3話 予想の斜め上、というか下、というかなにこれ。
陸奥サクは知っている。
それは物事には大体ロマンのかけらもない裏がある、ということである。それは例えば、
「鬼族に優しい人が多いってのは大体のことが力で解決できるから、じゃなくて鬼族の家系は代々系譜的に裕福で人生に余裕があるからだよ。」
と鬼族の友人に聞いた時にも思ったことだし、
「ドラゴンはなぜ神聖なイメージを持たれているの?」
とおばあちゃんに聞いたら、
「神事を行う一族を決める際みんなめんどくさくてやりたくなくての、それっぽさがある鬼族となすりつけあいの喧嘩をした結果負けたからじゃよ。」
と言う答えが返ってきたときも同じくである。
つまり、と言う言葉が適切かは分からないが、まあ陸奥サクには分かるのだ。
このあと待っている、側からみればアオハルでしかないこの男子からのお呼び出しイベントにも、どうせ大した驚きやドキドキもムネムネも存在しないということが。
放課後、屋上から管弦楽部の演奏が響く中サクはカバンを持って九尾くんが待っているという北校舎四階の端の教室へ向かう。
2年生の教室は2階なのでそんなに長い道のりではないが、普段登下校を大体飛んで済ませているインドアドラゴンは真夏の暑さもあってすでに足がぷるぷるしだしている。
私にこんな苦行をさせてるんだ、ただの告白なら許さねえぞとぼやきながら足プルドラゴンは教室のドアを開けた。
机が3つと椅子が2つだけある教室の真ん中に彼はいた。
身長は自分より少し小さいくらいの茶髪のメガネ男子でその奥に見えるくりっとした目はどことなく女子的な印象を与える。
男の子はこちらに気づくと小さな声で話し始めた。
「あ、あの、僕、、、」
ほらやっぱり。想像通りだ。
男の子は顔を、真っ赤にして俯いて、、、。
ん?
「ちょ、チョッとちょっとマッテ!」
緊張で声が上擦って何故かカタコトになってしまった。
っていやそれよりも、だ。
え?ネタバラシが来るんじゃないのか?
部活が潰れそうだから入部してくれ、とか
ミャクのことが好きだから間を取り持ってくれ
とか、そういう展開が来るんじゃないのか。
おかしい、というか嫌な予感がする。
これはまさかアレなのだろうか。
一旦状況整理をしてみよう。
放課後、空き教室、高校生、男女、顔を赤らめた男子、呼び出された私、、、、。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。
いやこれアレだわ。告白だわ。
正直前4個の要素ではなんとも言えないが最後の2つだけで十分な気がする。
サクは覚悟する。
正直生まれて初めて告白されるかもという期待と興奮はあるが、話したこともない彼と付き合うのは彼にも無責任な気がする。丁重にお断りしよう。
彼が息を吸い込む。
サクもお腹に力を込める。
「この前は僕の命を救ってくださり本当にありがとうございました!!!!!」
「ごめん私あなたのこと何も知らなくてだから!」
ん?
なにか変な言葉が聞こえた気がしたのでサクは目線を上げる。
「え?」
「、、、え?」
「バッティング練習終わりーー!1年玉拾いそれ以外は外周!」
野球部主将の声が空き教室の静寂を際立たせる。
サクは目を閉じる。そして悟る。
これはラブでもコメでもアオでもハルでもない。
そう、これはあれだ。
「日本昔ばなしか〜〜〜〜〜い!!!!!!!」
「ファイッオーファイッオーファイッオー、、、」
空き教室から漏れ出た声は外周を走る野球部のかけ声にかき消されていく。