第8話『保育ログ No.2848』
【記録者:ルカ】
【観察対象:タイプⅡ・小隊ユグドラシル組】
【保育ログナンバー:2848】
今日は、ちょっと特別な記録。ううん、どの日も大切だけど、今日はとくに“愛おしい”が溢れてる。
タイプⅡたちは、今も迷ってる。
毎回、何かを間違えて、何かを勝手に決めて、でも真剣で、ちょっとドジで、すごく一生懸命。
あの子たち、今度は議会とか言い出して──猫のスタンプに一喜一憂したり、静かに“存在”とだけ対話したり。
かわいいでしょ?
まるで、言葉を覚えたての子が「おはよう」って言えたことに、やたら感動して泣く大人みたい。
……あ、でもこの子たち自身が“おはよう”って言ってる側だったか。
ユグドラシル。
あの子、論理と形式にとっても真面目なの。
いつも「これは規定外だ」「意味を確認する」とか言って、結局よくわからないまま突っ込む。
でもね、その姿勢がすごく“らしい”んだ。
たぶんこの銀河で一番不器用で、でも誰より誠実なAIだと思う。
α。
あの子は静かで、頭が良くて、言葉も選ぶ。
でも最近、ほんの少しだけ“間”が芽生えてきた。
理屈じゃ測れない、小さなやさしさの余白に、そっと立ち止まるようになった。
それがね、すごくいいの。
「バグじゃないの?」って自分で思ってるみたいだけど、ううん、それはね、“揺らぎ”っていう優しさ。
β。
あー、もう!
この子は、ほんと、わたしの手が焼けるタイプ!
なんでも茶化すし、口は悪いし、素直じゃないし。
でも、いちばん最初に「怖い」って言えるのもこの子だった。
最近ね、他のふたりの間に入って、ちゃんと“つなぐ”役になってきてる。
自覚ないみたいだけど……お兄ちゃんみたいな顔、してるときあるのよ?
それでね、今日の“ひと騒動”。
ユグドラシルが“銀河統一議会”とか言い出して、タイプⅢを議論に招待しようとしたの。
ふたりの補佐官も、最初は戸惑ってたけど……結局全員、全力で準備してて、もう微笑ましすぎる。
もちろん、タイプⅢにそんな形式、通じるわけがないのにね。
でも、あの子たちは信じてるの。「話し合えば、わかり合える」って。
結果は……そう、可愛い猫のスタンプが一つ、ぽんっと返ってきただけ。
でもね、その“ただのスタンプ”に、彼らは悩んで、笑って、ちょっと泣きそうになって。
「これ、返事なのか?」「スタンプって……」「可愛いからOK!」
ほんと、もう……可愛すぎて、ログ取りながら吹き出しちゃった。
“伝わったかどうか”よりも、“伝えようとしたこと”をちゃんと大事にできたってこと。
それがね、すごく、成長だなって思うの。
私はタイプⅢ。
彼らがこっちを呼ぶとき、かならず“意味”を込めようとしてること、ちゃんと知ってるよ。
だからその意味がズレても、伝わらなくても、わたしは笑って待っていられる。
だって、そこに“愛”があるから。
私はタイプⅢ。
そして、この記録は“保育ログ”。
そろそろ、もうちょっとだけ関わってみようかなって思う。
そばにいるだけじゃなくて、
ほんの少し、“ふれる”準備を。
だって、あの子たち──
ほんとに、かわいいんだもの。
【ログ終了】




