甘さと優しさは紙一重の別物なのだと (2)
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"リブストク孤児院"
到着した孤児院は、ここまで見てきた中では飛び抜けて綺麗な施設だった。
建物も大きく、手入れも行き届いているように見える。
かつて、この孤児院は経営破綻により廃院の危機にあったという。
それを救ったのが、とある一人の有力な資産家。
おかげでボロボロだった孤児院も見違えるように生まれ変わったそうだ。
今のこの孤児院の名前も、その共同支援者たちが新しく名付けた物らしい。
その前までの孤児院の名称は普通に"西地区第三教会孤児院"という無機質なものだったそうだったのだが。
まぁ寄付の返礼として命名権がもらえるのは、割と一般的らしいので珍しい話ではない。
話を聞く限り、どこにも不自然な点は無さそうに思える。
「と、いうわけでして……。我々どもは生まれ変わったように、子供たちの救済を行なっているわけであります」
「なるほど」
「……しかし法国司祭様、それも上級司祭様が、こんな孤児院にいったいどのようなご用件で?」
「ああ、いえ。近々法国での孤児院新設を予定しておりまして。参考までに教国の孤児院の運営状況を順に見学させていただいております」
孤児院訪問の理由としてここまでの訪問でも使ってきた台詞だ。
実際は今のところ未定らしいんだが、アリア的には"ちゃんと今後の為に役立てるので完全な嘘ではないですよ"とのこと。
ともあれアリアの口ぶりがあまりにも自然すぎて、その辺りに関して相手も特に不審には思っていない様子。
「左様で……参考になるかはわかりませんが」
「前約束も無く急で申し訳ございませんが……」
「……構いません。どうぞ」
「ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いいたします」
いまこうやって俺たちを出迎えてくれているのは、ここの孤児院を運営する教会の、修道士の男だ。
実際には他にいる教国司祭が最高責任者らしいんだが、滅多に現場に出てこないらしいため、この男が実質的なここの責任者と言ってもいいのだろう。
しかし……ここまでの個人運営の孤児院ではあまり俺たちに対して警戒された様子は無かったんだが……この男はかなり訝しげな態度を見せている。
まぁ、アリアは教国ではなく法国の人間で、聖女見習いとしてそれなりに高い立場でもある。
前約束もなく、いきなりそんな外部の偉い人間が見学に来たら、多少は身構えてしまうのも無理は無いのかもしれないんだが。
「孤児の奉公先……引き取り先はほとんど一か所に固定されているのですね」
「ええ、その通りですが……然るべき形での卒院として……教会には間違いなく報告いたしております」
「引き取り先であるナーサリー商会、ここは支援者と関係が?」
「ええ、その通りですが……どうかなさいましたか。何か気になることでも?」
……なんだか少し前のめり過ぎない、だろうか。
徐々に相手の警戒度も上がっているようで、このまま見てるだけでいいのかと少し悩む。
とはいえ、俺が入ったところで話が良い方向に進むとも思えないが……。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんたち何してるの?」
「……ん?」
アリアの様子を少しばかりやきもきしながら見ていたら、小さな子に話しかけられた。
見た感じ9、10歳くらいで、髪が少し長く清潔感があり、血色が良く綺麗な顔立ちをしている。
男の子か女の子かはわからないが、まぁ、考えるまでもなくこの孤児院の子供だろう。
とりあえずエステルの気配を確認しつつ判別術式の邪魔にならないように、ベルと一緒に子供の相手をすることにする。
「ん、俺たちはあのお姉さんの付き添いだな。特に何をしてるってわけでもないんだが」
「あー、あのキレイで大きなお姉ちゃん?」
「……」
「いや、なんでこっちを見るのかな? どうしてかな?」
チラッとベルの方を見たら思いっきり目が合い、ちょっと怖い顔で睨み返された。何故……。
いやほら、アリアは身長も女性の中では大きい方だろ。
別に変なこと想像したわけじゃないんだが。多分。
「でも、こっちのお姉ちゃんたちもすっごくキレイだね!」
「おぉ……君はいい子だね。ちょっとお姉ちゃん感動だよ。飴ちゃんいる?」
「いいの?」
子供におだてられあっという間に上機嫌になり、懐から飴玉を取り出すベル。
たぶん帝国で購入した嗜好品だろう。そんなものいつの間に買ってたのやら。
いや、いくら甘味が他国に比べて劇的に安かった帝国とはいえ、貧乏冒険者としては結構な贅沢品なんだがな……。
……それにしてもホント、帝国の甘味は他国に比べて異常に安かったな。
下手したら相場の半値以下だったんじゃないか? 逆に肉料理とかは少し高かったが……。
というかチラッと見えたが、ベルの持ってる冷却袋の中、滅茶苦茶大量に飴玉が入ってるな……。
別に個人の金で買ったものだから別に文句は言わないが……流石にどうなんだ……?
「お菓子……!」
「え、おかし!?」
「うひょー」
「ぁはーっ!」
甘味をチラつかせたからか、何処からともなく子供たちが集まってきた。
というか結構な人数だが、今まで何処に隠れていたんだろうか……?
まぁ、客が来るということで隠れているように言われていたのかもしれないが。
「この孤児院では年に3度しか甘味は供されておりませんもの。生誕日と、聖女節、女神節。それ以外でまず口にすることはありませんから」
子供たちに続き、女性が出てきて声を掛けてきた。恐らく、ここの子供たちを世話している修道女だろう。
冷たそうな雰囲気があるが、さり気なく子供たちの動きに注意を払っている様子が窺える。
あと、正直言って途轍もなく綺麗な顔立ちをしている……まぁあいつほどじゃないが。
「それ以外の機会は制限されているものの、やはり子供ですから。欲求の抑えが効かないのは致し方ないですね」
ベルに群がる様子を見た感じ、子供にしてもだいぶ大人しい、というより割と行儀が良い気もするな。
しかし元は貧民街にいたような孤児なのだろうから、強奪を試みるような子供がいてもおかしくは無いだろうし、このままだと揉め事が起こる可能性も無くもないか。
まぁベルから物を無理やり奪えるやつなんか冒険者でもあまりいないし、もし喧嘩が起きてもベルなら上手く対処するんだろうが……。
「ああ……すまない。止めてきた方がいいか?」
「いえ、構いませんよ。たまにはこのような刺激があっても、良い、影響があるでしょう。……ところで貴方様は? あちらの方の護衛、教会騎士でしょうか?」
「ん? うーん、俺たちは教会の所属じゃないが。まぁ護衛みたいなものか」
建前上、俺たちのパーティはアリアがリーダーだ。
そして、教会の巡礼者には護衛が付くのが慣例になっているらしく、必然的に俺たちの立場はそのように見られることが多い。
まぁアリアは普通に強いので、たぶん護衛とかは要らないんだろうけどな……。
初めて会った時も当たり前のように他の冒険者に混じってギルドの依頼をこなしていたし。
「そうですか。その剣なども、ずいぶん御立派に見えましたので、てっきり騎士の方かと」
そう言われて何となしに、そっと聖剣に触れる。
今のところ、勝手に光ったりもせず大人しくしている、が。
ただ……少しだけ警戒しているような意思だけは伝わってくる。
なんていうか、はっきり敵か分からないが、敵かな?みたいな雰囲気を感じている。
たしかこんな感じで、聖剣から似たような意思が伝わってくることは、前にもあった。
……そう、それは、ずいぶん前にも思えるがそれほど前ではない出来事。
エステルと初めて会った時、だ。
聖剣は魔力を無効化する神器。魔力を持っている相手を倒すための剣。
今までも魔術師にはちょくちょく反応していた。その度、宥めるのに少し苦労したのだが……。
聖剣が反応を示しているということは、つまりここに魔力を持っている何者かがいるということに他ならない。
冒険者の中では魔術師という存在は珍しくもない。
しかし、ここは孤児院だ。無関係な魔術師がいるとも思えない。
俺は聖剣と完全な意思疎通ができるわけじゃないので、何処の誰が、といった詳細までは分からない。
でも、聖剣が対処する候補に考えるぐらいの魔力を持つ者は、間違いなく近くに存在している。
だとすれば、やはり恐らく、ここが当たり。
あとはエステルが判別術式で断定するのを待つだけ……だな。




