悩みも過ぎてしまえば思ってたより単純なもの (3)
どうもスッキリしない。
クエスト最初の高揚は泥濘に落ちてしまったかのように、熱を失いかけている。
これはギルドを介さない、冒険者としてではなく、勇者としてのクエスト。
成し遂げられたのは、きっと俺たち人間にとっての正義。
しかし、相手にも言い分としての理は存在したように思える。
ただ、理解は出来ても納得は出来ない。
そしてその意思が子供たちの未来を害すのであれば、看過は出来ない。
どの道、対処はしなければならなかった。
だがその結果として、この孤児院はこれからどうなるのか。
残された子供たちは?
……冷静に、合理的に、論理的に。
それは、いつかエステルが語った魔術師としての心得。
俺は魔術師ではないし、どのみち俺が考えても仕方ないことではあるんだが……。
なんかこう、もう少し何か良い形で事を終えることが可能だったんじゃないか。
そんな懸念が心の中でくすぶり続けている。
……。
「ああ、なんか疲れたな……」
「アルさん、お疲れ様です」
結局のところ、訳も分からないまま選択を憂いても結果が覆りはしない。だからこれは無意味な葛藤。
その徒労感からか思わず漏れ出た一言に、向かいから現れたエステルが返事をした。
杖をゆらゆらと動かし、片手間に何か魔術を使っている様子でこちらに近づいてくる。
「エステルこそ、な。……ああそうだ」
いまさらだが、この場で魔族の検知ができるのはエステルだけだ。
聖剣の反応も収まっているし恐らく問題は無いとは思うも、一応聞いておいた方が良いだろう。
「念のため確認なんだが、敵は一人だけで大丈夫だったか?」
「はい、他は全員人間でした。大人の人間は修道士の男の人のみ、あとは人間の子供だけです」
「そうか」
話しながらエステルが杖を振ると、先ほどまで共闘してくれた鎧が掻き消える。
落ち着いた様子でなんてことないように見せてくるが、やはりエステルはすごいな。
「鑑定結果は中位から上位の魔族。想定していたよりあっさり片付きましたね。私のアサシンアーマーの一撃で仕留められなかったので、少しだけ焦りましたけど……」
「ああ、聖剣のおかげだ。何か魔法?を使おうとしてたけどそれも無効化できたし、周りへの被害も無いと思う」
「……流石ですね」
孤児院の中に戻る途中、戦闘の現場を振り返る。あの魔族の血肉は魔力に還り跡形も無い。
そこには少しだけ踏み荒らされた地面があるだけで、戦闘なんか何もなかったかのような。
……。
……?
いま、頭の中で何か引っかかった気が……?
……敵は倒した。状況は収まっている。
その後も危険な感覚は無く聖剣も反応は無い。
だとすれば、少なくとも戦闘の気配ではない。
「……? どうかしました?」
エステルが小首を傾げてこちらを覗き込む。
俺も何に疑問を感じてるのかよく分からないので、上手く説明は出来ないんだが……。
「……あ。そういえばなんだが」
「?」
「魔族、倒して跡形もなく消えてしまったんだが……? 討伐の証明ってどうすればいいんだ……?」
今ふと思い当たったのは、冒険者としてのクエスト手続きの上での不手際。
討伐依頼は討伐証明が必要になる。例えばゴブリンであれば鼻を削いだり骨を回収したり。
普段なら素材を回収していれば納品が大体証明も兼ねているのであまり深く気にすることでもない話ではあるんだが。
今回は冒険者ギルドのクエストではないとはいえ、もしかしてマズいか……?
「いえ、問題はありませんよ。秘密裡かつ即座に対処できたおかげで、証明すべき証拠は全て手中に収まっていると言えます」
「あ! ていうか子供たち眠らすの予定に無かったよね? 私結構大変だったんだけど!」
孤児院に戻ると、話が聞こえていたのかアリアとベルが会話に加わってきた。
というかなんだかベルが怒ってる……というほどじゃないがだいぶ不満げな顔をしている。
「あー、すみませんベルさん……とっさのことだったんですが流石に子供たちは巻き込まない方が良いかと思いまして……」
「いやまぁこれくらい対処出来るし別にいいけどさぁ。でもなんかこう、結果的に良しとしても多少なりの合図とか欲しかったかなぁ……?」
「いやはやホントすみません……」
エステルは素直に非を認めたが、実際難しい場面だった
ように思う。
それに、ベルならその程度造作もなかっただろう。普段の様子からはそう見えないが、これでも非常に優秀なベテラン冒険者なのだから。
とはいえ、冒険者のパーティでは連携のための意思疎通が必要不可欠といえるし、独断専行はあまり良いとは言えないのだが。
まぁその辺は正直、俺もあまり人のことは言えない。
割と感覚で動いてしまうから、今のパーティ組むまで連携苦手でずっと基本ソロだったしな……。
「……」
「さて」
アリアが声をあげ仕切り直す。
その足元には修道士の男が、苦々しい表情ながら抵抗することもなく無言で転がっている。
弁明も行う様子も無いということは、黒と見て良いのか。
流石にここまで不審な状況が揃っていて全くの冤罪ということも無いとは思えるが。
「これより審問を、と言いたいところですがあまり時間を掛けるべきではないでしょう」
「まぁ明らかに組織的な動きっぽいしね。どうすんの?」
「『伝令の奇跡』……応援を呼びました。その到着までは先に孤児院内部の捜索を行います」
「りょーかい。エステルちゃん、この建物に何か怪しい空間はありそう?」
「地下室があるようです。先程探査して確認しました」
「手際が良いな……俺はどうしたらいい?」
「アル様は子供たちの保護とこの男の監視をお願いいたします。ベルさんは周囲の警戒を。恐らく気取られてはいないと思いますが、何かしらの紐が繋がっている可能性もあり得ますので」
「ひも? ……あ、監視的な話ね。わかった、見てくる」
「私とエステルさんは地下室を調べに向かいます」
……打ち合わせをしている最中、修道士の男は不気味なほど静かだ。
しかしエステルが地下室に言及した辺りから若干顔色が悪く見える。何かあるのだろう。
この男も、アリアたちと同じく信仰をもって女神に仕えていた存在のはずだった。
何が道を踏み外すきっかけになったのか。気にはなるが、俺が気にしても仕方のない領域でもある。
俺がこの場に残り、三人が離れていく。
何にせよ、長い寄り道だったがこれでこのクエストも大詰め。
最後まで気を抜くことなく集中しなければな。




