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盗人少女が見たもの

 昼飯時の守闘士組合は、とても混みあう。

 それは組合併設の酒場に守闘士達が集まる為である。

 組合に併設された酒場は守闘士向けの安い食事を提供しており安定した収入の望めない守闘士達に重宝されている。

 それに加えて組合で働いている人間以外、市民は居ないので周りを気にせずに騒げる場所としても人気があった。

 世間では、組合が関係していない酒場や飲食店を利用できてようやく一人前の守闘士と言われることもあるが最終的には皆、居心地の良さを求めて組合の酒場に帰ってくるのだ。


 そんな混みあう組合に帰って来たナウワー達は、酒場で料理の注文をして二階の吸血鬼討伐隊の集合部屋で食事をとることにした。

 集合部屋に入った際に、セブンが不思議そうな顔で「なんでみんなには部屋があるの」と聞いてきたが、ナウワーは「俺たちは運が良かった」と適当に誤魔化した。


「それで、早速本題に入りますけど」

 部屋に料理が運ばれてきて各々食事をとり始めてから少し時間が経った頃、ヴィオはニシンのパイから飛び出したニシンの頭をフォークでつつきながら口を開いた。

「セブン。四日前の夜、あなたが何を見たのかもう一度詳しく話してみてください」

 見たこともないような大きさに焼いた豚肉にかぶりついていたセブンは、肉を嚙み切って飲み込むと「いいよ」と言ってからさらに肉入りポタージュを一息で飲み込んだ。

「じゃあ、アタシが夜にうろうろしてる不用心な守闘士を見つけたところからで良い?」

 ヴィオはフォークを置いて頷く。

 マヴィットは葡萄酒に口を付けながらも目線だけはセブンを見ていた。

「アタシ、新しい仕事場として目を付けたあの道で、昼過ぎから息を潜めてちょうど良さそうな獲物が通るのを待っていたんだ。でもスラムに近すぎたのかお金を持ってなさそうな奴しか通らないわけ。そのうち空も暗くなってきて、この場所は失敗だったなあって思って諦めようとした時、どこか慌てた様子のお金を持ってそうな守闘士が走ってくるのを見つけたんだよ。腰に剣を下げていたから間違いなくお金を持っているタイプの守闘士だった」

 セブンの話を聞いてヴィオは口を開いた。

「死亡した守闘士は剣の抜けた鞘を腰に下げて死んでいました。そしてその近くに微かに血の付いた抜き身の剣が落ちていました。やはりあれは吸血鬼が元々持っていた剣ではなかったのですね…」

「それで」とセブンは話を続ける。

「その守闘士は立ち止まって息を切らしながら辺りを見渡した後、よろよろ歩き出したのさ。今が財布を取るチャンスって思って忍び寄ろうとしたら急に叫んで、剣を振り回し始めて…」

 マヴィットは葡萄酒の入った木のコップを置いた。

「そいつはなんて叫んだんだ」

「ただ、うわぁって」

 セブンがそう答えるとマヴィットはつまらなそうに鼻を鳴らした。

「その後、急に口から血を吐いて倒れた」

 ナウワーはそら豆のスープを飲み干して口を開いた。

「急に…。何も変なことは無かったのか?」

「うーん、無かったと思うけどね…」

 セブンは当時のことを必死に思い出すようにうんうんと唸っている。

「人影とか…音とか匂いとかは?」

 ナウワーのその言葉を聞いた瞬間、セブンはまるでつっかえたものが取れたかのように驚いた顔をした。

「そうだ…あった。あの時、変な音が聞こえてたんだ。キーンって耳障りな音」

 ヴィオは「重要な情報ですね」とすぐにメモを取った。

「音はフードの怪しい奴が来るちょっと前まで鳴ってた」

「吸血鬼が来る前に鳴りやんだならボクが知らない訳です」

 セブンはヴィオを見た。

「やっぱりあの後来たのはお姉さんだったんだ。結構格好良かったよ」

 ヴィオは複雑そうな顔をした。

「それでフードの…その吸血鬼が守闘士の落とした剣を拾ってすぐ後、お姉さんが来たって感じかな。そこからはアタシ、その場から逃げたから知らない」

 セブンが話し終えるとヴィオは顎を摩った。

「首筋の例の傷は一体いつ付いたんでしょう…」

 悩むヴィオを見てマヴィットが口を開く。

「恐らく血を吐いた時だ」

 ヴィオは不思議そうにマヴィットを見た。

「でも、突然血を吐いたと言っていますよ。誰かを見た訳でなく」

「彗星術の中には、自らを視認できなくするものがある。そう言った彗星術は大抵特殊な音を鳴らし、その音が聞こえる範囲にのみ効果を発揮するのだ。耳障りな音に、現場に落ちていた彗星晶…これで説明がつく。奴も音の意味を知っていたから剣を振り回したのかもしれんな。残念ながら首筋を刺されたようだが」

 ナウワーはマヴィットの知識量に疑問を持った。

「なんでそんなに彗星術に詳しいんだ?」

 すると呆れた顔のマヴィットはナウワーを向いてため息をついた。

「小僧、オレ様の恰好を見てわからんのか…。自分で言うのは気に食わんが教えてやる。オレ様は元貴族だ」

 やっぱりか、とナウワーは思った。

 甲冑を着込んで盾を持っている守闘士なんてそれくらいの身分だった人間じゃないと考えられないからだ。

「分かっているのならわざわざ聞くな」

 マヴィットはナウワーの考えていることが読めたのか舌打ちしてそう言った。

「もし本当に彗星術の術者が守闘士を殺したなら、その術者も吸血鬼…でいいんですかね」

 ヴィオは小さく唸った。

「でも吸血鬼が彗星術を使うなんて噂聞いたことがない。そいつはただの吸血鬼の模倣犯なんじゃないか?」

 ナウワーは彗星術の術者が吸血鬼だと納得できなかった。

「吸血鬼かどうか、決めるのは小僧や小娘じゃない。世間や都市議会の奴らだろう?」

 ナウワーとヴィオのやり取りを聞いてマヴィットはため息をつきながら言った。

「どちらにしても、ボク達は吸血鬼の疑いがある人物を捕まえるほかないってことですね…」

 ヴィオは食事の並んだテーブルに頬杖をついた。

「彗星術の術者の素性も吸血鬼の素性も分からない以上、やはりオレ様達で直接犯行現場を抑えるしかあるまい」

 マヴィットは気だるげに椅子の背もたれに寄りかかる。

 そうしているうちに手を叩く音が聞こえてきた。

「ご馳走さん!」

 サンラバが食事を終えた合図だった。

「あぁ、話に夢中になりすぎて食事の途中だったことを忘れてました」

 ヴィオはフォークを使って器用にニシンのパイに齧りついた。

「お、このお肉冷めても旨い!」

 途中から静かに話を聞いていたセブンは大きな肉を食べて喜んだ。

 マヴィットはそれをあきれ顔で見ながら葡萄酒を口に含む。

「ところでセブンが頼んだ分って…?」

 ナウワーは一縷の望みをかけてそう皆に尋ねた。

「もちろん小僧、お前が払え」

「一旦ボクの分もお願いします。この仕事が終わった後に返しますんで」

 ナウワーの希望はもうサンラバだけになった。

「サンラバ…」

「おう、頑張れ!」

 謎の応援をサンラバにもらったところでナウワーの希望…というか財布の中身は露と消えることが確定したのだった。


「そういえば犯行現場を抑えるって言ったってどうするんだ。吸血鬼の次の狙いは分からないんだろ?」

 ナウワーはふとした疑問を口にした。

「夜警の皆さんとボク達で怪しい場所に張り込むのが今までのやり方ですね」

 ヴィオはニシンを頬張りながら話した。

「それで犯行現場を抑えられるのか…?」

「安心してください!」

 ナウワーの言葉にヴィオはニシンを飲み込んでから胸を張った。

「ボク、世界一幸運な守闘士ですから!」

 その言葉にセブンが「すごい!」と食いついた。

「ナウワー、ヴィオの幸運は本物だぜ」

 苦笑いをしていたナウワーにサンラバがそう声をかけたのだった。


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― 新着の感想 ―
幸運で吸血鬼に遭遇できるのか……楽しみですね笑
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