魔神の試練ってなんやねん私ラスボスちゃうぞ (1)
・・・
<どっかの迷子の聖女見習いさん>
「グォオオ……!」
「『浄火の奇跡』」
「ォ……オォォ……」
「……灰は灰に。光は光へ。その魂の行く末に、どうか女神様の御加護があらんことを」
「さて、全て片付いたな。これで魔物被害に悩まされた村にも平穏が訪れることだろう……。おや? 従者クンは何処へ……?」
「はぁ……はぁ……やっと見つけたフィアンマ様……」
「ああ、従者クン。ダメではないか迷子になっては。君は弱いのだから」
「え? いやいやいや、私を置いて勝手に先に行ったのはフィアンマ様なんですけどっ……!」
「……? まぁ、合流できて良かった。それでは行こう」
「え、あれ、村には戻られないので……? 冒険者も中々来ないような村から魔物を除いたのですから感謝の品の一つや二つ」
「……ふむ。従者クンに質問をしよう。我々は英雄だろうか?」
「質問の意図が分かりませんが……。私はともかく、フィアンマ様は英雄といって差し支えないのでは?」
「否。私も英雄ではない。女神様の僕として英雄を導く存在だ。賞賛を受けるに値しない」
「……」
「そうだろう?」
(……。相変わらずなんていうか、この人は頭が固いなぁ……)
「それに我々には魔王の悪事を挫くという崇高な使命もある。女神様の敵は待ってくれないのだから、一刻も早く見つけださねばな」
「まぁ……そうですね」
「では戻ろうか。聖戦の旅路へ」
「……そっちは村に戻る方向なんですけど」
「む。そうか。すまないが従者クン、先導を頼む」
「はいはい……」
・・・
さて。これまで私は散々自分のことを魔術チートと言っているが。
そもそもの話、魔術というのは何なのか。
前提として、この世界の魔術が魔族の魔法を基に発展したってのは様々な歴史を記す文献からも明らかになっている。
ちなみに帝国は比較的歴史の浅い国ではあるが、私が来る前の魔術院の人たちが魔術を極めんと研究に研究を重ねていたので特に魔術関連の資料は豊富なのだ。
私のまだ知らない知識が山ほどあって、蔵書を片っ端から読み漁ってた時はとてもとてもワクワクした。
書庫番の人にはすっごい迷惑がられたけど。
情報の質は王国とは比べ物にならない、というか王国はその辺かなり貧弱だったので流石の私も度肝を抜かれたね。
まぁ王国は魔にまつわるものを排斥してきた歴史があるからそうした情報が少ないだけなのかもだけど。焚書的な?
まぁそれはともかく、現在の魔族の魔法と今の人類の魔術は同一の祖を持ちながらも全くの別物と言っていい。
これは例えるなら、遺伝子の源流は同じであっても幾星霜もの年月を経て全く違う生物に進化したのと似たようなものに近い、のではないか。
いや、流石に生物の進化の歴史を見ればそれより魔術の歴史は浅いわけだけど。あくまで例えとして。
この辺は弟子にも同じ感じで説明したけどどうも若干納得いってなかったようだし、もう少し巧い説明もあったような気もする。
うーん。他で説明するとしたらなんだろ……、外国の言葉とか?
元が同じ言葉でも国を跨いで年月を経たら全く違う言葉になってる、みたいな?
だけどちょいちょい何となく似てる言葉もあったりして、あ、やっぱ元は同じ言語なんだな、とかみたいな。
……これもこれで分かりづらいか。難しいな。
私は割と知識の個人的解釈が激しく思考が二転三転するタイプなので、考えてることを人にわかりやすく伝えるのは苦手だったりする。
弟子はそれを嚙み砕く能力に長けているおかげでそこまで教えるのに苦労はせず助かってたけど。
ただ、他の人と話してるとちょくちょく(何言ってんだこいつ)みたいな目で見られることは結構多い。
思い返せば副院長なんかの目は最初の方だいぶ冷たかった記憶。
院長や皇帝様はそれはそれで面白がってる節があるので良いとして。いや、変な揶揄われ方するので良くはないが。
まぁ副院長にしても初対面のころは亭主関白的男尊女卑な雰囲気があったので、私が女だったからってのもあるのかもしれない。何故か今はキモオタおじさんみたいになってるけど。
研究を手伝ったり問題を解決してあげたりしてて気づいたらいつの間にか私にめちゃくちゃ絡んでくるようになったものの、その絡み方がいちいち気持ち悪いので申し訳ないけど色々余裕があるときしか対面しないようにしてる。
なので最近は副院長とは顔を合わせていない。なんかごめんね。
そんな感じで今は私や弟子なんかが台頭してるのでだいぶマシになったものの、元々からして魔術師の中でも研究魔術師は男女比がかなり男に偏っている。
なので、この界隈はかつての副院長に限らずそういう男社会な雰囲気がそこそこ強かったりする。
それも致し方ないというか。数週間単位で同じ研究に掛かりっきりになることもあるし、自身の肉体を使った魔術研究も多い。
体力的にも生物学的に体調の変動が激しい女性に向いてるとは言えない職種なわけだ。魔術チートな私には関係ないけどね。
しかし逆に冒険魔術師は女性の比率の方が多いとされてる。それは単純な適性の問題として、基本的に女性の方が魔力が高く、魔術も高威力となるからでもある。
その理由として、魔術師の大まかな傾向として、男性は内向きの強化型、女性は外向きの放出型、というのがあったりする。
肉体が強化されやすい男性が物理的な前衛職となり、魔力が強化されやすい女性が魔術的な後衛職となる、というのが一般的。
この傾向を学術的に見ると、性別により存在の安定度が違うことが影響している側面が大きい。
存在の安定度とはすなわち、魂の安定度。魂が不安定な存在ほど、魔力を激しく放出しやすい。
そして、魔力の強度とは魂の密度。魂は揺れて魔力を吐き出し消耗するほどに強くなる。まるで肉体を超回復させ再生するように。
魂からの魔力の動きは経験や感情、強い記憶にも左右される。
つまり変化が大きく多感になりやすい女性ほど魔力が育ちやすいとなるってわけだ。
……まぁこれはあくまで傾向としてなので、院長みたいな意味不明な例外も存在するんだけども。
ん……あれ? なんの話だったっけ?
……ああ、そうだそうだ。魔術って何かって考えてたんだった。
ぶっちゃけた話、私が使ってる魔術と他の人たちが使ってた魔術は結構中身が違う。
その辺の違いは前世知識を基にした密度や効率といった面で色々あるが、それはひとまず置いといて。
まずそもそも魔術は、魔法と何が違うのかってのを考える。
重要なのは、魔術は魔法ではない、ということ。
魔法について狭義の定義は、魂から引き出された魔力で魔力現象を起こし、生物の機能として扱うもの。
それは極めて魔力の強い魔物が自然に備えた、魔力現象を伴う異常な結果。
通常の生物学的物理法則から外れた、例外的魔の法則。それを魔法と呼ぶ。
例えば生物的機能と魔力による触媒効果によって増幅された竜の属性息吹。
例えば対象に種を植え付け体内で成長させ魔力のパスから生命力を回収し自身の回復強化を行う寄生樹の食事。
例えば神経に作用する液体を魔力と大気から作り出し降り注がせて生命の怨嗟を貪る悪霊の呪い。
それらは人間の魔力では本来起こせない、ある種の災害としての魔力現象。それを起こせるのが高位の魔物という存在。
ただ、魔族の魔法は数ある魔法の中でもかなり特殊だ。
ドラゴンの竜魔法などといった他の魔物の魔法と比べると全然違う気がするが、しかしやってること自体は魔物の魔法の模倣に過ぎない。
模倣、より正確に言うと、自身の肉体を魔力的に作り替えて魔物の機能を再現している。
他の魔物の魔法の発現をトレースする形であり、これも間違いなく魔法なのだ。人間には本来扱えるものではない。
魔物の魂は非常に混沌としており、それと比較すると人間の魂はかなり高いレベルで安定している。
さっき示した性別による不安定さなど、所詮は誤差の範囲だ。魔物のそれとは比較にもならないのだ。
混沌とした魔物の魂は強い魔力を伴い、自然放出も激しい。
それが高い強度と意思と方向性をもって魔力現象を起こすようになったものが魔物の魔法となる。
逆に言えば魂が種族的に安定している人間の魔力は肉体の強化に適している。
魔物と比較してあまりにも貧弱な肉体も鍛えれば自然と魔力が馴染み、そんじょそこらの魔物より遥かに強い身体能力を持つことも可能となる。
ただし、魂から漏れ出る魔力が少ないためその方向性を意識して制御することは困難であり、魔法という魔力現象を引き起こすことはほとんど不可能に近い。
ほとんど、といったのは歴史を振り返れば魔法を使える人間も存在したから。
そういった人間は魔法使いと呼ばれた。
かつての初代勇者の仲間……魔女も魔法使いだったとされる。
しかし、そんなのはごく一部。かつて大多数の人間にとって魔力現象とは、魔物が扱う災厄の発露でしかなかった。
それを身近にしたのが魔術。名も無き魔法使いがもたらした、人類の新たな機能。
魔術は魔法とは違う。
魔法が膨大な放出魔力により魔力現象を引き起こすもの。
魔術は僅かな魔力を精密な操作で世界に流し込み類似の魔力現象を発現させるもの。
最低限の魔力はどんな人間にも存在するため、技術さえあれば誰でも扱える。
今の時代、人間が扱う魔力現象は99%以上魔術といっていい。
……。まぁ、ここも正直に言ってしまおう。
私は魔法を使うことができる。




