動できない状態になっているのだろうか?』
(つまりは生贄だな。)
「はい、、、」
「そして、私もいずれ母様の跡を継ぐことになります。」
「エルミ、、、」
(むぅ、こんなときは言葉が出ないな。)
『ま、まぁあれだ、エルミが跡を継ぐっていってもまだまだ先の話だろ?』
「そ、そうですよね。エルミ、そんな顔をしないで。大変なお役目だし重圧でしょうけど、まだ、子もなしていないエルミは、エルミには、、、」
(って、おいエルト、泣くな、ここで。)
「ねぇさまぁ〜しくしく」
(やれやれ、どうしたものか)
『二人ともすまなかった。迂闊に天樹様のことに興味を持って聞いてしまった俺が悪かった。』
俺がそう伝えると二人とも顔を上げ、
『いえ、私こそ取り乱してしまい、ごめんなさい。』
『謝るのは私の方です。つい涙が出てしまい。申し訳ありません、ビル様。』
『うーん、そうだなぁ。部外者の俺が言うことでは無いだろって怒られそうだけど、一つ偉そぶっていいか?』
『ふふ、ビル様に怒るってことがあるのでしょうか?お気になさらずにどうぞ。』
『じゃぁ。二人に聞きたい。天樹様という神樹の力を借りなければならないこの状況の原因は何か?知っているか?』
『え?』
『ん?ん〜?』
二人とも考えたこともないようだ。
『つまり、今現在も何かこの村にとって脅威があって、この村を、エルフのみんなを守らないといけない状況であるということなんだが。』
『それはいったい何なのでしょう?』
『それは、俺が知る由もないが、ただ、天樹様となってでも結界を何百年と張り続けた理由が何かあるだろう?』
『確かに、、、でも理由を知ったところでどうすることもできない。』
『かも知れないが、何かをしないと、この先もずっと同じことの繰り返しだ。君たちには時間がある。それを利用することができる。エルトにも、同じことを言ったが、あきらめない気持ちを持つことだ。例えエルミがそれを解決できなかったとしても、その想いは、子孫に受け継がれ、いつか変化をもたらすことが可能になる。と考えるのは、どうだろうか?』
エルミの表情がさっきよりも良くなった。
『ビル様の言わんとすることがわかりました。行動を起こせと。少し調べてみます。なんなら天樹様にも聞いてみます。』
『良い表情になったな。まずは意識を変えることだ。視点を変えて物事を観てみる。今の状況に疑問を持つことで、前に進めるはずだ。未来は他の誰のものでもなく、自分で作るものだからな。』
『『はい!』』
また、二人からの視線が勇者を見るような目になっていた。




