盗人少女の探し物
「良かったのか?」
ナウワーがヴィオにそう聞いたのはネイが見えなくなり、路地裏からスラムに入って暫くしてからであった。
「何がです?」
ヴィオは何のことか分からないと言った様子で歩きながらナウワーを見た。
「ナウワーはさっきの男、ネイをなんで見逃したのかって聞きてぇのだろうよ」
ナウワーが言う前にサンラバが疑問を要約してくれた。
「あぁ、簡単な話です。今の目的はセブンの大切な物を拾いに行く事ですから」
「でもせっかくボラ・スクーラの、自称だけど偉い奴に会えたんだぞ?」
ナウワーはせっかくのチャンスだったのでその場で捕まえてしまえばよかったのにと思っていた。
それを見透かしたのかヴィオは肩をすくめた。
「今はセブンも一緒に居るんですよ。戦闘になって人質に取られたらどうするんです」
「あ、そうか…」
ナウワーのその様子を見てセブンは「アタシの事考えてないなんてひどい」と言ってナウワーをど突いた。
「それに、彼はわざわざ自分がボラ・スクーラの偉い人だと自己紹介して行く手を阻んできたんですよ。それほどまで縄張りの中に入れたくなかったんだったら、縄張り内を歩いていたらまたすぐに会うことになると思いますけどね」
ヴィオがそう言ってスラムを進んでいると、急にセブンが「ここ!」と言って立ち止まった。
セブンの前を見ると建物と建物の間に瓦礫の山があった。
「ここがセブンが住んでた場所か…?」
「今は完全に崩れちゃってるけど、前は小さな家の形をしてたんだよ」
セブンは悲しそうな顔でそう言った。
「大切な物はここに?」
ヴィオが確認すると「絶対に」と言ってセブンは頷いた。
「瓦礫をどかす必要がありますね。サンラバ、ナウワーお願いします。」
ナウワーは自分が呼ばれると思ってなかった為、驚いた。
「マヴィットの方が力が強そうだし適任じゃ?」
「じゃあ自分で交渉してください」
嫌そうな顔をしたヴィオがそう言うのでナウワーはマヴィットに声をかけた。
「マ…」
「やらん」
何かを言う前にマヴィットに断られてしまったナウワーを見てヴィオは「ほらね」と言わんばかりの顔をした。
「ボク達は変な奴が来ないか見張っておきますから頼みましたよ」
そう言ってヴィオとマヴィットは少し離れたところに陣取った。
「まぁ、マヴィットが力仕事を嫌うのは今に始まったことじゃあねぇ。しょうがねぇからさっさとやって終わらせようぜ、ナウワー」
「ああ…」
サンラバに励まされたナウワーは気合を入れるために袖をまくった。
「二人とも頑張れー」
セブンが少し離れたところで応援していた。
それから暫くして瓦礫の山が片付き始めたころ、セブンは元々家だった場所を首を傾げながら漁っていた。
「あれ…おかしいな…」
セブンの声を聞いて元々屋根の役割を果たしていたであろう瓦礫を端に除けていたサンラバが口を開いた。
「どうした」
「いや…探し物が無くって…」
そう答えるセブンを見てナウワーは頭を掻いた。
「俺達も探すから何を探しているのかそろそろ教えてくれ」
ナウワーがそう言うとセブンは少し悩んだ後に頷いた。
「本当は初見の驚いた反応が見たかったんだけどしょうがないか…。探しているのはロケットペンダントだよ。小さな宝石があしらわれていて一見ネックレスにしか見えないんだ」
「宝石のあしらわれたロケットなんて高そうなもの、よく持ってたな?」
サンラバがそう言うとセブンは俯いた。
「アタシの母親の形見なんだ…」
俯いたセブンを見たサンラバは首を傾げた。
「そんな大事な物ならなんで持ち歩いてなかった?」
「盗みを働くときは邪魔になるし、基本スラムに住んでいる人間は高価な物なんて持ってないから家に置いといても家を荒らされることもないかなって思ってさ…」
そう言って俯いたままセブンは再度瓦礫を漁り始めた。
「そんじゃ、瓦礫をどかしつつ俺達も探すか…」
サンラバの言葉にナウワーは頷いた。
それから日が傾き空が茜色に染まるころまでセブンの大切な物、ロケットの捜索は続いた。
しかしロケットが見つかることは無かった。
「日も傾いてきましたしそろそろ、帰りましょう」
辺りを警戒していたヴィオがそうナウワー達に話しかけた。
「もうちょっと探したいんだけど…」
セブンが悔しそうな顔をしてもヴィオは首を横に振った。
「夜になったら視界が悪くなります。そうなったらボラ・スクーラの縄張りであるここで何が起こるか分かりません。帰りますよ」
ヴィオは「それに」と言って瓦礫の山があった場所に目を向けた。
「ナウワーとサンラバのおかげで瓦礫はほぼ撤去されましたし、もうここは調べ終わったでしょう。ここにないなら誰かが持ち去ったってことです。これ以上ここを探しても仕方ないですよ」
ヴィオがそう言うとセブンは「うん」と言って悔しそうに頷いた。
「なぁ、ここって窃盗団の争いに巻き込まれて崩れたんだろ?」
悔しそうなセブンを見てナウワーは口を開いた。
「そうだけど…?」
セブンはナウワーの言葉に不思議そうに答えた。
「なら持ってった奴は窃盗団の奴なんじゃないか?」
ナウワーがそういうとヴィオが「そういえば」と口を開いた。
「ボラ・スクーラには指輪やネックレスをじゃらじゃら付けた人がいましたね」
間違いなくネイの事だ。
「アイツ、持ってなさそうだったけど…」
セブンがそういうとマヴィットは
「あそこまで馬鹿みたいにアクセサリーを付けているのなら部下に収集を任せていることも考えられる。なにか知っているかも知れん」
と言って面倒くさそうにため息をついた。
「彼に会う理由が増えましたね」
ヴィオがそう言うとサンラバは首を回して骨を鳴らした。
「何はともあれ、今日はもう帰ろうぜ。すこし休みてぇ」
サンラバが肩をほぐすように腕を回しながらそう言うと全員が賛同した。
そうしてナウワー達が帰路に就く時、その頭上では紫彗星が怪しげに尾を引いているのであった。




