真実の大半は気づきたくない事実という現実 (1)
・・・
<忘れがちだけど魔女さん空前絶後超絶怒涛の絶世の美少女フェイス>
「ねぇ、ところであんた……」
「え?(なにいきなり、てかこの金髪ギャルやたら距離近くない……?)」
「何で顔隠すように布被ってんの?」
「え?(それダンジョン行く前に聞くことか?)」
「魔術院の試験受けられてるってことはお尋ね者ってわけでもなさそうだし、女神教以外の信仰してるとか?」
「え? いや、別に(というか神全般嫌いだし)」
「……そう。……、じゃあ、何か深い事情……あるの?」
「……え?(え?)」
「女が顔隠す理由って、あとは大抵、怪我とか病気とか……」
「え?(村でよく見たただの村娘スタイルほっかむりファッションなんですが……?)」
「あと……男とかに……嫌な思いさせられたとか……」
「え?」
「怪我とかならいい治癒術師紹介できるけど……でもあいつが話しかけた時の反応、妙にビクビクしてたし……」
「え、ぁ、いや、ちが、別に事情とか…………やっぱ取る」(髪ふぁっさぁ)
「……は?」
「えっ?」
「……」
「……」
「いややっぱそれ被ってて。あと絶対トゥールの前では外さないでね」
「あっはい(……マッチョの方はいいのか?)」
「はぁ……、心配して損したわ。そんなにそれあっさり外せるなら、別にその顔で嫌な思いとかもしてないんでしょ……」
「……」
「……、……」
「別に最近は、無いかな」
「……無神経だったわ。ごめん」
「いやいい、気にしないし。あと安心していい、別にあの男に関しては一切何とも思ってないから。ついでにあの筋肉とかも正直どうでもいい」
「そう……ならいいけど……」
(強いていうなら副院長がキモいアプローチしてくるのがちょっとアレだけど、アレは何ていうか、キモすぎて逆に許せるというか……むしろ若干シンパシーを感じるというか……)
「……、……ほんと、ごめんなさ」
「それに私にはあいつがいるし……」
「は?」
「……え?」
「え、何? つまり、そういうことなの? あんた心に決めた男でもいるわけ?」
「……ぇ、……、あ、ぅ……?」
「……」(じっ……)
「……」
「……」
「………………うん」
「……ふ、ふふふ、そーなんだ。いいじゃんそういうの。ねぇねぇ、どんな男? 聞かせてよ。どんな馴れ初め? 助けてくれた王子様的な?」
「ひぇっ……!?(ちょ、ちか、いきなり近いって!)」
「おい、お前たちそろそろ行くからな?」
「あ、ちょっと! もう、あいつホント空気読めないんだから。……また後で聞かせてね?」
(助かった……? くっ……これだから陽キャってやつは……)
(でも正直いい匂いした)(おっさん乙)(アレがオタクに優しいギャルってやつ……?)
(おいギャルとのふれあいに脳内でハシャぐなサブ私ども)
・・・
「合図を決めときましょう」
おもむろにエステルが切り出した。
俺たちは今から全員揃って孤児院巡りをするところだったのだが……?
「合図?」
「はい。先に確認ですが、相手が魔族と確定した場合、そのまま討伐しても構わないんですよね?」
「そうですね。審問無用でそのまま……滅してしまいましょう」
「あー……なんかさ、全然関係ないけど、メッ!する!っていうと可愛らしいお仕置きみたいだよね。実際は教会のそういうお仕置きってえげつないんだろうけど」
「……ふふ、ベルさんもお仕置きして差し上げましょうか?」
「うわこわっ……ごめんなさい冗談です勘弁してください」
ベルと冗談を言い合うアリアの顔色もだいぶ良くなっていて、気分的な調子も回復してきたようだ。
……微笑んでるのに目があまり笑ってないのが正直ちょっと、いや、かなり怖いが。
魔族の話が出るようになって、時折アリアから抑えきった殺気が漏れることがある。
何があったかはわからないが……ベルがそれを察して空気が重くなり過ぎないように少しふざけたのだろう。
……ちょっと失敗したみたいだけどな。
「……というか、先に相手から話を聞く必要は無いのか?」
俺も続けて話の腰を折る形になってしまったんだが、ふと、気になった。
この事件の顛末を当事者、というか恐らく犯人、から聞く必要は無いのか?
「ありません」
冷たく、ぴしゃりと言い切られる。
「魔族の言葉に聞く価値はありません。相手は人類の敵対種。言葉を操る魔物なのですから。むしろ害にしかなりません」
「そ、そうか……、すまない、悪かった」
何が悪いのかわからんが何か謝ってしまった。
俺も誤ったというわけか……いや俺は冗談のつもりでは無かったんだが……。
チラリと他の二人を見てみる。
「……消極的賛成です。残念ながら、悪意を持たない魔族を、私は見たことがありませんし」
「んー……私も直接魔族を見たことは無いんだけどさ、同意見かな。異議無し」
3対1か。まぁ、事情があっても決して許されることではないんだが。
もし何かあるなら聞いておきたいと思うのは、不要な野次馬根性、みたいなものなんだろうか。
「……。アル様の優しさは美徳と思います。ですが、与えるべきでない慈悲は、いずれ過ちに変わるでしょう。くれぐれもお間違いをなさらぬよう……」
納得できないような顔をしてしまっていたか、釘を刺されるように言われてしまった。
まっすぐ目を見て言われると、やっぱりこの考えは間違ってたような気がしないでもない。
いや別に魔族に優しくしようとかは考えてなかったんだが……どう考えても今回は確実に悪者だしな……。
……しかし、与えるべきでない慈悲、か。
正しい相手。正しくない相手。
それを、相手を知りもせずに最初から決めて、いいのか。
子供のころ俺は、あいつを一方的に悪と決めつけた大人のようには、なりたくないと思っていた。
だがそれは、あいつのことを俺がよく知っていたから思えたことかもしれない。
知らなかったら、それでも同じように思えただろうか。
今の俺は、どうなのだろう。今の俺が、あの場面にいたら。
子供のころと同じように、躊躇わずにあいつの手を引けただろうか。
魔族は、悪だ。魔王の眷属であり、人類に仇なす、敵だ。
あいつは魔族のせいで、魔王のせいで、何度も悲しい思いをしなければならなかった。
だからこそ、俺はあいつのために、魔族を、魔王を倒す必要がある。
……だとしても、だ。
果たして本当に何も聞かずに、倒してしまってもいいのだろうか?




