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路地裏の戦い

 一言で表すなら劣勢だった。

 ブルーが持つ直剣はナウワーの短剣に比べてリーチがある。

 その為、ナウワーは不用意に踏み込むことが出来ずに防戦一方であった。

 それにブルーの一撃の重さはナウワーにとって辛い物であった。

 片手で握った短剣で直剣の攻撃を正面から受けきるとそれだけで骨まで響くほどの痛みが手に、腕に走った。

「どうした降参して首を差し出すか?」

 ナウワーとの距離を保ちつつブルーはそう言った。

「まだまだこれからさ…」

 ナウワーは額の汗を片腕で拭う。

 強がりを言ったもののナウワーの護身術とブルーの騎士剣術では絶対的な差があった。

 ブルーはナウワーが普通に戦って勝てる相手ではないのだ。

 ならばどうするか。

 普通に戦わずに相手を翻弄する。

 倒す必要は無い。

 時間をかければいい。

 そうすればヴィオが助けに来てくれる。

 ナウワーは戦闘の流れをこちらに呼び込む為にリスクの高い動きを取ることにした。

 直剣には短剣に無いリーチがある。

 なら短剣にあって直剣に無いものは?

 それは…速さだ。

「ぎぃ!」

 全速力でブルーに走り込んだナウワーはブルーの剣を短剣で受けきり、歯を食いしばり短剣を握る手に力を込め、そのまま短剣を滑らせブルーの懐に踏み込んだ。

 防戦一方だったナウワーが強気に攻め込んできたことにブルーは一瞬戸惑った様子だったがすぐに懐に入り込んだナウワーに回し蹴りを放つ。

 体の力を抜くようにしてナウワーは素早くしゃがみ、ブルーの回し蹴りを躱すと得意のしゃがみ姿勢からの前蹴りを放った。

 前蹴りを腹に食らったブルーは一瞬後ろによろけた。

 それを見逃さずナウワーは低姿勢からブルーの懐に再度飛び込む。

「意外とやるじゃないか!」

 ナウワーはナイフで突きや切り払いを連続で出すが全てブルーの直剣で防がれてしまう。

 しかしこれでよかった、このままナウワーが攻撃をし続ければブルーは攻撃に転じることが出来ない。

 ナイフでは騎士相手にダメージを与えることは出来ないが、確実に時間は稼げていた。

 助けを待つ今の状況は一秒単位の遅延行為が重要なのだ。

「甘い!」

 ナウワーは動きを読まれないように短剣を振るリズムや方向を変えながら攻撃を繰り出していたが短剣を振りかざす一瞬の隙をブルーに見破られてしまった。

 結果、ブルーの放った前蹴りを腹に食らいナウワーは大きく後ろに吹き飛び地面を転がった。

「グッ!」

 ナウワーはすぐに立ち上がったが受け身を取れなかったせいで全身に痛みが走っていた。

 もう持たないぞ…そうナウワーは内心焦りを覚えていた。



 その頃、ヴィオは路地を走っていた。

「ネコネコ!」

 走りながらそう虚空に呼びかけるとどこからともなく猫のように見えるものが飛び出してきた。

「マヴィット達の所に案内してください!」

 ヴィオの焦りを感じ取ったのかネコネコと呼ばれたモノは走り出した。

 それに急いでついて行くヴィオ。

 駆け抜けるネコネコはおよそ人間が通る場所ではない塀の上や屋根の上を通る。

 それが最短の道だと言わんばかりに。

 ヴィオは食らいつくようにネコネコを追いかけた。

 その動きについて来れなかったのか途中からヴィオを追うブルーの部下たちの姿は無かった。


 ネコネコと財布の取りあいをしてた時とは違う。

 ナウワーの命がかかっていると思うとヴィオは空すら飛んでみせる気持ちであった。

 そして本当に空を飛んだ。

 正確にはネコネコについて行く形で二階建ての建物の屋根上から地面に飛び降りたのだ。

 綺麗に受け身を取るヴィオ。

 すると目の前には驚いた顔のセブンとマヴィット、サンラバがいたのだった。

「サンラバ、ボクの武器を!」

 受け身から立ち上がった勢いのまま言うとサンラバは「あ、ああ」と言って剣とマントをヴィオに返した。

「何があった。小僧は?」

 マヴィットは冷静にヴィオに問いかける。

「ブルーが守闘士殺しの犯人だったんです。今、ナウワーが戦って時間を稼いでいます。とにかく急いで助けに行かないと!」

 焦った様子のヴィオを見てマヴィットとサンラバは顔を合わせた。

「いまひとつ状況が掴めないが詳しいことは走りながら説明しろ。いいな?」

 マヴィットがそう言うとヴィオは汗を拭いながら頷いた。

「セブン、あぶねぇと思うからおめぇは一旦帰りな」

 サンラバが、目を白黒させているセブンにそう言った。

「う、うん。わかった」

「では小娘案内しろ」

 セブンが走り去るのと同時にマヴィットがそう言った。

それにヴィオは頷いて走り出した。

 間に合ってください…そう祈って。


 一方その頃、ナウワーは壁際に追い込まれていた。

 全身を打ち付けた痛みに耐えながら戦うのは難しく再び防戦一方であった。

 そしてブルーの一撃は先ほどよりもさらに強く激しくなっている。

 ナウワーはブルーの攻撃をぎりぎりのところで躱すかナイフで受け流すのが精一杯だった。

「どうしたどうした、もうすぐ私に殺されてしまうぞ」

 ゲラゲラと笑いながらブルーは剣を振るう。

「ここで降参って言ったら、逃がしてくれる?」

 ナウワーはナイフで剣撃をどうにか受け流しそう言った。

「降参したら、苦しまないように殺してやる」

「そうかよ!」

 疲れてきたナウワーを見て一瞬油断したのか大振りで剣を振るブルーにナウワーは払い蹴りを放った。

「ぬおっ!」

 尻餅をついたブルーにナウワーはのしかかり短剣を突き立てようとしたがブルーは剣を手放しナウワーの短剣を持つ手首を抑えてきた。

「おら!」

 そしてブルーが体をずらすとブルーとナウワーの上下が逆転し今度はブルーがナウワーを組み敷く形となった。

「逆転だな!」

 そう言ってブルーはナウワーの持つ短剣を力で無理やりナウワーの方に向けて押し付けた。

 ナウワーも力で抵抗するがブルーの方が僅かに力が強くナイフがナウワーの首元に近づいていく。

 その時、遠くから「ぎゃあ」と悲鳴が聞こえてきた。

 ブルーとナウワーが同時に声の方向を見るとサンラバが道を囲んでいた騎士達を蹴散らしていた。

 そしてブルーが目を逸らした一瞬の隙を見て、ナウワーはブルーとの体の間に片足を入れ込み巴投げを放った。

 宙を舞ったブルーは地面に背中を強打する。

「小僧、大丈夫か!」

「ナウワー!」

 サンラバが騎士達の相手をしている隙にマヴィットとヴィオがナウワーの元に駆け付け、ヴィオがナウワーに手を伸ばした。

「ちょっと遅い…」

 そう言ってヴィオの手を取りナウワーは立ち上がる。


「くそが…まだ終わりじゃないぞ!」

 ブルーがナウワー達から少し離れたところで立ち上がり左手でナイフを抜き右手を胸に当てた。

 するとブルーの体が紫色に光り耳鳴りのような音を出しながら消えた。

「もう容赦はなしだ、何も分からないまま死んでいけ!」

 そう声がすると足音が響いた。

 確かに前方から足音が聞こえるがブルーが誰を狙っているのか分からない為、ナウワーはどうする事も出来なかった。

「ここはまかせろ」

 マヴィットが一歩前に出る。

 そして胸の前に剣をかざす。

 するとマヴィットの剣が紫色に光り、その光は周囲に一気に広がった。

「ぐっ、目くらましなど。子供騙しを…」

 光に目を眩ませたブルーは姿を現しよろけながらそう言った。

「ふん!」

 ブルーが目を眩ませているうちにマヴィットが素早くブルーに詰め寄り剣の柄頭で後頭部を殴ると程なくしてブルーは気絶した。

「マヴィット、彗星術を使えたのか…」

 ナウワーが驚いたように言うと

「オレ様が使える訳じゃない。相手の彗星術を打ち消す術みたいなもんが剣に付いているだけだ」

 とマヴィットは答えるのであった。

「おいおい、もう終わっちまったのか」

 声のする方を見るとサンラバが騎士達を気絶させてつまらなさそうにしていた。

「えぇ、皆さんお疲れ様です」

 ヴィオがほっとしたようにそう言った。

「そういうのはまだ早いぞ、小娘。この気絶したブルーをミックスリーの奴の所に連れて行ってようやく終わりだ。それまで油断するな」

 マヴィットがそう言うと「すみません」とヴィオは頭を掻いた。


 ナウワーが体の痛みを和らげるように息を吐きながら空を見上げると太陽は傾き始めていて、紫彗星が綺麗な尾を引いているのが見えるのだった。


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― 新着の感想 ―
救援が間に合ってホッとしました笑 剣自体に効果がついているのは便利そうですね。
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