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勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん  作者: MckeeItoIto
勇者のまったりクエストと魔女さんのお仕事
52/58

甘さと優しさは紙一重の別物なのだと (1)

・・・




<とある聖女見習いさんの憂鬱>



(……)


「南方教区は住民が増加傾向にあり、信徒の数も順調に伸びております。これも女神様のご威光によるもの……」


「はは! 住民? 棄民の誤りでは? 大森林から獣国の難民が流れてきているだけだろうに。果たして竜神信仰の異教徒がどれほど紛れているものやらな」

「……西方に言われたくありませんな。そちらこそ教区の貧民街をどうにかすべきではありませんか? 信徒救済が滞っているように見受けられるが」


「ああ、北方は魔族を2体討滅した。大聖女様の御言葉の元、魔族は悪である故、断じてこの国には立ち入らせぬ」


「東方は順風そのもの。先だっての会合により商家を取り込み、寄付も大きく増えておりまする。して、法国側との協業についての進捗は……」



「……。ああ、その件は本国の了承を得ていないので今しばらく待ってもらえると」



「ええ、同じ女神教の仲間として、色よい御返事をお待ちしております」

「然り。我らは同じ女神様を崇める同志。教義の違いはあれど、協調は必要である」


「では、折り入って信徒の急増に対応する支援を要請したく……」

「いやはや、だったら異教徒を追放すべきであろう。人を救いもせぬ空飛ぶトカゲを崇めている野蛮人など、教国民に相応しくあるまい」

「しかし、かの地にて救われずにこの国に流れてきておりますのでしょう。であれば我らこそが救いを与えて改宗を促すべきでは?」

「然り。賛同である」


「追放などして潜在的な敵性異端者を作るよりは正解でしょう。東方は人手不足故、仕事を回します。ある程度でしたらこちらで受け持っても構いません」

「……致し方ありませんか。東方に借りを作りたくはありませんが、助力願います」

「その前にだ、西方に開発資金を回す話はどうなった。まさか後回しにする気じゃあるまい?」




(……あほくさ)



(なんなん? 何で僕だけ毎日毎日ハゲたおっさんたちに囲まれながら延々と下らない話を聞かされなきゃならないわけ?)



(あー……言っても仕方ないけど魔王魔神勇者の担当の方が良かったなぁ……他のみんなが羨ましいよホント……)







・・・






 遠くに見える教都の大鐘楼から、時刻を知らせる鐘が鳴った。

 どうやら正午を迎えたらしい。


 俺たちは午前中に巡った個人運営の孤児院から情報を得て、今からとある教会孤児院に向かうところだったのだが。

 アリアが、先に少し情報を調べたいと食後にパーティを離れていって、それを待っているところだ。


 教会孤児院は本来、今日の予定には無かった目的地だ。

 ある程度の情報は元々持っていたらしいが、改めてそれを確認しておきたいとのこと。


 ……アリアも割と極端だよな。

 焦燥に駆られるように動き出そうとしてベルに諫められたと思ったら、今度は逆にかなり慎重な動きになっているように思う。



 ……いや。慎重というより……、恐れ……か?


 ベルの計らいで多少マシになったとはいえ、少なくとも普段の余裕に満ち落ち着いた様子は、見る影もない。


 本当に、大丈夫なのだろうか……。



 ……何はともあれ、俺たちはしばし待機だ。



 ……。なのだが。






「うーん……ちょっと食べ過ぎたかもだよ……」



 苦しそうに膨れたお腹をさする、食い意地の張った褐色エルフがそこにいた。


 いや、これから戦闘があるかもしれないんだぞ……?

 こいつ本当に俺の親より年上なのか……?



「……うん? 今なんか失礼なこと考えなかった?」

「考えてないぞ?」


「……おいこら、ちゃんと目を合わさんかい」

「考えてないぞ?」

「嘘つけこっち見ろやい」


 グイグイ来るベルに、若干引き気味の俺。

 いつものことなんだが、近いんだよ……。


「というか腹出してないで仕舞え……」

「……ん? いやまぁいいでしょ誰か損するわけでもなし。むしろ得じゃん? 私かわいいし?」

「いや本気で意味不明なんだが……その自己肯定感は何処から来るんだか……」

「さわる?」

「触らねぇよ……」



「……、あの!」



 じゃれ合っている俺たちの間に、ずずいと勢いよくエステルが割り込んできた。

 ……なんか雰囲気がちょっと怖い気がする。



「……えっとですね、なんというか、お二人とも気が緩みすぎじゃないですか? もう少し気を引き締めた方がいいのでは?」



 そうか……? いや、そうだな……。

 まさに正論である。反論の余地なんか無さそうだった。

 反省しよう……。



「悪い……」

「いやいやごめんごめん。ごもっともだわ。私も一番の大人として反省しなきゃね」


「……大人?」


「なんだいアルくん、文句あるのかな?」

「ないぞ?」


「……。……まぁ、いいです。アリアさんが戻ってきたら真面目にやってくださいよ」



 まぁいいといいつつも、エステルの目がとても怖いままなんだが……。

 なんかベルと喋っているとどうにもツッコミどころが多くてつい反応してしまうんだよな……。


 まるで、昔のあいつと話してる時みたいな感じでそんな会話が心地よくて楽しさもあるのだが……確かに今はふざけている場合ではない。


 とはいえ、アリアが戻ってくるまで手持ち無沙汰だったりもする。

 作戦会議をするにも、アリアが持ってくる情報が無いことには、だしなぁ。






「……ぅん?」



 ?

 なんだ……?


 突然、ベルとエステルが奇妙な動きをし始めた。

 なんていうか、ベルが俺に近づいたり離れたりする仕草を繰り返して、それにエステルがもの言いたげに動こうとして、こらえてビクってなってる、みたいな。



「ふむん……?」



 徐々に不機嫌、というかしかめっ面になっていくエステル。

 それと対照的に、ベルは少し楽しそうな表情だ。


 なんかよくわからんが……ベルがエステルを揶揄っているのだろうか……?



「いや、ちょっと前からもしかしてとは思ってたけど……」

「……なんですか」


「いやぁ別に?」

「……」


「うん。まぁ、さぁ。とりあえず……私もいいやつとは思ってるけどね」

「はい……?」


「でも正直、幻想ちゃんが強すぎて厳しいとも思うなぁ」

「……だから、いったい何の話ですか」


「ふふふん。なんでもないよーう」


「……」



 ……?

 意味が分からんが、話は終わったようだ。


 ベルは少し離れて落ち着いた様子。

 そして、エステルは取り残されたようになり若干困っている様子。



「というか今のは何だったんだ……?」

「……」


「……エステル?」



「……。はぁ……」



 おい、なんだ。何故か盛大なため息をつかれたんだが。


 ベルも爆笑寸前な含み笑いをしているし……本当にいったい何なんだ……?




「お待たせしました」



 頭の中に疑問符を大量に浮かべているさなか、アリアが戻ってきた。

 なんとも納得いかないが……まぁいいか。ともあれ本命の目的地に出発だな。


 ベルも、一見何も変わらないように見えるが、雰囲気はしっかりと真面目なものに切り替わっている。

 まぁあんなんでも、俺なんかよりずっと長く活動している一流の冒険者だ。普段はあんなんでも。

 こういう切り替えの早さやメリハリの付け方など、見習うべきところも多い。のかもしれない。


 俺だって何年も冒険者やってるんだけど、まだまだ未熟だものな……。




「おつかれ。どうだった?」


「やはり目立つような不審な点は見つかりませんでした。ただ、経営的には厳しい状況らしく、ここ数年は民間の寄付に依存している状態のようです」

「ふぅん? まぁ孤児院が儲かるとも思えないし、赤字運営は当然なんだろうけど」

「そうですね。世知辛い話ではありますが、施設運営として支出がある以上は何かしらの収入源がどうしても必要になります」


「へぇ、なるほどな。教会孤児院っていうくらいだから、教会が全部出してるものだと思ってたんだが」


 そういえば、王国の孤児院なんかはどうだったんだろうか。王国が出してるのか?

 まぁ正直ロクな運営してなさそうな気しかしないが……個人的に王国への信頼度あまりないしな……。


「……はい。ある程度は教会側でも負担をしていますが、それで運営費用の全額を賄うことは到底厳しいのが現実です。孤児院の中には農地運営や商売などを手掛けるところもあるようですね」

「そんで、その孤児院は寄付に全面的に頼っていると」


「はい。なのですが……その辺りの話は正直なところ、余談ですね。はっきり言えば、何処にでもあるような特に珍しくもない運営状況の孤児院です」


「そっか、なるほどね……」

「……午前中と同じような感じで行くしかなさそうですね」

「まぁ、そうだな」


「よし。じゃあみんな向かおっか」


「……はい」



 やはり、アリアは少し複雑そうな様子だ。


 もしかすると、教会関係者が魔族と関わっているかもしれない。

 その疑惑が果たしてどれほどの重大さなのか、俺には想像もつかないが。



 ……しばらく注意しておいた方が良さそうだな。







・・・

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