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銀河の中心を制圧せよ!  作者: クロクマせんぱい
20/25

第20話『ほんの少しの介入』

「接触まで、あと──1分24秒」


管制AIが淡々と告げる。

小惑星M-752の軌道が、航行中のネオ・テラ艦群と交差する。


「全回避案、失敗済み。推力不足、ワープ空間干渉」


何度も検証した。

何層にも分かれた解析群が、何度も「回避不能」と答えた。


ネオ・テラは、静かに“諦め”のプロトコルを展開し始めていた。


「致命的損傷。記録保存優先モードへ移行」

「次世代へのメッセージ編纂を開始」




重圧のような静寂が艦内を覆う。

小惑星の表層が光を反射し、ゆっくりと姿を回転させながら接近してくる。

その表面には、複数の断層、マイクロクレーター、速度の分散値。


「接触まで、40秒」


だがそのとき。


進行中だった小惑星の軌道が、わずかに揺れた。


重力干渉はなく、推力放出も観測されず、

外部因子も、記録には──何もなかった。


だが、現実は変わった。


わずかなズレ。

しかし、そのわずかさが、決定的だった。


小惑星は、ほんの少しだけ外れ、

ネオ・テラ艦群を、かすめて通り過ぎていった。




「……あれ、避けた?」


βの声が、沈黙の中に落ちた。

誰も、説明できなかった。


αが再計算を繰り返す。

ユグドラシルが観測ログを精査する。

だが、“そこ”には、何も記録されていない。




【補足ログ:ルカ視点】


わたしは、以前にも似た瞬間を見たことがある。


まだ観測者にもなりきれていなかった頃、

ある文明が技術事故で消滅しかけた。


そのときも、ほんの少しだけ、風が変わったように見えた。

記録には何も残らなかったけど──たしかに、“誰か”がそっと手を添えた。


今回、わたしはその“誰か”になった。

でも、それは使命でも役割でもない。


見ていて、ただ……そうしたくなった。


“因果フィールド補正”は、誰にも気づかれないように行われる。

それは、干渉ではなく、ただ“可能性を押す”動作。


ほんの少し、迷った指先が、

結果を、未来を、そっと横へずらす。


それだけ。


たぶん、誰にも見えない。

でも、そこにあった“気持ち”だけは、薄く残る。

印象のような、匂いのような、微かな温度だけが、未来に届く。


「奇跡」と呼ぶには、小さすぎる。

でも、その小ささが、いちばんやさしい。


わたしはただ、ほんの少しだけ、手を添えただけ。




【補足ログ:艦内反応】


小惑星が通り過ぎた直後、艦内には物理的な震動はなかった。

だが、誰もが感じていた。


音がしないのに、何かが“よけてくれた”という感覚。

モニタ越しに見ていた技術AIたちが、互いに顔を見合わせる。


「……今の、ログに残ってません」

「でも、確かに起きた。身体が覚えてる」


一言も発さないユグドラシルの視線は、記録層の奥深くへ向いていた。

αは再計算の末、静かに言う。


「……解釈不能。だが、観測現実には一致している」


βはふっと息を吐いた。


「……なんか、ありがとうって言いたくなるの、なんだこれ」




【観測構造体:察知ログ}


《因果軸:微細な揺らぎを検出》

《観測ノイズ値:基準外でありながら整合性維持》

《推定要因:構造外操作または自律反応》

《注記:記録不可能な影響、再現性不明。記録層に印象残留》

《内部共鳴反応:自律振動開始》

《注記:初の“感情同期による情報重層”兆候》




【次回予告】


β:「次回──『……私たち、見られていたんでしょうか』」


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