世界が私の為に回ってないってのはわかってるけど (3)
そっからの道中。私も別にサボってたわけじゃない。
「『構造解析』、罠あるよ。少し先の石畳と右側の壁。ちょっと色褪せてるとこ」
「おう、助かる」
「『空間探査』、前方の分かれ道右の曲がり角、敵が複数いる。数は5。オーク型」
「よし、オークなら火力が必要だな。前もって術式に魔力を溜めとくか」
「ん、次の広場に回復ポイント。『疲労回復』と『軽傷治癒』の設置型魔道具がある、みたい」
「じゃあそこでひとまず休憩にすっか」
てなわけで、私もそれなりに仕事をしながら先に進み、中層終盤のボス部屋前でブレイクタイムへ。
このダンジョンは親切設計なので、各所にちゃんとこういうセーブポイント的なセーフエリアが用意されてるのだ。
まぁ一応、天然ダンジョンにもこんな感じの休憩場所は無いわけでもないけど。
でもそういうのって先に攻略してた冒険者とかの使い捨て魔道具の残骸とかで作られてたりするので、完全に安全かって言われるとあんま保証は出来ないって感じ。
一応ここの安全地帯は完璧な安全設計だが、決してスタンダードではない。あくまでも試験用ダンジョンで、いわば冒険者のチュートリアルみたいなもんだ。
なので研修受けた魔術師たちには、実際のフィールドワークなんかでは気を付けなきゃ駄目って注意がされていたりする。
「おぉー……でっか……すごいなこれ。流石魔術の最高峰だ」
「むぅ……これ値段付けたらとんでもない金額になるんでしょうね……」
「美しい……」
設置型回復魔道具はキラキラした巨大クリスタルみたいな見た目をしている。もちろんこれも私が手がけました。
中々幻想的な景色になってて、なんか感動してるのか筋肉がプルプルしてる。ホント見てて面白いやつだなこいつ。
「なぁ、この先はどうなってると思う?」
「?」
「いや、そろそろこの階層も終わりだろ。だからなんていうか、最後に試験の評価的な強敵でもいるんじゃないかと思ってな」
お、鋭い。この先のボス部屋にはドラゴン型ゴーレムくんがいらっしゃる。と言ってもベビーに毛が生えた程度のクラスだが。
魔女さん判定、30レベルくらいかな。中級冒険者だと結構きついと思うけど、突破できればポイントは高いだろう。
「その認識は間違ってないと思うよ。だからここで準備を整えた方がいい」
「うーん、じゃあ交代で仮眠でも取るか?」
このダンジョンに入って、だいたい6時間程度。まぁ休憩にはちょうどいいくらいかな。
ダンジョン攻略中に寝るなんてとか思われそうだが、魔力回復には睡眠が一番なので、こういうタイミングで仮眠をとるのって実は結構理に適ってる。
あと他には、食事もそこそこ効率が良い。魔力って意外に生物学的欲求に直結してたりするのだ。といっても性欲は関係なさそうだが。
なので、私が仕事中にお菓子を食べるのも理に適っているのだぞ!という主張も一応しておきたい……!
「そうね、賛成。どういう順番にする?」
「私はまだまだ大丈夫だよー」
「ん……私も魔力は全く問題ない」
「じゃあ、俺とビズから休ませてもらうか。ゼフィールは見張りを頼む」
「了解……」
「……携帯天幕、用意しといてよかったわね」
ギャルの背嚢から簡易テントが取り出され、ポンッと天幕が完成する。
おお、ていうかこれ魔術院の新作魔道具じゃん。
魔術的な圧縮収容がされてるから結構コンパクトだけど展開したらそれなりの大きさのテントができるってやつ。
魔力もほとんど必要なく、片づけるときもワンタッチで元のコンパクトモードになって便利なので、冒険者や行商人なんかを中心に結構売れてるって話。
私も設計的な監修してるので実際に使ってるとこ見ると、なんかちょっとグッとくるものがあるね……!
……あいつも冒険でこれ使ってたりするのかなぁ。
使ってたら嬉しいなぁ。
・・・
……この次のボス倒したら、試験もほぼ終わりだ。
全体の予定的に見ても、この実技が終われば後は面接くらいしか残っていない。
だからそろそろ、評価的な総括をすべき、なのかもしれない。
だけども。そう、なんていうか、その。
今までパーティプレイの経験、あんまり無かったんだけど……。
なんだか……、思ってたより良かったなって。
……なんてね。
私は責任ある立場で、これは仕事なんだから、あんまり個人的な感想を差し挟むべきじゃない。
失われた青春の追体験、みたいな感じでちょっとノスタルジックなメランコリーになっちゃっただけ。
こういうのはここだけの思い出にして、捨て置くべきだ。仕事に集中せねば。
ああ、あと良かったといえばチャラ男ギャル筋肉のクレーマーズトリオだ。
意外にも、というかやはり、というか、普通にまともだった。
空回りする場面もあるが、それはそれだけ真剣に事に当たっていることの証左でもあるのだろう。
それぞれがそれぞれの個性でそれぞれの足りないところをカバーしてて、中々うまくやってたと思う。
まぁ全員が受かるのは期待薄だろうが、私から三人ともの高評価を具申しても問題ないはずだ。
だが逆に、黒髪ちゃんはよくわからなかった。
なるほど、たしかに魔術は洗練されていて素晴らしい。
聖職者ではなく魔術師として見ても、十分に上級冒険者レベルはある。
でもダンジョン攻略の観点から言えば、実のところ大したことはしていなかった。
時折、後ろから援護するくらいで、敵との戦闘、トラップへの対応、探索上の立ち回り、その他。
ここに入る前の勢いの割に、積極的に加点を狙う姿勢は見えなかった。
この実技試験内で使用した魔術は、『水球』『水圧障壁』『激流槍』『圧壊波濤』『構造解析』の5つ。
制限クラスの上級魔術もあるが、効果的に使用されていたかといえば微妙。
それに、なんだろうか。少し、試験に対する真剣みが薄れたような……?
違うことに、気を取られてる……?
「ねぇねぇ、ちょっといい?」
チャラ男とギャルは向かいのテントで仮眠中。筋肉は辺りを警戒するために少し離れている。
この試験用ダンジョンの安全地帯はちゃんと安全地帯なのでそんな警戒する必要ないけどね。
なので、今は私と黒髪ちゃんの二人っきり。
「えっとね、聞きたいことがたくさんあるのだけど。……とりあえず」
「?」
「あなた、だれ?」
──え?
「教えてよ」
「いや……私はアル」
「って聞いてもやっぱり教えてくれないかぁ」
なんだいったい……?
欺瞞情報の術式が暴かれた、わけじゃない。そんな形跡はない。
今の私は、見た目はそのままだが、魔力などの潜在的情報は全部、昔のエステルくらい、普通の町娘のようにしか見えないはずだ。
それ以前の話として、身分を隠す人間は多い。特に魔術師に関しては、色々な事情もあって隠している人の方が多いともいえる。
そういう意味でいえば黒髪ちゃんもそうだ。明らかに身分を隠している。だから、仮に私の名前が偽名だとバレたところで、何の問題はないじゃないか。
それにそもそも、今回の魔術院試験は魔術院の身辺調査も入る。やましいことは無いと、お墨付きがあるようなもの。
だから受験生の立場で他の受験生に対し、それ以上の事情に関して疑う要素など、どこにも……。
「まーしょうがないよね。あっちも気になるけどこっちの方も大事だし……私の立場的に調べないわけにもいかないし……」
「だから、なんの、話……?」
「『告解の奇跡』」
──……。
「よし。……駄目だよ。嘘は罪、罪は暴かれるものなんだから」
──……。
「私は水。透き通り、染み渡る者。私だけの水の奇跡で、鏡のように映し出す、真実の探求者。なーんてね。……それじゃあ、改めて教えて?」
──……。
「なんにも分からないくらいの嘘を纏いながら勇者の名を騙る、とっても怪しいあなたはだぁれ?」
──……。
「前に勇者がやってきた場所で、こーんなに怪しい人が、まったく関係ないなんて、ないよねぇ?」
──……。
「……」
──……。
「……。あれ?」
──……『隔絶領域』
「えっ」
思考分割、多重並列処理開始、実行展開、構造接触成功。
世界領域接続、全事象遮断、境界挿入、領域形成。
生まれるは暗闇。幽かに光るは魔力の残滓。
照らし描かれるは私だけの世界の形。
「う、そ……? なん、で……?」
「奇遇だね」
ああ、ごめん。……ちょっと事情が変わった。
「私も今、お前に聞きたいことが沢山できた」
・・・
女神さん「zzz……(寝返り)」
(次回、勇者パート)




