ウォダナとの戦い
闇を走る牙。
宙を切り裂く爪。
月光が降るスラムの道で影は動く。
ナウワー達に襲い掛かった三頭の狼型ウォダナ、通称スゴルは隙の無い連携でナウワー達を徐々に追い詰めていった。
一頭が飛びかかるともう一頭が瞬時にそれに続き、躱して反撃しようとすると最後の一頭が反撃の隙を見て飛びかかる。
三頭目が飛びかかる次の瞬間にはまた一頭目が飛びかかってくるのだ。
厄介なことにスゴルに飛びかかられた場合、ナウワー達は基本的に躱すことしかできない。
人間相手と戦う時のように攻撃を受け止めようとしようものなら、たちまちその恐ろしく尖った爪や牙と凄まじい筋力によって受け止めた剣や盾を貫き致命傷を与えてくる。
ウォダナと戦うことが仕事の守闘士達が基本的に盾を持たない理由はそこにあった。
防御のつもりでウォダナに盾を構えることは自殺的行為なのだ。
しかしマヴィットは盾を持ちながらも、その盾を上手く使っていた。
飛びかかってくるスゴルの爪を盾で受けきるのではなく、その力を受け流すように盾を使い体を守っている。
それでもマヴィットの盾はスゴルの爪と牙によってボロボロになっていた。
「このままじゃ埒が明かん!」
ナウワーを庇いながら盾でスゴルの猛攻を受け流し続けるマヴィットはそう叫んだ。
スゴルの動きは凄まじく速く、マヴィットに飛びかかった次の瞬間にはヴィオやサンラバに飛びかかっていた。
「どうするんです!」
ヴィオもマントを翻らせ上手くスゴルの攻撃を躱しながら叫ぶ。
「オレ様が攻撃に出る。小僧、スゴルの攻撃を避けられるか…いや避けろ!」
「ナウワーは守闘士じゃないんですよ。無茶です!」
マヴィットの言葉にヴィオは反論した。
当然だ、守闘士でも全力で躱す必要がある攻撃を守闘士ではないナウワーが躱せるはずもなし。
しかし、ナウワーには、その攻撃を躱す自信があった。
マヴィットに守られている間、ナウワーはスゴルの動きをよく見ていた。
その素早い動きを目で追えていたのだ。
「大丈夫だ、絶対に避けられる!」
「一撃でも当たりゃ致命傷だぞ、本当かよ!」
ナウワーの言葉に斧を構えずに躱すことを優先にしていたサンラバが口を開く。
「すばしっこさには自信があるんだ」
ナウワーがそう言うとマヴィットは頷いた。
「よく言った小僧、狙われたら死ぬ気で躱せよ!」
マヴィットはそう言って盾を投げ捨て両手で剣を構えた。
「小娘、筋肉野郎、援護!」
マヴィットがそう言うのと同時にスゴルはマヴィットに飛びかかった。
マヴィットはスゴルの下を潜るように素早く姿勢を低くし、すぐ後ろに居たナウワーは咄嗟に横に避けた。
そしてマヴィットの頭上をスゴルが通り過ぎようとした時、マヴィットは低姿勢からスゴルを目掛けて全力で剣を振った。
鋭い斬撃音が響きスゴルの首が飛び胴体が地に落ちる。
それを見たマヴィットは舌打ちをした。
次の瞬間もう一頭のスゴルが、剣を振るった後の無防備な状態のマヴィットに飛びかかった。
「サンラバ、次は任せました!」
ヴィオはそう言うとマヴィットに飛びかかるスゴルの胴体に渾身の突きを放つ。
ヴィオの突きは空中でスゴルの胴体を貫いたが致命傷にはならなかったのかスゴルは体を捻り、その体を貫いた剣を引き抜くと瞬時に飛びのいた。
直後、三頭目のスゴルが躱せる体勢に無いヴィオに飛びかかる。
「まかせろ!」
そう言ってヴィオに飛びかかるスゴル目掛けてサンラバは大斧を横に薙ぎ払った。
しかしスゴルは空中で器用に体を捻りサンラバの斧を躱し着地した。
連携によって攻撃に転じながらも無傷なヴィオ達を見てナウワーは感心した。
「ナウワー、来るぞ!」
サンラバの声を聞いて意識を戦闘状態に戻したナウワーは素早くスゴルの位置を確認する。
すると、ヴィオの突きを食らったスゴル、サンラバの斧を躱したスゴル、そしてマヴィットに首を刎ねられたスゴルが次の標的と言わんばかりにナウワーを見据えていた。
「おい、あいつ首を刎ねられても動いてるぞ!」
「ウォダナは核となる結晶を破壊しないと倒せません!」
首が無くても動くスゴルに驚いたナウワーに対してヴィオは答えた。
恐らく核となる結晶とは奴らの体を貫くようにして生えている結晶の事だろう。
そして次の瞬間、首の無いスゴルがナウワーに飛びかかってきた。
「躱せ!」
マヴィットの声を聞いたナウワーは全力で体を捻り首無しスゴルの鋭い爪を躱す。
動き出しが一瞬でも遅れていれば鋭利な爪の餌食になっていたほど紙一重の回避であった。
「よくやった小僧!」
首無しスゴルの着地点に先回りしたマヴィットはそう叫んで剣を振り下ろし、首無しスゴルが着地すると同時にそのスゴルの胴体の結晶をたたき割った。
すると首無しスゴルは砕けた結晶と共に紫色の光る粒子となって宙に霧散した。
その様子はとても幻想的で現実のモノとは思えない美しさがあった。
「ナウワー、油断するな!」
ナウワーがそれに目を奪われているとサンラバはそう言って、ナウワーに襲い掛かろうとした次のスゴルに向かって斧を薙ぎ払い牽制した。
「あ、あぁ…すまん。サンラバ」
そう言ってナウワーは頭を振って意識を切り替えた。
「残り二頭ですから。ナウワー、あなたは下がっていてください」
ヴィオはそう言って剣を構え一歩前に出た。
「マヴィット、援護を。サンラバはとどめをお願いします」
「ふん」
「応!」
一歩前に出たヴィオに狙いを定めた二頭のスゴルは、先ほどと同様に連続でヴィオに飛びかかった。
ヴィオは飛びかかってきた一頭目のスゴルの口目掛けて全力の突きを放つ。
一頭目のスゴルはヴィオの剣によって口から腹まで裂け、結晶が砕け霧散した。
突きを放ち無防備な姿勢のヴィオに二頭目のスゴルが飛びかかるがヴィオの横から飛び出したマヴィットの鋭い斬撃によってスゴルは前足二本と首が切り離され地面に転がった。
「おら!」
地面に転がったスゴルが動き出す前にサンラバがスゴルの結晶に斧を叩きつけ、スゴルは霧散した。
「終わりましたね」
息を吐いて緊張を解いたヴィオはそう言った。
「まさか町中でウォダナ、よりにもよってスゴルと戦うことになるとはなぁ。冗談きついぜ…」
斧を地面に降ろしたサンラバはくたびれたようにため息をついた。
「サンラバの武器は素早いスゴルと相性が悪いですからね」
ヴィオはそう言って笑った。
その様子を見てナウワーはやっとウォダナとの戦闘が終わったのだと実感した。
「そういえばネイがいない…」
そう言ってナウワーは辺りを見渡した
当然、ネイは見当たらなかった。
「逃げられましたね」
「ウォダナを助っ人だなんだと言っといて本人は逃げんのかよ」
サンラバが呆れたように言うと盾を拾ったマヴィットがため息をついた。
「もともとスゴルを使って時間稼ぎをするのが目的だったのだろう。オレ様達はまんまと嵌められたわけだ」
「悔しいですが、今日は一旦帰りましょう。夜も更けてきましたし、満身創痍ってわけじゃないですけどかなり疲れました。疑問に思った事や不思議に思ったことは明日の朝、話し合いましょう」
「ふん」
「異議なし!」
「右に同じ。俺はもうくたくただ…」
「守闘士ではないのに守闘士並みの動きをしましたからね。無理もないです」
そうしてナウワー達は帰路に就く。
頭上の月は優しくナウワー達を照らしていた。




