発見と戦闘と
夜のスラムは風の吹く音以外何も聞こえないほど静かである。
明かりは月と紫彗星が降ろす光だけ。
セブンの探し物を手伝った日の夜、そんなスラムにナウワー達、吸血鬼討伐隊は潜入していた。
今まで、吸血鬼討伐隊は夜警と協力してスラムの近くに張り込むことはあったが夜のスラムに潜入することは無かった。
しかし、今回は新たに手に入れた吸血鬼の噂を手掛かりにスラムにて吸血鬼を探すことにしたのであった。
だが、スラムのどこに吸血鬼が現れるか分からない為、ナウワー達は夜のスラムを歩き回って吸血鬼の痕跡を探していた。
ナウワーは「そんな適当でいいのか」とヴィオに聞いたがヴィオ曰く「世界一の幸運は伊達じゃない」らしく、サンラバもそれに頷いていたので一旦納得しておくことにしたのだった。
そしてスラムにて吸血鬼の痕跡探しを始めて数刻が流れた頃。
それは起こった。
「…今、悲鳴と剣戟の音が聞こえませんでしたか?」
スラム街の南側、ボラ・スクーラの縄張り内と思われる場所を調査中にヴィオは突然そう言った。
「そんな音、聞こえたか?」
と辺りを見渡したサンラバは首を傾げた。
そこでナウワー達は皆で耳を澄ましてみると風の音と混じって微かに怒声のような音と金属のぶつかり合う様な音が聞こえてきた。
「今、確かに聞こえた…」
ナウワーがそうつぶやくとマヴィットやサンラバも頷いた。
「音のする方へ行ってみましょう!」
ヴィオはそう言って走り出し、それにナウワー達も続く。
音の方へ走り始めると少しずつ怒声と剣戟と思われる音が大きくなっていった。
そして大きな道の角を曲がった時、音の発生源をナウワー達は目撃した。
月明かりに照らされ剣を振るう影。
影は複数の相手に囲まれているのにも関わらず、それを圧倒しているように見える。
そして影の戦っている周りには倒れ伏した人影が複数見えた。
「吸血鬼…?」
ヴィオはその影を見て立ち止まった。
ヴィオが見つめる吸血鬼と思われる影はローブを羽織り深くフードを被っている為、顔がよく見えなかった。
「ヴィオどうした、まずは戦闘を止めるぞ!」
そう言ってサンラバは大斧を持ち影が戦う所に突っ込んでいった。
「小娘、行くぞ!」
マヴィットがそう言ってサンラバに続くとようやくヴィオも我に返ったのか剣を抜いた。
「危険なのでナウワーは離れていてください!」
そう言ってヴィオもサンラバとマヴィットに続いた。
遠くから吸血鬼が戦っている相手をよく見ると、皆ぼろぼろの服を着ていて獲物も良いものとは言えない物を使っているようであった。
統率も取れているとは言いづらいほどで数で勝っていてもそれを有利に活かせてないのが見てとれた。
その装備や戦い方を見るに吸血鬼と対峙している者達は恐らく窃盗団の人間であろう。
窃盗団の人間は基本的にお金の無い移民や乞食で構成されている為、戦い方を知らないことが多い。そのため見た目と戦い方で窃盗団であることが分かる。
「そこまでです、吸血鬼!」
「!」
戦闘に割って入り、そう叫んだヴィオを見て吸血鬼とそれを取り囲む者達の両者は驚いた様子であった。
「チャンスだ、逃げろ!」
吸血鬼を取り囲んでいた者達の誰かがそう叫ぶと窃盗団の人間たちは倒れ伏した仲間を担ぎ、皆急いでその場から逃げていった。
それを追いかけようとする吸血鬼の前にヴィオは立ちはだかった。
「行かせませんよ。あなたには聞きたいことが山ほどあるんです」
ヴィオはそう言うと剣を構えた。
すると吸血鬼はヴィオに剣を向けた。
「さっきの奴らと違って俺たちは強ぇぜ、やめた方がいいんじゃねぇか?」
サンラバがそう言って大斧を構える。
ヴィオ、サンラバ、マヴィットは吸血鬼を抑えるように取り囲んだ。
しかし吸血鬼に諦めた様子は無くただ静かに剣を構えていた。
「あなたに勝ち目はありません、武器を捨てなさい!」
ヴィオがそう叫ぶと吸血鬼は身を屈めた。
そして次の瞬間、吸血鬼はヴィオに飛びかかった。
「くっ」
吸血鬼が振り下ろした剣を剣で受け止めるヴィオ。
「それは…」
刹那、ヴィオは吸血鬼の何かを見てそうつぶやいた。
ヴィオと吸血鬼が鍔迫り合いをしているところにサンラバが吸血鬼目掛けて大斧を振り下ろす。
「そら!」
吸血鬼は咄嗟に後ろに飛び、サンラバの斧を躱したがその先にはマヴィットがいた。
「おおお!」
マヴィットは自分の方に吸血鬼が回避してくるのを読んでいたのか渾身の盾突きを放った。
しかし吸血鬼は器用に空中で体を捻りマヴィットの盾を足の裏で受け壁代わりにして高く上に飛んだ。
そして吸血鬼は建物の屋根上に乗るとそのまま走り去っていくのであった。
「ナウワー!」
ヴィオはまだ諦めていない表情でナウワーを呼んだ。
逃げる吸血鬼を追う為にスラムの道案内をして欲しいのだろう。
やっと出番が来たことに張り切ったナウワーはヴィオに対して大きく頷いた。
「こっちだ、付いてきてくれ!」
ナウワーはヴィオ達を先導し効率よく吸血鬼を追える道を選んで走った。
建物の屋根の上を通って逃げる吸血鬼は月に照らされて地面に影を落としていた。
それを追いかけて全速力で走るナウワー達。
もうすぐでスラムの出口に差し掛かるという所で、ナウワー達は足を止めた。
ある人間に行く手を阻まれたのだった。
「やぁ、昼ぶりだね。そんなに急いでどこに行くんだい?」
聞き覚えのある軽い口調とアクセサリーをこれ見よがしにつけている服装。
ネイだ。
「あなたには関係ありません。邪魔です」
ヴィオがネイを睨みつけるとネイは両手を上げた。
「おー、怖いね。でもどかないよ、関係あるからね」
そう言ってネイは笑った。
「おい貴様、どけ」
マヴィットが痺れを切らしたようにそう言うとネイは首を横に振った。
「昼間には気づかなかったけど君達、吸血鬼討伐隊って奴だろ。なら通すわけにはいかないよね、吸血鬼は大事な仲間だからさ」
「何故あなたが吸血鬼討伐隊を知っているんです」
そう言ったヴィオはネイに鋭い目線を向け続けた。
「ある方から聞いたのさ。注意すべき連中だってね」
ネイはにやけ顔でそう答えた。
「なるほど…まずは、あなたから色々話を聞く必要がありそうですね」
ヴィオはそう言うと握った剣をネイに向けた。
「吸血鬼を追いかけなくていいのか…?」
ナウワーが小声でヴィオに聞くと
「どうせもう追い付けません…」
とヴィオは諦めたように言うのであった。
「さすがに守闘士三人とやりあえるほど俺ちゃん強くないのよね。だから裏技を使わせてもらうよ」
そういうとネイは右手を掲げた。
そしてネイの右手に付いている指輪の一つが紫色に光りだす。
するとすぐに狼の唸り声のようなものが周囲から聞こえ始めた。
その声を聞いたヴィオ、サンラバ、マヴィットは驚いたように武器を構えなおした。
「この声は…ウォダナ!」
サンラバがそう言うとマヴィットがナウワーを庇うように盾を構えた。
「小僧、オレ様から離れるなよ!」
ヴィオは周囲を警戒しながらもネイに剣を向け続けていた。
「町中にウォダナ…一体何をしたんですか!」
「なぁにただ助っ人を呼んだだけさ」
ヴィオの言葉にそうネイが答えると唸り声の主が道の端に置かれた木箱から飛び出した。
一見狼のように見えるそれは、狼よりも体が一回り大きく牙や爪も恐ろしく尖っている。
そして何よりも目を引くのが、体を貫通するように生えている紫色の結晶である。
「狼型ウォダナ、スゴル…!」
ヴィオがスゴルと呼んだ狼型のウォダナはナウワー達を取り囲むように三頭ほど現れた。
ナウワーは初めてウォダナを見たがヴィオ達の様子を見て相当に危険であることを悟った。
そしてナウワーはヴィオに花粉症の薬だと説明した薬を静かに飲んだ。
「さぁ、戦いの始まりだ」
そうネイが言うと同時に三頭のスゴルはナウワー達に飛びかかったのだった。




