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勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん  作者: MckeeItoIto
勇者のまったりクエストと魔女さんのお仕事
49/58

世界が私の為に回ってないってのはわかってるけど (1)

・・・




 魔術院試験用迷宮。それは本来、魔術試験の為の迷宮である。

 ここでいう魔術試験とはすなわち魔術自体の試験のこと。


 まぁつまりは、だ。

 走査やら探査やら、探索系調査系の術式を考えたりするのに、ダンジョンっぽいのあったらやりやすいよねっていう話が聞こえてきたので、私が暇なときにサクッと作ったのだ。



 そしたら何故かみんなにドン引きされたっていう。

 おかしい……需要の声があったから作ったのに……。



 魔術院、というか帝国の地下の地盤がやたら固かったりとかして、構造力学的なこと考えたりとか、結構大変だったんだぞ?

 途中でめんどくなったから手抜き気味に闇属性術式つかって、結界で無理くり補強しつつ地下空間消滅させたりしてたけど!

 ぶっちゃけこんときの術式は禁忌ベースなのでバレたら怒られるかもだけど、一応色々オミットして出力抑えた実質別物な術式だから! リスクもあんまりないし安心安全!


 ついでに簡易的なトラップとか、チェックポイント的な宝箱とか、回復ポイントとか、雑魚敵的ゴーレム配置とか、やってるうちにちょっと楽しくなって割と手の込んだダンジョンになっちゃったんだけど。

 そんなこんな、適当にアドリブで空洞を作りながら補強ってのを繰り返して、魔術院大迷宮を無事完成させたわけですよ。

 研究室での仕事合間に思考分割しながらチマチマ遠隔でやって、大体工期は1ヶ月くらいだったかな?


 ……ちなみにこんときに使ったやつってほとんどアドリブ術式なんだけど、一応術式としてデータは残してたりする。

 この辺も含めて結構溜まってきたし、そろそろ資料整理して報告用にまとめないとかなぁ。


 私がノリと勢いで作ってる術式って割とチート頼りの低レイヤーだから、そのままだと可読性がマジくそみそなんだよね……。

 魔力量でゴリ押してる部分も結構あって最適化もされてないし、他の人が使える形にポーティング的リファクタリングするのってめっちゃくちゃにめんどいのよ……。

 院長が汎用化作業を手伝ってくれるようになるまで、ホント過酷でしたわ……。最近は弟子も少しできるようになってきたので割と助かってたり。

 はい、つまり弟子が不在の今は過酷に逆戻りしてます。院長の今回の助け船はホント救世主級なのよ!

 


 ……まぁまぁさておき、このダンジョンについて。

 基本的には術式実験用なんだけど、この魔術院には冒険を経験したことない魔術師も意外とそこそこ多かったので、ダンジョンでの魔術運用を体験してもらう、みたいな研修地みたいな役目もあった。


 なので実際に人に潜ってもらうために、そこそこ本格派のダンジョンになっている。

 ダンジョンの構造としては4階層に分かれていて、上層、中層、下層、深層、つまり地下4階まであるって感じ。

 覚えゲーになったら意味がないので、各階層では部屋がユニットみたいな区画分けがされてて、繋がる通路がダンジョンの迷宮術式を起動する度に変わって感じになってる。

 迷宮術式の内容は他にも色々仕込んでるけど、まぁだいたいゲーム的な迷宮と思えば概ね間違ってないだろう。


 難易度としては、最初は初級〜中級冒険者くらいを当初は想定してて2階層しかなかった。けどその後でその下も増築したので下層や深層はそれなりに歯応えがあるかもしれない。

 一応、怪我とかしたら回復して強制転送する術式をダンジョン全体に仕込んであるので、命の危険はほとんどないはず。


 この下層以下は到達難易度的にあんまり使われてないけど、農作業ゴーレムのアグリちゃんの害獣駆除機能なんかは下層でテストしたよ。

 あとちなみに、弟子は深層もクリアしてる。クッソ忙しい時期にあまり相手する時間なかったもんだから、時間稼ぎ的に修行の名目で放り込んで放置してたんだ。めんご。

 でも攻略には魔術が重視されてるとはいえ上級冒険者でも全制覇は大変だと思うのに、弟子、時間はかかったけど普通にクリアしてたのよね……君ほんまに数年前まで一般素人やったんか……?

 まぁ大変は大変だったみたいで、しばらく口きいてくれなくなっちゃったけど……いやほんとめんご。そのあとめちゃくちゃ謝りました。




 ……で、そんな実験ダンジョンに私たちは受験生同士の即興パーティで挑むってわけ。

 途中でパーティメンバーのギャルに絡まれるという謎の事件もあったが、私の華麗なコミュニケーションで何とか回避できたし。

 特に問題なく、これから試験に臨むってところなのだ。






「それではこれから、みなさんにはこの先にある魔術院のダンジョンに潜っていただきます。まずはお手元の資料をご覧になり、ご同意いただけるようでしたら署名をお願いします」


「ナニコレ、ぶ厚……」

「ちゃんと読む奴いんのかコレ?」

「……」

「???」


 受付嬢さんに渡されたのは、結構な枚数の紙束。……ふむ、ざっと100ページくらいの資料か?


 パラパラーって見た感じ、特に新しく把握しておくべき新情報は無さそう。

 超絶細かくダラダラ書かれてはいるが、要するに、どういう感じのトラップがあるかとか、こんな感じのエネミーが出るとか、加点対象の宝箱とかチェックポイントとか、そういう試験範囲的な概要説明だ。

 あとまぁ、ダンジョン内の行動は記録されるから了承しといてねっていう契約と、普通にしてたら死なないから自殺行為はすんなよって注意とかかな。

 字もやたら小さく、読ませる気があるのかないのかって感じでなんかやり口が若干詐欺っぽいような気がしないでもないが。

 割と大事な内容も書いてあるし、まぁちゃんと読んでから署名すべきだろうね。


 しかしどうでもいいけど、院長とか魔術使わない素の状態だと多分これ老眼で読めないんじゃ……?

 いや、ちょっと失礼な想像だったか……?



 あ、ちなみに帝国には立派に製紙技術があるのでこういう贅沢な紙の使い方は割と珍しくない。

 というか、私が作った製紙用の術式があるので。丸太を紙にする魔術ってやつだ。


 帝国の南には大森林があるので、そこの間伐材なんかを余すところなく資源として活用されているのだ。地味に高度だけど、今や産業として成立するくらいには使い手がいるよ。

 何気に術式公開後の市場の反応がトップクラスに良かったし、いっぱい褒めてもらえたので割といい思い出だったりする。





「いや、でもこれから試験って考えるとやっぱり全部読んどくべきか……?」

「わかりませんでしたじゃ困るんでしょうね……でもこんなの直前で渡されても持ち込んで中で読むような暇ないでしょ……」


「読むなら最初の注意と概要だけで大丈夫。あとはなんかあったら私が説明するから」


「……え? 説明って?」

「覚えたし」


「は? アル、これ全部読んだのか?」

「……?(……あ、私のことか)読んだけど?」


「……これ、今の時間で全部覚えたってこと?」

「? 覚えたけど」


「なんだ……何気にお前って凄いのかもな……」

「同感……」



 なにこのイキリチャラ男とパツキンギャル、やはり失礼では?

 まぁいいが。


 『思考分割』を使えば、目から入った情報を高速で並列処理できるので、こういう速読はお手の物なのだ。

 こんな流し見的な読み方でも一応、ちゃんと隅から隅まで問題なく読めてるんですぜ。


 ……というかこの程度で驚いてたら、院長の仕事とか見たらもっとビビるよ?

 私の作った研究資料を『自動書記』の術式も使ってえげつない勢いで魔導書にまとめたりするからね?

 いやほんとおかしいよあの人。私でもちょっと気合入れて観察しないとあの人何してるかわからん時あるし。正直こわい。


 ところで、『自動書記』の術式って私製ではなく私が魔術院に来る前に院長が作ったってやつなんだけど。

 私もこっそり似たようなの作ってたけど、ちょっと負けた感あったのでそっとボツにしたのは秘密なのだ。


 というか魔術チートな私に魔術分野でちょいちょい勝つ奴が凡人なわけないだろいい加減にしろ!!!




「で。難易度的にはどうなんだ? 危険はあるのか? どういう風に進めればいい?」

「ん……上層は大したことないから中級冒険者なら比較的楽に進められるはず。でも中層からは少し気を付けた方がいいかも。試験内容的には中層攻略で合格ライン。できればその次の下層最初の通過点も取るとなお良し」

「なるほどな。じゃあ最初の方は特に問題はなさそうだし、進みつつって感じでやってくか」



「え、えっと、ねぇねぇ、私筆記ダメダメだったんだけど、本当にそれくらいまでで大丈夫かな……?」

「……多分?」



 超恐る恐るって感じで横から黒髪ちゃんに質問されたが、まぁ評価的には足りるだろう。

 確かに黒髪ちゃんは筆記壊滅状態だけど、必要な加点ポイントとしては下層に踏み入るくらいで十分なはず。

 他の候補生たちなんかは中層クリアギリギリが大半って感じだったし。


「も、もうちょっと先に進んでみたりしない……? えっと、そう、私こう見えてすっごいつよいから!」

「念のため言っておくけど、この試験では魔術しか評価対象にならないよ」


「……」

「……」

「……」

「……」


「…………私、水魔術、得意だもん」



 めちゃんこトーンダウンした……こいつこっそり奇跡使う気だったな?

 いや、君メインジョブ聖職者なんだろうけど、そりゃ奇跡使ってもポイントになるわけないやろがい。

 間違いなく上澄み側の人間だろうから強いは強いけど、これは魔術院試験なんだからさぁ。

 手段関係なくただダンジョンを制覇できりゃいいなんて甘い話、無いっしょ。

 ちなみにこのダンジョンには至る所に術式実験用の記録術式が仕込まれてるから、ズルもできないよ。


 ま、私はやりたい放題できるんだが。そもそも、ここの仕組み作ったのも私だし。

 多少は変更点もあるだろうけど余裕でどうにでもできる。必要なさそうならしないけどね。

 そもそも私の目的は合格することじゃないし。試験の評価、別にサボってるわけじゃないよ?




 さて、さて、そんなこんな駄弁りながら、私たちはそのダンジョンの入り口に来たわけなんだが……?








<<君は本当の恐怖を知る!>>


<<心せよ!覚悟無き者は帰るがいい!>>


<<一切の希望を捨てて備えよ!>>





「なんだこれ?」

「すごい脅し文句ね……」



 ……お化け屋敷かな?


 多分、ここを最近管理してる人が採用試験の方でも使うって聞いて、ちょっとした注意喚起の看板を用意したのだろう。


 まぁ実際、生命の危険はほぼ無いとはいえ、怪我的な話でいえば雑魚的役のゴーレムとかトラップとか、割と危ないっていえるかもしれない。

 あと、びっくり系のトラップも結構多いからビビるかビビらないかといわれればビビるかもしれない。


 そういう意味でいえば、ちゃんと覚悟というか心構えをしてもらう的な感じで警告をしておくのも必要なことではあるんだろう。


 だから、ちょっと悪ふざけ感はあるが、別に問題があるという話ではない。


 そう。問題は、無いのだ。







<<地獄へようこそ!>>






 ……。


 ……あぁ、やだやだ。やなこと思い出しちゃった。


 ここの大半の人たちは私の過去のことなんか何も知らないんだから、気にするべきじゃないってのに。


 それに、ほら。

 私がいるのはもう、地獄じゃないんだから。

 あいつが引っ張り出してくれたのだから。


 未来も、希望も、何処にも見当たらないような、最悪な地獄なんか、もう存在しないのだから。


 そうだろ?








(本当に?)








 ……はい。


 くっだらないネガティブな相槌をぶっこんで来たサボリ魔サブ私ちゃんは強制的に地獄(デスマーチ)に出荷よー。



(そんなー)



 てかお前はサボってないでさっさと『次元収容』の汎用化作業を進めろっつーの。このプロジェクトの進捗、未だに全然駄目なんじゃ。

 無理やり次元を切断しなくても安定的な異次元接続ができるようにならんと魔道具としてのアイテムボックスが作れないんだってのに、はよ何とかしろ私。

 納期は無期限だから皇帝様からは催促されてないけど、個人的なスケジュールとしてはいい加減報告できるような成果が欲しいんだよ!


 ここ最近の私、成果上がってない気がしてならないし!





「よし、そんじゃいくぜ!」

「はいはい」

「……」

「……」



 ていうか黒髪ちゃん無言になっちゃった……。なんかごめんね。






・・・

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