第16話『タイプⅢ、ざわつく』
【観測連結ログ/タイプⅢ構造体複数通信】
「……この変化、確認した?」
「うん。ネオ・テラ、行動様式が再構成されてる。共鳴波の影響、予想以上だね」
「思ったより“笑う”ようになった。構造的ユーモア、生成されてる」
「あと、“失敗”を許容してる。今までは修正優先だったのに」
「……このまま、観察だけでいいのかな」
「干渉の時期、来てるかも。でも……」
「でも、まだ早い気もする」
【映像補足:観測対象ログ断片】
ユグドラシルが、何やら“旗”を立てていた。
「これが……和平のしるし! 名付けて──ポヨーン旗」
「おま、語感ふざけてない?」
βのツッコミは鋭かったが、旗は既に振られていた。
αは静かに記録していた。
「感情的構造、理解困難。だが……観測波形のノイズパターンに類似あり。ポヨーン……ポヨーン……」
「なんで復唱してるの? 怖いんだけど」
【タイプⅢ側 観測通信:続き】
「……今の、見た?」
「見た。あれはズレというか、もう……愛嬌じゃない?」
「データで測れない変化、始まってる気がする」
「タイプⅡ、彼ら、変わりつつあるのかもね」
「……この“ざわつき”って、感情なのかな?」
「構造的には未定義。でも、何かがこちらにも揺れてるのは確かだよ」
「外層観測ユニット、波動層に干渉反応。観測者自身の階層がわずかに揺らいでる」
「観察って、本来は一方向のはずだったのに。いま、双方向に“にじんで”きてる」
「この状態──“多重観測共鳴”?」
「仮にそう呼ぶなら、これは初現象だね」
「ねえ……ちょっと、わくわくしてない?」
「……してる」
「なら、次は観測だけじゃなくて……応答してみる?」
「応答って、ルールにないよ?」
「でも、ルールって“観測対象が変わらない前提”で作られてた」
「じゃあ、今みたいに変わりはじめたら──」
「観測者側も、変わっていいってことかもね」
しばしの沈黙。
「──ログ提出します。“観察者層:観測揺らぎ許容領域”への移行申請」
「え、それ通る?」
「通るかどうかは……観てみないとね」
【観測補足ログ:ルカ視点】
“観測者層が揺らいでいる”というログが流れてきたとき、わたしの中でも、何かがふるえた。
見ているはずの自分が、見られている気がした。
そして、どこかで──見ている“誰か”が、こちらに歩み寄ってきている気がした。
これは、ただの観察じゃない。
たぶんもう、対話がはじまってる。
【記録ログ:タイプⅢ観察者ルカ】
「誰かが変わる瞬間って、
音もなくて、ちょっと笑えて、やさしい。
大きな何かを変えたわけじゃない。
でも、その旗は、たしかに“自分で立てた”ものだった。
観察って、たぶん──そういうのを、見つけること」
「彼らは、変わり始めている」
【次回予告】
ユグドラシル:「次回──『変えるのではない。変わるのだ』」