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勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん  作者: MckeeItoIto
勇者のまったりクエストと魔女さんのお仕事
56/58

私は勇者のことが気になって仕方ない魔女さん (2)







 そして、一瞬の静寂。



「私は! 何もしゃべらないんだからっ……!」



 そして氷に縛られながら、まるでこれから拷問を受ける捕虜かのように叫びもがく黒髪ちゃん。


 ていうかなんでそんな、"くっ、ころせ……!"みたいな顔してるん……??


 いやいや殺さないよ、殺さないって。流石に国際問題になりそうだし。

 そんなことしたら絶対怒られるじゃん。やだよ怒られるの。


 冷静かつ合理的かつ論理的に考えて、それは今やるべきことではない。

 私は理性的な魔女さんなのでそこら辺の判断はちゃんとしてる。と思う。うん。


 もはや意味も無く神力を放出してる黒髪ちゃんに対し、安心させるように笑いかけてあげる。

 まぁ私の表情筋、ほぼ死滅してるので多分微妙に口角が上がるくらいの変化しかないけど。


 よぉし、これがプライスレスのスーパー魔女さんスマイルだっ!


 ……ニコッ!




「っ……!? 何をする気っ……!!」




 いや、おい、なんでや。美少女の素敵な笑顔やったろ。

 なんでそんなヤバいもん見たみたいなテンションになるねん。


 ていうか、さっきから神力の出力を上げて何とかしてパスを作ろうとしてるみたいだけど?

 全部無駄なんだよなぁ。


 本人も薄々気付いてるんだろうけど、ぶっちゃけピカピカ光ってキレイだなっていう以外の意味がない。




 ……あぁ、そうそう。

 神力についてちょっと補足だ。

 これ単体だと属性的には光の魔力とあんま変わらないって話があったと思うけど。


 これは要するに、神力イコール光のイメージがあるから光属性として神力が作用してるってこと。

 無意識にその人が使いたい魔力属性に変化してる、って言ってもいいかもしれない。


 例えば帝国教会の人たちも使ってる『聖光の祈り』っていうのがある。

 これは神力しか使ってないんだけど、実のところ魔術的に見ると『光球』と構造的にはほぼ同一だったりする。


 つまりやってること自体は魔術と大して変わらない。

 普通に使う分には、魔力を使うのと変わりは無いと言ってもいいわけだ。


 じゃあ、神力と魔力といったい何が違うのか。





 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にある。





 より正確に言うと神力は、聖職者が持つ女神の力の欠片と女神本体との間に、接続を確立させることが出来る。

 そして聖職者はそれを使って、女神と直接的な力のやり取りをすることが出来る。


 つまりこれが何を意味するかっていうと。





 資格ある聖職者は一時的に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ということになるわけ。





 言うなれば聖職者は、この世界のトラブルシューターとでも呼べるかもしれない。

 聖職者が女神に世界の異常を報告して、女神がそれを修正するための奇跡を聖職者に発現させる。


 その力の規模は聖職者の"女神の力の欠片"の強さによる……らしい。

 正直、研究に少し付き合ってくれた帝国教会の人たちの力の欠片はショボかったのでまだ分からないことも多いけど。


 とはいえ、だ。

 いくらショボくても、その力はこの世界の創造主たる女神の力。


 つまり、奇跡とはまさしく神の意思だ。

 被造物が創造主の意思に逆らうことは許されていない。





 故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()





 まぁ基本的に、と頭に付くけど。


 魔術が過程を積み重ねて結果をもたらすのであれば。

 奇跡は結果を決めて過程を作り出す。


 だからはっきり言おう。奇跡とは文字通りのチートなのだ。

 チートというか、デバッグコマンドと言ってもいい。

 普通だったら使えちゃいけない裏技的なやつ。


 女神から許可が下りれば、世界はそれに従い、どんな奇跡だって必ず起こす。

 ということ。


 この話で、何が言いたいのかというとなんだけど……。











(私なんか……)


(ごめんなさいごめんなさい)


(はは……ははは……)




 はい、バッチリ食らってますね。最初の精神汚染。



 いやはやホント、そこら辺の木っ端聖職者ならともかく上位聖職者の奇跡ってヤバいわ。マジでズルい。

 上級魔族とかが使うチャームとかの対策で精神干渉系の防御術式はもちろん使ってるんだけど、ほぼ意味無かったからね……。

 

 まぁ、とはいえ私はほぼ常時思考分割でそういうメンタル的な部分はダメージコントロールしてますので?

 ちょっとばかし表の方にいた私ちゃんズが犠牲になったけど、実質ノーダメと言ってもいいだろう。うん。


 ……。実は結構焦ったのは秘密だ。


 いったい何のために使われたどんな奇跡なのかは実際よく分からんけど、まぁ私に対しての探りみたいなもんだろう。

 私のパーフェクトな一般参加村娘の変装を看破して追及しようとしたわけだよね、たぶん。


 でも私、どこもおかしくなかったと思うんだけどなぁ……。


 まぁ別に、正体がバレてもそこまで困らないんだけどさ。

 何なら試験の評価に加点してもいいくらいなんだが。




 それはともかく、ただ、ちょっと、ね。

 色々聞きたいことあるけど、そんなかでも特に聞き捨てならないセリフがあったので。


 ちょっとね。


 うん、ちょっと。流石に問いたださないわけにもいかないので。



 で、お話するうえでいちいちそんな精神汚染食らってたら文字通り話にならない。

 じゃあどうするって話。


 その答えが、今のこの状況である。というわけ。





 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





 そう。いくら神の力とはいえ、抜け道はあるのだ。


 例えばこうして隔離用結界で世界領域からの干渉を遮断してしまえば、通信は途絶してしまう。

 非常に複雑な低層での構築が必要ではあるものの、それは決して不可能なことではない。

 たったそれだけで、無効化できる。




 だから、いくら祈ったところで、その祈りは届かない。


 神の言葉さえ届かない暗闇に、奇跡など起こり得ないのだから。





 ……まぁ。

 こういったら不敬というか異端扱いされそうだから決して口には出さないけど。


 はっきり言って全知全能には程遠い。


 そもそも代行者を必要としてる時点で、逆説的に神の力には限界があることを示している。

 現にこうして対処することもできてしまうのだから。


 まだまだ分からないことも多いけど、その力も手の届かないほどの高みにあるわけでもない。


 神秘を暴き現象を定義し、再現を以て技術とする。

 そう、これぞまさしく人間の力ってね。








(……はは、人間?)


(神に近づきすぎた存在を何ていう?)


(超越者、逸脱者、怪物、化け物、妖怪、あやかし、悪魔、……魔神)


(古今東西、少なくとも"人間"とは見なされないだろ)


(何が人間。傑作だな。笑える)




 おいうるせぇな、屁理屈捏ねてんじゃねぇよ病み私ども。思考権限剥奪して仕舞うぞ。

 私はただの人間の魔女さんだっつーの。


 あいつに色々言われて、私が私自身をそう定義したんだろ。

 鬱やら精神汚染ごときでいちいちブレんなや。


 あーもうくっそ、ホントあいつ成分が足りないな……。




 ……まぁいいや。


 こんなとこで、そんなわけで、だ。 

 こうなったら本来、聖職者として詰みと言っていい状況になる。


 たぶんだけど、魔王が使う『魔界』ってやつも、似たようなコンセプトなんだろう。

 きっと魔王的には、女神以外は敵ではないとか考えてたりして、自分の領域として世界を作る必要があった。


 だから、聖剣以外では絶対に倒すことが出来なかった。


 多分、聖剣はスタンドアローンな神秘で出来ているだろうから。

 女神とパスをつながなくてもその場で奇跡を起こせる物質。

 そんな文字通り規格外の、意思を持つ巨大な女神の欠片そのもの。


 それが聖剣。



 ……いや、わからんけど。実物見たことないし。


 一応、そんな仮説を立ててはいる。

 多分そう遠からずじゃないかな。




 話が逸れた。本筋に戻そう。


 黒髪ちゃんは結構魔術も使えたから、若干めんどかったけど。

 やっとこれでお話できるね。


 ……。




「えっと……」


「っ……!」

「あの、その……」


「…………、……?」

「ちょっと……聞きたいというか……教えて欲しい……のだけど……」


「……??」



 なんだこれ、我ながら歯切れ悪すぎワロタ。

 いや、はよ聞けや。さっさと事実を認めろ。


 大体何となく、わかってるはわかってる。

 だから、ちゃんと現実を直視しろよなっ……。






「……あいつ、帝国来てたの?」


「あいつ……?」






 え、なんか思ってたんと違う、みたいな拍子抜けした顔された。


 いや、だってこれ、個人的に絶対聞き捨てならないじゃん。

 ずっと探してたのにすぐ近くに来てたとか超アホみたいじゃん私……。


 うぐぐ……。




「……誰のこと?」

「勇者」


「あなたと何の関係が……?」

「教えて」



 なんか不思議なくらい、黒髪ちゃんは大人しくなってくれた。

 もうたぶん大丈夫だと思うので、拘束も解いてあげる。


 まぁ、また暴れたら捕まえればいいだけの話だし。

 それはそれでちょっと面倒だけど、大して問題は無い。




「……」

「……」


「……」

「……」



「……先に聞いたのはこっちなんだから先に答えてよ。あなた、何?」




 ……たしかに。



 ……たらばがに?(意味不明)



 あ、いやなんか、いきなりヤバいの食らったから条件反射で術式展開しちゃったけど、たしかにそうだ。

 正論を食らって思考がちょっぴり電波ってしまった。


 だからえっと、そうだな……。

 試験に影響の無い範囲でなら少しは答えてあげてもいいかな?




「えっと……今はアル」

「今は? 今は試験中だから、試験が終わったら違うってことなの?」


「え……、いや、う……私はただの村娘のアルで……」


「前は違った、後も変わる? でも試験に身上調査もあるはずだから魔術院に不都合のあるたぐいの犯罪者じゃないよね。となると、魔術院に利益のある存在? それか直接的な関係者? 貴族ではなさそうだし」



「……い、一個! 質問は一個! 答えた!」



 勢いがすごかったので杖を向けたら速攻でビタッと大人しくなった。


 いや、別にビビッたから脅して止めたってわけじゃない。

 私はそんな小心者ではないのでっ……。



「……答えたから、そっちも答えて」



 一瞬身構えて離脱態勢に入りかけた黒髪ちゃん。だけど、なんとか思い留まってくれた様子。

 そして、少しばかり逡巡して、思い出してくれてるようで……。



「えっと……勇者は少し前に帝国へと依頼を出しに向かってたって報告を聞いたけど……」


「ふ、ぐ……そっか……」



 やっぱり来てたってことか……。いやまぁまぁ、帝国にも冒険者ギルドはあるし?

 王国からは結構遠いけど、いやまぁそういうこともあっておかしくは……。



「場所は、ここ。帝国魔術院だった」


「ふっふぉ」



 あ、あぶねぇ、咄嗟に浮遊術式を使わなかったら膝から崩れ落ちてたぜ……!

 なんだよ勇者が訪れた場所って帝国って言うかピンポイントでここじゃねぇか……!


 いや、ていうか知らん……そんな依頼あったっけ……?

 記憶を遡ってるがあいつらしき冒険者が出してる依頼なんか思い当たらんのだが……?

 魔術院宛の依頼って毎日結構な数あるけど、たぶん無かったよなそんなの……?




「あの、それってどんな依頼……」

「次はこっちの質問だよ。あと二つぐらい教えてほしいかなぁ」


 え、さっきまで大人しかったのに、一転攻勢ってなばかりにグイグイ来るやんこの子……。

 私に敵意が無いってのはとりあえず分かってもらえたようだけど……。




「うーん、質問というか、確認……かなぁ」


 ……。


 ほんの少しだけ、緊張感に空気がピリつく感覚。


 大人しくなったように見えて、今もこの子は、少しも油断していない。

 そう、使命に対しての強い意思、覚悟のようなものを感じさせる。





()()()()()。たぶん知ってるよね?」


「……」

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