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長い一日の終わり

 ミックスリー卿の居る中央区に戻る際中、ブルーの部下たちは諦めずに襲い掛かってきたが、剣を取り戻したヴィオや戦い足りないサンラバによってあっと言う間に蹴散らされていた。

 マヴィットはというと、気絶しているブルーを紐で縛って担いでいた。

「にしても、小僧。お前は非戦闘員ではなかったのか」

 中央区に続く大通りを行き、市庁舎がもうすぐ見えてくるという頃、歩きながらマヴィットはそう聞いた。

「守闘士組合で働く人間は最低限の護身術を最初に学ぶんだよ。守闘士と喧嘩になっても殺されないようにってね」

 歩きながらブルーに切られた頬に布を当てているナウワーはそう答えた。

「本当にそれだけか。ただの護身術が騎士相手に役立つとは思えないが…」

 しつこく聞いてくるマヴィットにナウワーは「でも役に立った」といって話を終わらせた。

 まだブルーの部下たちが残っていないか周囲を警戒するヴィオとサンラバに道を先導してもらい、ほどなくしてナウワー達は市庁舎に辿り着いた。

 市庁舎に入って近くに居た使用人にミックスリー卿を呼ぶように伝えるとミックスリー卿は会議を抜け出して急いでやって来た。

「兄さん…」

 マヴィットが担いでいる気絶したブルーを見て、ミックスリー卿は全てを悟ったのか虚しさと悲しさが混じったような表情を浮かべた。

「ブルーの口から直接、守闘士を殺したと言う話を聞きました。残念ながら証拠という証拠はありませんが、ボク達はブルーに彗星術まで使われて口封じの為に殺されかけたので、彼が吸血鬼の手段を模倣して街中で人殺しを犯したのは間違いないでしょう」

 ヴィオはそう言うとミックスリー卿は頷いた。

「細かい調査は私の方でこの町の騎士団を動かして調べてみよう」

 そう言ったミックスリー卿は使用人を集めて気絶したままのブルーを運ばせた。

「この市庁舎、実は牢屋が付いているんだ。不思議だよね」

 そう言ってミックスリー卿は悲しそうに笑った。

「それではボク達はこれで一旦組合に戻ります」

 ヴィオがそう言ってナウワー達が市庁舎を後にしようとした時、ミックスリー卿が口を開いた。

「今回の件、吸血鬼の模倣犯を捕まえたと言う事で報酬のボーナスを出しときます。組合に戻ったら受け取ってください」

 その言葉に礼を言ってヴィオ達は市庁舎を後にしようとした。

「すまんちょっと厠借りていいか、ずっと我慢してたんだ」

 ナウワーがそういうとミックスリー卿が「厠は向こうですよ。反対側の扉が牢屋部屋への入り口なんで間違えないように」と言って厠の方向を指さした。

 そうしてナウワーが厠から帰ってきてようやくヴィオ達は市庁舎を後にしたのだった。


 組合までの道を歩きながらナウワー達はこれからの行動を話し合っていた。

「とりあえず組合に戻ってボーナスを受け取りましょう」

 ヴィオがそう言うと

「これでやっと俺に飯代と宿代を払ってくれるんだな」

 とナウワーは言った。

「お前たちの金のことはどうでもいい。今夜どうするかが重要だろう」

 マヴィットはあきれ顔でナウワーとヴィオを見た。

「正直マヴィットと俺は元気が有り余っているからなぁ。俺たちだけでも張り込みに行くか?」

 サンラバがそういうとマヴィットは「お前と一緒にするな」と言いつつ夜の張り込みには賛成していた。

「ボクもそこまで疲れてはいないので張り込みに行きます」

 ヴィオも元気が余っていると言った感じでそう言った。

「俺は、今日はもう休ませてもらおうかな…」

 ナウワーがそう言うとヴィオ達はその選択に納得するように頷いた。

「そもそもそんな切り傷だらけのぼろぼろの体で付いてこられても困る。大人しく医者の所に行け」

 マヴィットがそう言うとヴィオが「彼なりに心配しているみたいです」とナウワーに耳打ちしてきた。


 そうして組合に着いたナウワー達は、ボーナスを受付で貰った後に、一旦解散することにした。

「日が落ちたら前と同じ場所に張り込みましょう」

 ヴィオがそうマヴィット達に言うとマヴィット達は頷いてどこかに歩いて行った。

 恐らく夜になるまで少し体を休めるのだろう。

「ボク達も一度帰りましょうか」

 ヴィオがそう言うとナウワーは驚いた。

「ボーナスを貰っていただろう。それがあれば宿屋に泊まれるんじゃ?」

 ちなみにヴィオ達守闘士は依頼として吸血鬼討伐隊に居る為、報酬のボーナスがあったが徴兵されて隊にいるナウワーにボーナスは無かった。

「そりゃ泊まれますけど…ナウワーの家はなんだかんだ居心地がよくてですね…」

 ヴィオは照れくさそうにして笑った。

 ナウワーはそれを見ているとなんだか顔が赤くなってくる気がしたので誤魔化すように口を開いた。

「分かったよ。一緒に帰るか」

「じゃあ、アタシも!」

 後ろから突然元気よく声をかけられて驚いたナウワー達が振り向くとそこにはセブンがいた。

「セブン、どうしてこんなところに?」

 元気いっぱいなセブンにナウワーは聞いた。

「だってさっきなんも分からずに帰らされたんだもん。いろいろ気になっちゃってさ。今から家に帰るんでしょ。途中で色々教えてよ」

 ナウワーはどうするかヴィオに視線を送って問いかけた。

 ヴィオは少し悩んだ後、いいですよと言った。

「いいのか…?」

 ナウワーはヴィオに耳打ちする。

「えぇ、彼女のおかげでブルーを捕まえられたようなものですし。それにきっと彼女は教えないと一生付きまとってくるタイプですよ…」

 ヴィオの言葉に納得したナウワーは家までの道中でセブンにこれまでの経緯を話すことにした。


「へぇ、それでスラム周りを嗅ぎまわっていると」

 ナウワーは家に向かって歩きながらセブンに隊のことなど色々なことを説明した。

「他言無用だぞ」

 ナウワーはほぼ睨みつけるようにしながらセブンにそう言うと

「大丈夫、アタシ窃盗団に所属してないし」

 と返事が返ってきた。

「それは大丈夫な理由にならないと思うが…」

 そんなことより、とあきれ顔のナウワーをよそにセブンは話題を変えた。

「お兄さんとお姉さんは一緒に住んでるの?」

 突然の話題でナウワーは何もない所で躓いた。

「ええ、一時的に住まわせてもらってます」

 至って冷静に答えるヴィオを見てナウワーも冷静に努めた。

「うらやましい。アタシも住まわせて!」

「え、いやだが…」

 突然のセブンの申し出にナウワーは面食らった。

「窃盗団同士の争いに住んでた場所が巻き込まれたおかげでアタシ、住む場所が無くなっちゃったんだよ。今日、あの筋肉のおじさん達に会ってたのもそれについて相談してたんだ。断られちゃったけど…」

 そりゃそうだ。

 誰も盗人を家には入れたくないだろうし、ましてや相手はまだ幼さが残る少女だ。

 家に招き入れるところを周囲の人に見られたらなんて言われるか想像に難くない。

「ならナウワーは問題ないですね」

 ナウワーの思考を先読みしたのかヴィオはそう言った。

「ナウワーの住んでいる場所は人に見られる場所にありませんから」

 ヴィオがそう言うとセブンは辺りを見渡した。

「そう言えばここ倉庫街だよね。こんなところに家あるの?」

 そうセブンが疑問を口にした時、ちょうどよくナウワーの家の前に着いた。

「ここが俺の家だよ」

「え、倉庫じゃん!」

 当然の反応だった。

「それでどうするんです。ナウワー」

 ヴィオはセブンをどうするかナウワーに尋ねた。

「お願い。こんな幼気な少女を野宿させるなんて鬼畜なことしないって信じてる!」

 よくもまあ自分で自分の事をそんな風に言えるとナウワーは思った。

「他に頼れる人もいないんだ。お願い!」

 熱心に頭を下げるセブンに根負けしたナウワーはセブンも家に泊めることに承諾した。

「やった!」

 ヴィオとセブンはなぜかハイタッチしていた。

「言わなくても分かると思うが中の物を盗むなよ」

「わかってる!」

 元気にそう返事をするセブンを見て全く調子がいい奴だとナウワーは思った。



「痛、もうちょっと優しく巻いてくれ」

「えー、人にこうするの初めてなんだからこれくらい許してよ」

 ナウワーの家、ランタンの光が部屋を薄く照らす中、セブンはナウワーの手当をしていた。

 住まわせる礼としてセブンに手当をしてもらうことにしたナウワーだったがセブンの手つきは荒っぽく、包帯も力強く巻かれて痛みが伴っていた。

 ナウワーは、これなら自分でやればよかったと後悔していた。

「よし終わり!」

 そう言って勢いよくセブンはナウワーの背中を叩いた。

「ぐお!」

 体を強く打ち付けたばかりのナウワーには少女の一撃ですら相当な痛みに変わるのだった。

「セブン…」

 ナウワーがセブンを恨めしそうに睨みつけるとセブンは何故か得意げに笑うのだった。

 ナウワー達のその様子を座ってのんびり眺めていたヴィオは天窓から覗く夜空を見て「ではそろそろ行きます」と言って立ち上がった。

 そしてヴィオは家を出る前にセブンを手招きした。

 セブンがヴィオに近づくとヴィオはセブンに何かを耳打ちで伝えていた。

「おいおい、気になるからそういうのは見えないとこでやってくれ」

 困り顔でナウワーが言うと

「じゃあ見ないでください」

 ヴィオは笑顔でそう言った。

 セブンはヴィオに「任せといて!」と言っていた。

 一体なにを任されたのだろうか…。

「では行ってきます」

 ヴィオはそう言って積みあがった木箱の間を抜けて家の玄関に向かった。

「おう、いってらっしゃい」

 家を出ていくヴィオを見送る。

 こうして誰かを見送るのはいつぶりだろうか…。

 ナウワーは少ししんみりとした感情に包まれた。

「ねぇ、お腹すいたんだけど」

 そのセブンの言葉にナウワーの先ほどの感動にも似た感情は一気に吹き飛んだ。

「そこの箱の中漁ってみろ、干し肉と黒パンが入ってる」

 溜息をつきながらそう言って木箱に指を指すとセブンは嬉々として木箱を漁った。

 さすがというかなんというかセブンが木箱を漁る際の手際はかなり良かった。


「硬い…」

「そんだけ硬いと長いこと食べられて嬉しいだろ」

「まぁ、そういう考え方もあるか。何も食えないよりましだね」

 意外と素直にナウワーの言葉を聞いたセブンは干し肉を咥えながら暇つぶしに、手当たり次第辺りの木箱を漁り始めた。

「あんまり派手に荒らすなよ、整理してあんだから」

「大丈夫、そういう痕跡を残さないようにするのは慣れているから」

 なんで慣れているかは聞かなくてもなんとなく想像がつくので聞かないことにした。

「お、なにこれ?」

 木箱を漁っていたセブンは気になるものを見つけたのか木箱から何かを取り出してナウワーに見せてきた。

「あぁ、ウォールピックか。ダンジョン攻略を生業にする守闘士が必ず持っているものだ」

 ウォールピックは一対になった針が付いている取っ手のようなもので、針の部分を壁に突き刺して壁を登る際に手をかける場所や足場にする道具だ。

「へぇ、初めて見た。なんでこんなものがあんの。しかも箱いっぱいに」

「そりゃここが元々守闘士組合の倉庫だったからだよ。外に組合の看板付いてただろ」

 セブンは笑って「見てなかった」と答えた。

 そしてまた新たな木箱を漁りだすセブン。

 彼女の暇つぶしはまだ終わらない様だ。

「お、また変なの発見」

 次にセブンが取り出したのは袋の形をしたものだった。

「ああ、それはサシェ…匂い袋だな」

 守闘士という職業は強いストレスを感じて不調に陥る人間が少なくない。

 その為、ストレスを和らげるためのリラックス効果のあるハーブを詰めている匂い袋が少し前に守闘士達の間で流行った。

 木箱に詰まっているのはその流行の余り物だった。

「あ、でもそれの匂いを嗅がない方がいいぞ。それ安眠用の匂い袋なんだが、効果が強すぎて問題になったんだ」

 ナウワーがそう言って水を飲もうと水差しに手を伸ばした時、すでにセブンは匂い袋に鼻を近づけていた。

「ふにゃ…」

 匂いを嗅いだセブンはふらふらと倒れそうになっていた。

「お、おい!」

 慌ててナウワーが抱き留めるとセブンはそのままナウワーの腕の中で寝息を立て始めた。

「遅かったか…」

 ナウワーはセブンをベッドの上に連れていき布団をかけて寝かせた。

「さて、俺も飯食うか…」

 そうして夜は更けていく、ナウワーの家の天窓からは紫彗星と夜空が綺麗に見えていた。


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中々劇的な効果の匂い袋ですね!?
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