真実の大半は気づきたくない事実という現実 (4)
と、気合を入れ直して孤児院を巡り、時刻は既に正午を迎えた。
アリアが時間稼ぎに孤児院の人間と雑談をし、俺たちは少し離れて子供たちの相手をする。
思っていた以上に凄まじい子供たちのエネルギーに圧倒されながらも、何とか相手をしつつ……。
なるべくエステルの邪魔にならないように子供たちの妨害からエステルを守り、結果を待つ。
その繰り返しだ。
そして今も、その場の関係者にこっそり術式をかけていたエステルがこっちに近づき、耳打ちしてきた。
「白でした。……ここもハズレですね」
「……そうか。それじゃアリアに切り上げてもらって次に行くか」
「へへへ……しかしながらこれほどお美しい司祭さまにお越しいただけるなんて感謝感激……」
「いえ、こちらこそ急な訪問にご対応いただき、改めてありがとうございます。ここはとても良い孤児院ですね」
「おおっと、お褒めに預かり光栄……! 実際はガキどもが勝手に元気でやってるだけなんですがねぇ……! 小金持ちな小市民の道楽ですよぉ……!」
「……子供たちが楽しく、元気に過ごせている。それは、それだけで本当に素晴らしいことなのです」
「げへへぇ……」
いや、実際ここの孤児院の子供たちは元気で楽しそうなんだが……。
ここの院長なんか嫌だな……妙に脂ぎっててねっとりしてるんだが……。
距離も妙にアリアと近い気がして、なんていうか、気が気でない。
こいつ違う意味で危ないんじゃないか……?
ああいや……そうやって見た目で決めつけてはいけないな……反省しなくては……。
「ていうか私らは美しくないのかっていうね。あのおっさん、ずっとアリアの方、というかアリアの胸ばっか見てるし」
「……ふっ」
なんかエステルが遠い目をして息をついた。
いや、ベルもエステルもあいつに比べれば断然あるとおも……いやなんでもない。
「……お? おやおや? なんだね勇者くんその目は? 私たちに何かいいたいことでも?」
「何でもないぞ?」
「おいこらちゃんと目を見んかい」
「……アルさんってアリアさんみたいな見た目が好みなんですか?」
いやまて、まてまて、ちょっと待ってほしい。
いきなり何故か俺の風評被害が発生しそうな流れになっている気がする。
だいたい男のサガとして気になってしまうってだけでだな……個人的にはあってもなくても……むしろ……いや何の話だ!
「ぐふふ…………本当にお綺麗だ」
「いんちょーきもちわるーい」
「えーへーよぶー?」
「ええい、うるせぇガキども! あっち行って遊んでもらえ! 今のオレは忙しいんだ!」
「きゃーこわいー!」
「ふふふ……」
「くそガキどもめ……すみませんねぇ司祭様」
「いえ、構いませんよ」
「……。……あぁ、そういえば司祭様? ちょうど少しお聞きしたいことがあったんですがね」
室温もそこまで高くないはずなのにやたらと汗をかいている孤児院の院長が、唐突に切り出した。
って、いや、ダメだダメだ。どうしても変な偏見が混じってしまう。俺の風評被害発生の流れも変えてくれたのだし感謝しなければ……。
たぶんここの子供たちの様子から見るに、本当に良い人物なんだろうが……絶対見た目で損してるよなこの人……。
「向かいにある、隣の区の教会孤児院なんですが、どぉも様子がおかしい気がするんですよねぇ……」
「様子が?」
……? おかしい?
どういうことだ?
空気が一気に張り詰めた。急な進展だが、気持ちを切り替えなければ。
そもそもアリアの話では、教会孤児院には異常は無かったという話じゃ無かったのか?
「あぁ、気のせいかもしんないんですが、うぅん、何と言えばいいのやら……」
「どうか……気軽にお話しください。どのような内容であれ、貴方様の不利益にはなりませんから」
「いやぁ……あそこにいらっしゃる院長さん、ここ最近、なんか人が変わったように思うんですよねぇ……」
「……変わった、とは?」
「いやはや、前と同じようにも見えなくもなくて、学が無いもので言葉が正しいかはわからんのですが……雰囲気が変わったというか……子供達を見る目が少し変わった……というか……」
「そう、ですか。……。……そうですね、その方も何かお悩みがあるのかもしれません。本日はそちらにも向かう予定ですので、少しお話しを伺ってみたいと思います」
「おお! ありがとうございます! いやぁ、実はあそこの院長さんに昔いろいろと世話になりましてねぇ」
その後、2、3言の言葉を交わし、話を切り上げてアリアが離れる。
院長のおっさんは少し名残惜しそうにしてたが……まぁそれはいいとしてだ。
おそらく、全員が同じことを考えた。
「見ますか?」
「お願いします」
間髪入れず、アリアが決断する。
この後は違う孤児院を見る予定だったが……予定の変更だ。
単なる勘違いなら、それはそれでいい。むしろ取り越し苦労であった方がいい。
変わったというのが……別人に、か。潜伏の目的が、か。
最悪この二つでなければ……別に何も問題は無い。
だが、もしかしたらこれは教会の大きな火種になる、かもしれない。
「……大丈夫か?」
「えぇ、そのような事態が全く想定されていなかったわけでは、ありませんから。むしろ……」
抑え切った表情。その向こうに、苦痛を堪えるような感情が見えた気がした。
「……大丈夫です。判明するなら早い方が良いでしょう。急ぎ向かいたいと思います」
「焦ったらダメだよアリア」
「ベル……?」
「……いえ、ここは急ぐべき場面でしょう」
「違うって。焦るのと急ぐのは全く違う。これまでと同じようにいくよ。ほら、深呼吸して」
「……」
「年長者の言うことは聞いといて損はないよ? まぁあの脂身おじさんの脂が混じった空気を思いっきり吸うのは嫌かもだけど」
「……ふ、ふふ、脂身……あ、いえ、失礼ですよベルさん。あの方は誠実に孤児院を運営されているのですから……」
「いやぁ、誠実なのかなぁ……?」
張り詰めていた空気が、少し和らいだ気がした。
そうだな。まだそうと決まったわけでもないし、焦っては間違いも起こりやすい。
ここまでと同じような流れで、落ち着いて向かうべきだろう。
「……じゃあどうする? 元々軽い昼飯を挟む予定だったが、食ってから行くか? 次が本命となると本当に軽くになるが」
「そうしよ。孤児院は逃げないんだから。少し打ち合わせもしたいし、それに腹が減っては冒険できないからねぇ」
「まぁ普通は判別方法がないと考えれば、あちらも逃げる理由ないですからね。万全の状態で臨む方がいいでしょう」
「そう、ですね」
そうと決まれば、適当に表通りとかでパンでも買って食うか。
「私お肉の串がいいなー買ってきてー」
「自分で買えって。俺はパン買うし」
「えー。それじゃあさ、分け合ってパンに肉挟んで食べない?」
「お、それは有りだな」
「……前々から私思うんですけど、お二人とも妙に仲良くありません?」
「気が合うんでしょうね。始めの頃からこのような調子でおられましたし」
「ふーん。まぁいいですけど」
「二人はパンと肉どっちにするんだ?」
「2択なんですか。それならパンですかねー」
「私も、パンをお願いいたします」
「3対1じゃん! なんか負けた気がする!」
束の間の休息だ。
補給をしたらその後……次の孤児院で魔族と会うことになるかもしれない。
人類の敵対種。悪意の魔物。最低の怪物。
極悪の害悪とまで言われるような、人間の写し身。
果たして、実態はどんなやつなのか。
どんなやつと……あいつは間違われていたのか。
やはり、どういう存在か、一度しっかり知っておいた方がいいように思う。
話す機会もなさそうなのであまり見極められないかもしれないが……。
難しい問題だな……。
……まぁ、悩んでも仕方ないか。
聖剣からも労るような意思が飛んできた。
多分、聖剣はよくわからないまま俺が悩んでるのを感じて労っているんだろうが……。
そうだな。今の俺は、今の俺がやれることをやるしかない。
よし、頑張るぞ。
・・・
<エンペラータイムin魔術院の院長室>
「調子はどうだ?」
「おや、おや、陛下。……順調といいたいところですね」
「ふむ、万全ではないということか」
「流石に彼女の仕事は、非常に重たいですから。凡人は凡人なりのやり方で進めるしかありません」
「くくっ、割に合わんな。だが、悪くはない判断だ」
「ふむ、ふむ。お褒めいただいていると捉えておきます」
「帝国魔術院は優秀で、歴代でも最高と言える。決して、一人の魔術師に依存した存在ではない」
「まぁ、まぁ、ようやく半分を超えたくらいですけどね……未だに新規術式は半数近くが彼女個人のものなので」
「計画よりもかなり早い。素晴らしい成果だ」
「ありがとうございます」
「……ああ、決まり次第追って伝えるが、次に進む。少し使うぞ」
「そう、ですか。畏まりました」
「ずいぶん入れ込んでるようだが、気にする必要はない。これは全て私の罪だ」
「陛下……」
「人形にすらなれなかった歯車の、存在する意味でもある」
「……シャリオ様」
「幼名で呼ぶな。私はグラン7世。輝かしい過去の栄光を爛れ腐らせた一族、その末裔だ」
「シャリオ様。貴方の幼く遠い夢は、きっと貴方の思惑以上の形で叶いますよ」
「……。そうか。そうだといい。では、また来る」
・・・
魔王さま(なんでこれがこうなる……そもそも直感に反する動きがあったということは理論が正確に身についてないということだが……)
魔王さま(クソ……おそらくこの辺りか……魔法創造の癖が抜けておらんな……魔法合成術式の作成に手をつけるのはまだ早かったか……?)
魔王さま「……チッ」
魔族さん(ひぇ……魔王さまがお怒りだ……恐ろしい……魔法を賜るのは次の機会にしよう……しかしついに魔王様自らが動くとなれば……人類支配の日も近い……!)
(次回、魔女パート)




