選ばれた理由
組合室の中は大きな窓が一つあるだけであとは壁一面に様々な書類が詰まった本棚が並んでおりちょっとした倉庫のようになっている為、少し薄暗かった。
そこでナウワーはイゴから吸血鬼討伐隊の目的を聞いた。
討伐隊は吸血鬼を捕縛し処刑台に送るために創設された隊であると。
「その…なんで自分か聞いても?」
イゴの顔を伺いながらナウワーは自分が吸血鬼討伐隊に選ばれた理由を聞く。
「まぁ、要請はミックスリー卿だが人選は儂だ。今回の徴兵で必要とされていたのは、戦力じゃない。この町を熟知していることだ。主な仕事内容はこの町に住む人間ですら知らないことの多い場所や道を隊のメンバーに教えることだからな。
その点で言うと君が一番適任だと思った。君は…スラムの方にも詳しいだろう?」
パーヴリの生まれだからと言ってもスラムの中を知る人間は少ない。犯罪の温床になっている場所に好き好んで近寄る人はいない。
そして近寄らなければ知ることもない。
だがナウワーは別だった。
ナウワーが口を開こうとするとイゴが制止するように掌を向けた。
「あぁ分かっている、ナウワー。儂も彼のところには何度か行ったことがある」
「…?」
ヴィオが不思議そうな顔をしている。
当然だ、イゴとナウワーの共通の知り合いの話をしているのだから何の話か分からないだろう。
「その…ヴィオがリーダーというのは?」
守闘士といってもまだ若い、若すぎるほどだ。経験豊富で頼りになる守闘士なら、この町にいくらでもいるはずだった。
ヴィオはその考えに気づいたのか少し不満そうな顔をしたがナウワーは知らないふりをした。
「ヴィオ君は、ミックスリー卿のお墨付きだ。実力は問題ない。知名度もな」
はぁ、とナウワーは納得しきれていない返事を返した。
「他に気になることはあるかね。無ければ今日は解散。ナウワー、君は明日から吸血鬼討伐隊として働くことになる」
「じゃあ最後に一つ…なぜ吸血鬼を捕まるんですか。」
ナウワーは吸血鬼の存在を肯定していた。
法や正義を振りかざしても救えないものがあることを知っているからだ。
そして吸血鬼のやり方なら救えるものがたくさんあることも知っているからだ。
これはこの町でよく議論されることだ。
吸血鬼は正義か悪か…。
「いくら正義や大義で取り繕っても人殺しは許されることではないです」
イゴが話す前にヴィオが口を挟んだ。
強い信念が宿った目をしてナウワーを見つめていた。
「…ヴィオ君の言うとおりだ。議会は吸血鬼の存在を重く見ている。この町を脅かす連続殺人鬼として。それに吸血鬼を捕縛することで救える命がある。理由はそれで十分だと思うが?」
イゴもナウワーを真っすぐ見据えてそう答えた。
ナウワーは二人に見つめられてなにかを言い返す気にはなれなかった。
「分かりました…」
イゴはナウワーの言葉を聞いて「よし」と言い手を叩いた。
「今日は解散だ。最後に、明日からは吸血鬼討伐隊として動くことはあまり人に言いふらさないように。誰が吸血鬼か分からんからな」
そう言ってイゴは顎鬚を揺らし笑った。
組合長室の窓から差し込む陽の光は埃っぽい部屋を薄く照らしていた。