鎧、新たな術式を覚える
(文字も読めずに人間社会に行こうとするとは、思い切ったことをする。が、他者から教わる、教えるという文化がないのであれば、仕方のないことなのか?)
(だんな、エルトちゃんは、それだけ追い詰められていたんじゃない?)
(ふぅむ、キョウカの言うことも最もだが、、、)
とそこへ、エルミが戻ってきた。
「おじい様、戻りました、、、」
「エルミ、疲れたろう。奥で休みなさい。」
「はい、そうします。このたびは、心配させてしまってごめんなさい。」
「もう、よい。ただ今後はこんなことがないようにな。村全体が困るから、勝手な行動は慎みなさい。」「はい。」
(なんか、無茶苦茶疲れているじゃないか。)
『エルミはどうしたんだ。』
エルトに聞いてみた。
『心配いりません。天樹様とお会いになるのは、大変疲労を伴うと聞いています。』
エルミは、俺に会釈してきた。
「ビル様、ごめんなさい。先に休ませていただきます。」
俺は、ジェスチャーで問題ないことを伝えた。
「ビル様、申し訳ありません。少しエルミのお世話をしてきますね。」
そう言って、フラフラと奥の部屋に行くエルミを追いかける。
(俺には心配不要とは言っても、心配なのだろう。仲が良い二人だ。)
俺は、長老の手配で、別の住処へ移動した。
といっても、すぐ隣の樹の上の住処だった。
誰かが使っていただろう樹の上の住処は、こじんまりしていて、休むにはちょうど良い。
長老には、俺が飲み食いできないことは伝えているので、住処だけを借りた形だ。
よし、では、状況を整理しよう。
まず、当面の目的ができたな。魔力の向上。
いずれ時空の館に行かねばならないだろうということは何となく感じている。
そのためにレベルというものを上げておく。
そして、エルトの魔術修行。
魔術を使えるようにするための条件を探すか、エルトに様々な魔術を見てもらい、扱えるかどうか確認する。
手当たり次第になるが他に方法が思いつかない。
まぁ時間だけはたっぷりあるから、そのうちなんとかなるような気がする。
そして、直近の課題は、エルトに人間の文字を教えて、ここから旅に出る。
人間の村か街に行き、とりわけ、この辺一帯を統治している国の情報収集だな。
確か、ガストが言っていたが、この鎧の納品先は、ハイラックと言う街、その街のケインという武器屋だったな。
途中、盗賊に襲われたが、そのケインに代金を払えば、ガストに金は行くだろうし、行き先はハイラックだな。
などと考えを巡らせているうちに、日が暮れたようだ。
、、、、、、、、、、、、
「あれ?白い世界?」
「だんな、待ってたよ。」
周りは、なんだか懐かしさを感じさせる真っ白な世界。
そして、目の前にキョウカが居る。
「姿を見るのは、なんだか久しぶりのような気がするな。」
「え?前に会ってから一日も経ってないけど?盗賊のアジトの時からだもの。」
「ん?そうか?そういえばそうか?っていうか、俺、寝てるのか?」
「だんなぁ、鎧なんだから寝る必要ないのに習慣なんじゃない?夜になると意識が落ちるよね。」
「これ、また、盗まれたりしないか?ってか、毎晩こんな感じになるのか?この呪い意外とやっかいだな。」
「まぁ独特な村だし、大丈夫じゃない?でも意識はしっかり持つ習慣を身に付けないと。」
「鎧になって数日しか経っていないから習慣なんて変わらないさ。空腹なんかの生理現象もないから実感わかないし。」
「慣れて。」
「うぉーい、簡単に言うな。」
「仕方ないじゃん。」
「っと、あれ?キョウカ、服装が変わった?」
よく見るとキョウカの服装がエルミの姿見の護符を外したときの服装に似ていた。
以前の淡い蒼色のワンピースではなく、一枚布を体に巻き付けているようなタイプで右肩が出ている。
下は、ロングスカートでゆったりしている。
エルミの服装は、もう少し短かったけど、全体的に緑かかっているところなんかは、エルミの服装と一致している。
「そりゃしかたないでしょう。旦那の夢想で私のイメージが変わるんだもん。この衣装が気になったんじゃない?」
「そうか、俺の考えたイメージが反映されるのか。いや、正直かわいいと思ったのは確かだが、、、」
「やだぁだんな、そんなかわいいなんて、、、」
「お前、鎧だよな?なんで顔を赤らめながら喜ぶ?」
「あれ?それもそうね。」
(あ、真顔に戻りやがった。不思議なやつだ。)
「それはそうと約束のアレ。」
「アレ?あぁ、付与について教えてくれるんだっけ?」
「そうそう」
「逆に素材のことについてわからないんだったな。」
「そうね、私の知っているのは、完成した剣や杖に付与すること。だから、素材そのものについては意識をしてこなかったのよ。でも、あの護符を見てね、、、」
「そうか、何か思うことがあると?じゃぁお互いの知っていることを共有しようか。まず、キョウカの付与の知識を教えてくれ。」
「はーい。まず、付与の方法にはいくつかの段階と種類があるわ。段階は簡単な方から言うと、魔力付与、属性付与、魔術付与ね。で、種類というのは、各属性種別ね。主だった属性は、火、水、土、風、そして空間属性ね。魔力付与だけだと、効果は属性に関係なくて、限定的ね。
でも属性付与すると、例えば、剣に火属性を付与すると、剣のダメージに火のダメージがプラスされるの。
ただし、相手に火耐性があった場合は、プラス効果はなし。相手の弱点が火だったら、プラスダメージが大きくなるわね。
盾に火属性が付与された場合、火魔術のダメージを和らげる。攻撃の場合も防御の場合も、その属性を付与した魔力量によって、効果は増減する。ここまでいい?」
「ふむ、大体、イメージできる。」
「勘違いしやすいのが、付与された属性間に優劣なんかの相性はないこと。例えば、水属性の盾に火属性の魔術を打ち込む。水に火なんて、ダメージなさそうだけど、込められた魔力量で勝敗は決まる。また、同じ属性同士の場合、ダメージがなし、ではなく、これも込められた魔力量でダメージが増減することになるの。」
「つまりは、相手よりも強い魔力付与、属性付与でないと効果は薄いのか。」
「そうね。で、次、魔術付与。まぁ、単純に魔術武具ね。剣に火球魔術を仕込む感じね。盾に属性シールド魔術を仕込むことで、物理と魔術、双方のダメージ軽減ってこともできるわね。簡単に説明するとこんなもんかな。あとは、応用ね。あの姿見の護符みたいな付与対象が武具ではなく、アイテムだとか、二重付与とか、、、」
「すごいな、世界観が広がる思いだ。」
「で、キキョウ様は、そういったものも作れたってことね。姿見の護符、あれは凄いよ。姿を人間に変化させる魔術だけど、そのままだったら護符に魔術が仕込んでいることがバレちゃうの。特に相手が魔術師だったら一目瞭然ね。それを感じさせない魔術、”幻術”かなんかが仕込んであると思うの。」
「そうか、だから、俺には人間の少女としかわからなかったのか。」
「多分、このエルトッキュの結界も同じような効果が付与されていると思うの。ただ、これだけの大きな広範囲だと、魔力量や媒体となる道具の大きさは半端ないものだと思うわ。」
「あぁそれなら、多分だけど、この村のどこかにいる天樹様っていうのが媒体になっていて、エルミや他のエルフ達が魔力を供給しているんじゃないだろうか?」
「ほぉ、なるほど。それなら、広範囲、長期間の維持も頷けるわ。流石、旦那だね。」
「なにが流石なのかわからんが、具体的な付与の方法をだな、、、」
「はいはい、そうがっつかないで。」
「がっついてもいないが、、、」
「えと、その前に素材についての旦那の知識を教えてよ。」
「ん。あれ?そういや、キョウカって学習もするの?鎧なのに?なんか人族臭いよなぁ。」
「人族っぽい?」
「あぁ。人族の特性というか、魔族には無いものが成長だな。俺は半分人族だから、成長する意欲はあるけどな。」
「そう、成長ねぇ、、、まぁ、私は高性能だからね。その成長もしちゃうってことなのよ。多分。」
「それは、、、すごいな。最後の多分ってのが、一気に信用できなくなるが、武具が成長するって、どういう仕組みなのだろうか?全くイメージできないけど。」




