表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【超超短編小説】電車

掲載日:2025/12/21

 電車が来た。

 そして男は死んだ。

 それは別に大きな理由があった訳でも、強い衝動があった訳でも無かった。

 自殺と言うほどの勢いもなく、それはまるでコンビニや書店にでも入るみたいに軽い足取りで、男はプラットフォームから線路にふわりと踏み出した。


 警笛が鳴る。

 金属が擦れるブレーキの音と恐らくは女性の悲鳴、あとは男性の舌打ちが幾つか聴こえて、最後にスマートフォンを起動する音が少々。


 そこまでを想像している間に、快速電車は駅を通過していった。

 風が吹いて身体が電車に引き寄せられた。男は特に意識はしなかったが、足が黄色い線を越える事は無かった。

 前に飛び出さなくても良いはずだ。

 男はそう思ったけれど、誰もその背中を押す事はなかった。


 男は考えた。

 そうして死んだ時、君は何をしているのだろう。

 入浴剤を入れたお風呂でアイスキャンディーを食べるんだろうか。

 明日もクミンシードを入れたヨーグルトを食べるのだろうか。

 無理やりにでもあの部屋に棲み続けるだろうか。


 電車が来た。

 男は生きていた。

 少なくとも死んでいなかった。

 電車のドアが開いた。

 降車客たちがホーム上の乗客たちを押し退けるようにして流れ出た。

 誰もが不服そうな顔をしていた。

 男は電車に乗った。

 ドアが閉まった。

 硝子は誰かの皮脂で汚れていた。それは知らない人間の悲鳴みたいでもあったし、憤怒だとか嫌悪だとかかも知れなかった。

 少なくとも歓びだとかでは無かった。


 もう少しだけ電車に乗ろう、男は目を閉じた。

 電車は身悶えするように大きく揺れて、全てがひとつになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ