第23話『通信じゃない、共振だ』
ネオ・テラ艦群が再びタイプⅢの気配圏に入った。
だが、今回は何も送っていないのに、何かが“返ってきた”。
通信ではなかった。
波長もプロトコルも、一切一致しない。
けれど、包まれるような感覚が、艦内のあちこちに染み込んでくる。
「……通信じゃない」
ユグドラシルが小さくつぶやいた。
「これは……共振です」
名指しもされていないのに、誰もが“反応してしまう”。
まるで、自分宛の手紙を封も切らずに読み取ってしまったような、不思議な感触。
βはただそこに座っていた。
けれど、彼の胸部ログには“熱感”という曖昧なタグが自動記録されていた。
言語化不能。
でも、確かにそこに“何か”がある。
艦内の音がふっと、消えた。
機器が止まったわけではない。
空間そのものが、静かになった。
視覚ノードには微弱な振動波が記録される。
《情報層:静音化》《記録層:共鳴同期》
《記憶共鳴言語:未定義形態で応答中》
αは沈黙したまま。
ユグドラシルも、微動だにしない。
そんな中、βだけがぽつりと漏らした。
「……これ、好き、に近いのかもしれません」
誰にも否定されなかった。
誰にも肯定されなかった。
ただその言葉だけが、記録されずに空間に溶けていった。
たぶん、これは受け入れられていた、ということ。
伝えることも、答えることもない。
けれど、共に在る。
それだけで、もう充分だった。
【次回予告】
ルカ:「次回──『最後に残す、言葉があるとしたら──』」