2話 たぶんアオくないハルのやつ。
「今何時だと思ってるんどすかぇーーー?」
質問をする時語尾をおかしくしないと死ぬ病にかかっているらしい妖狐のミャクはサクの2本のツノの間に頭をおいて彼女を見降ろす。
「だってあのおばあちゃん話が長いんだって、、」
頭のぐりぐりを気にする気力もないサクは目を閉じて俯く。正直髪が襟の中に入ってきてこそばゆかったりするのだがまあずっと伸ばしたいって言ってたし、今は疲れて言う気力もない。
「運がなかったんですなぁ、今日は。うん、うん、ウン、運。」
ミャクは自分から話を振っておいて随分と適当に相槌を返す。まあこの妖狐は幼稚園の時からこうだし、どうせ今頭の上に乗っている顔は昼休みだし寝そうになっているに違いない。
「あ!そういえ、、、、、、、、、、、、ば!」
途中絶対寝そうになっただろというツッコミが出かかるのを後一歩のところでサクは我慢。
「なんだよねぼすけ。」
「寝、、、てないよ、、、、そう!九尾くん!」
自分が何を伝えたかったのか思い出したらしいねぼすけの口から出てきたのはなんかすごく妖狐にいそうな苗字だ。
「なに、その妖狐くんが私に何か用でもあるの?」
「そうそう。その子がずっと話したかった大事なことがあるんだーとか言っててぇ、、、私に伝えといてって、、。」
「え?あのそれってど」
「あ!あと九尾くんは妖狐じゃなくて化け狸の子だよ!1年の!」
私の疑問符を遮ってミャクのどうでもいいけどどうでも良くないツッコミが昼休みの教室に響き渡る。いやその苗字選択した先祖妖狐に憧れすぎだろ、と言うツッコミはあとあと聞くとして。
「ちょっっっとまて。苗字のことは悪かった先入観は良くないよな。うん。」
「そうだねぇ。」
「それはそうとして!その一年くんが私になんだって??」
「だから、、要するにあれだよあれ、、、」
「どれだよ!おい!」
「だあーかーらー。こ!く!は!く!、、、
だよぉ、、きっと、、、。」
言葉のトーン間違え選手権間違いなく優勝のねぼすけ妖狐の声が、そろそろ席に戻るかと静かになり始めていた教室に高らかに響き渡った。
「えっと、、陸奥さん。アオハルな話は放課後に、ね?」
凍った場の空気を砕いたのは数学担当、真人間の弘中先生。正直アオハルなんて言葉を使うのがびっくりなくらいマジメな先生だが、今はそんなことはどうでもいい。
違うんですこいつがと目を向けた先ではさっきまで頭の上で寝ていたはずの妖狐が瞬間移動したのか机ですやすや眠っている。
分かった、これはあれだ。
「違います先生!多分アオくないやつです!」
そう言ってサクは席に着く。
そうだ。こんなあまりにもギャグで出来すぎた展開がアオいやつなわけがない。きっとそうだ。
そう自分に言い聞かせ、サクは古典の教科書を机に広げた。
斜め前の席からサクを見つめるミャクは微笑む。
「どうしたんだ古河。」
「いや〜確かに青くはないけど、、真っ赤だなぁ、、、って。」
隣の男子の声にミャクはにやにやしながら答える。男子くんが目を向けた先にはそれはそれは真っ赤に染まった2本のツノ。
サクが今からの授業が数学だと気づいたのは授業が終わった後だった。