大勢でワイワイするのが苦手なだけで別に私は陰キャじゃないが? (2)
「で、アルは何が得意なんだ?」
……?
あ、私のことか。あいつのこと考えてたから名前呼ばれて一瞬呆けてしまった。
うーん……何が得意か、か。多分、何の魔術が得意か聞いてるんだよな……?
ぶっちゃけ魔術に関することであればこれといって苦手分野は無いから、全部得意といっても過言ではないんだが。
まぁでも、属性的な話で強いて言えば……。
「……風?」
風属性かな。
そう、私がこの世界で生まれて初めて触れたのが風の元素だったんだよね。
転生して、魔力なんてものがあると知って、テンプレ的に見えない魔力を感じようとあてもなく修行(笑)を頑張ってたらいつの間にか操れるようになってたってやつ。
あれはたしか2歳くらいの時だったか。
今思い返せばあんなの魔術とも呼べないような、実に幼稚で稚拙極まりない原始的なものだったんだけど……というよりあれは魔物が使うような原始魔法に近いか?
この時に見られて魔力バレしてたらもしかしなくてヤバかったかもなぁ……。転生早々、実は割と危なかったのかもしれん。
流石の魔術チートも、全くの初期レベル状態じゃ問題解決もクソもない。2歳児の時点で迫害されてたらいくらなんでもどうしようもなかったわ。
まぁ客観的に考えたら、5歳で迫害されてたのも正直どうなんだって感じではあるが。
成長した魔術チートで大抵のことは可能になってた分、結果的にはだいぶマシだったというか。
それこそ、あの頃より遥かにレベルアップしてる今なら、何でもドンとこいって感じ?
そう、なんでも……。
…………。
……ごめんやっぱ無し。もう二度とごめんだわ。
そのせいで。
「……ふーん。へぇ。アルも風適性か、奇遇だな。俺らも3人とも風なんだぜ?」
「むーぅ、わたし水だから仲間はずれだよぉ」
「………………ん。でも他の属性も全部得意」
「……なんだそりゃ? まぁでも一番は風なんだろ?」
「それはそうだけど」
はい。メイン私が勝手に闇落ちしかけたのでサブだったメンタル健常な私と交代しました。
こういう時、思考分割ってすっごい便利やね!
というかこれが本来の用途であって、院長みたいな使い方はホントは想定されてないんだよ!
マジであの人頭おかしいね!!!
そんじゃ、本筋に戻って属性云々の話。
この世界の魔力は6種類の元素を元にしている。
それが火水風土光闇の6元素だ。まさにテンプレファンタジーって感じ。
この世界の魔力を持ってる生き物には、それぞれ魔力適性ってのがあって、それによって使える属性が違う、と言われている。
これは間違いともいえないんだけど絶対じゃなくて、適性じゃなくても使おうと思えば他の属性も使えるし、なんなら同時に複数属性の行使だって可能だったりする。
もちろん火と水や、風と土、光と闇みたいに相反する属性は同時に扱いにくいけど、言うてもちょっと難しいくらいで普通に共存させられる。
魔力って割と融通が利くからね。なのである程度以上のレベルになったらあんまり深く考えなくても問題はないよ。
というかむしろ、色んな属性を使えるようになるべきだね。私の術式、主属性と副属性の比重はあれど初心者向け以外は複数属性必須のものばっかだから。
まぁ当然というか流石に初心者が魔術を使うなら、ちゃんと属性を合わせた方がいいんだけど。
例えば弟子は火の適性があったから最初は火属性の魔術を中心に覚えてもらった。
あ、ちなみに火属性は適性じゃなくても比較的覚えやすく使いやすいので、初心者にはかなりおすすめだったりする。
火、というか熱という概念は生き物にとって感覚的にとても理解しやすいものだから。
逆におすすめできないのが、風属性。
目に見えないものだから感覚的に扱うには結構コツというか、才能みたいなものがいる。
まぁ私はチートなので苦労した記憶は無いが、弟子も習得にそこそこ苦労してたので非適性だとやっぱ難しいらしい。
ちなみに魔力適性は基本的に4元素のどれかになることが多く、光と闇はほぼない。どっちも属性としては神のものに近いから、この二つの属性は特に扱いが難しいんだよ。
私でも光と闇は基本、補助的な使い方をしてるし。これらを主属性とした魔術は、まぁ色々作ってはいるけど……。
中には私でも制御ギリギリなやつとかもあるから出来るだけ使わないようにしてる。
もちろん『光球』や『遮光』の様な危険性ほぼゼロなものも当然あるけど、何にせよ初心者にはお勧めできない上級者向けの属性だね。
つっても弟子は普通に使ってるが。やっぱあの子絶対おかしいよ……。
……さて、そんなこんなで、改めて今回一緒にパーティを組む私たちの属性を見ていこう。
私、風。
イキリボーイ、風。
金髪ギャル、風。
マッチョマン、風。
まな板黒髪ちゃん、水。
いや、バランス悪っ!
それに風と水はどっちも流体なので親和性があって相互に覚えやすいし、多分風トリオも多少は水属性を使えるだろう。
黒髪ちゃんはパッと見の力量的に、恐らく他属性も使える……まぁこの子は神力があるから多分そっちを優先で鍛えてるんだろうけど、風属性くらいは使えておかしくはない。
だから多分全員ほぼ似たような属性を使う魔術師。いやいやもうちょいバランス考えて振り分けよ?
ああ、ちなみにだけど、女神と関連深い聖職者が持つ、ほぼ固有能力な神力。これ自体に属性は無いけど、魔力に作用するのでそれに影響されて属性っぽい働きをしたりもする。
例えば魔力的に水属性であれば、水に関連する神力の使い方になるだろう。元の魔力をブーストする形になるのが多いかな?
でも魔力を介さず神力単品で使うこともできるらしいし、その場合は光属性っぽい振る舞いをする、らしい。私は使えんからわからんが。
このへん帝国教会の人に協力してもらって色々検証してみてるけど、まだまだ謎は多いね。
どっかの剣は多分神力で謎の魔力無効化してきやがるし。感知できないから神力を使ってるかは推測だが。ほんとクソゲーですわ。
……というか黒髪ちゃんって力量的に明らかに教会の上位の人間だよな。
院長が気づかないわけないし、これが院長の言ってた問題ってやつか……?
あんまりお偉いさんだと対応ミスったら政治的にってことなのかなぁ。
「? どしたの?」
「なんでもない」
まぁいいや。さておき、となるとほぼ全員、風水魔術師か。
なんかこういうと途端にちょっぴり胡散臭くなるが気にしてはいけない。
そんで、このバランスわるわる魔術師オンリーなパーティでダンジョンに挑むと。
いや、そもそも魔術院試験なんだからここには魔術師しかいないわけなんだが?
パーティ組むと必然的に全員後衛になってしまうんだが?
あの、院長、この試験本当に大丈夫っすか……?
……まぁ、きっとムキムキの人が筋肉的に前衛の代わりをしてくれるんだろう。
最悪、オールマイティなワイルドカードでジョーカーたる私が臨機応変に対応すればヨシ。
どのみちここの人工ダンジョンは魔術実験用だから、おおよその構造は私も把握している。
というか最初は私が依頼されて作ってるし。
そこから結構改造されてるらしいけど、そんな変わらんと思うし。
「よし、じゃあ行くか」
「準備も良さそうだし、そーね」
「……」
「がんばるよ!」
なんかイキリボーイが仕切ってるのが気になるが……まぁいいだろう。
実はこういう、冒険者パーティっぽいの、憧れだったりしたし。
みんなでダンジョン潜るとかなかったからね。ソロならあるが。
あいつとの二人旅はあんまりクエスト的なことしなかったし。
あれはあれで良かったけど。
……あいつ今なにやってるんだろな。
「《《アル》》?」
……?
あ、私か。
「ごめん、いま行く」
んー、でもパーティクエストか。どう動こうかなぁ。
あんま出しゃばってもアレだから、サポートしつつ動く感じがいいかな?
……一応仕事だけど、ちょっとワクワクしてきたね。
今日の私は魔女さんではなく冒険者だ。
さぁ、冒険者のアルちゃん、がんばるよ!
・・・
<厄介魔術オタク>
「チッ……これではダメか……小休止にしよう。そういえばあれ以来静かだな」
「ふん……魔王軍、か。どうでもいい。しかし、帝国。たしか、カルネージは上位だったか?」
「あれを退ける帝国の魔術。どうせ大したことはないだろうが……研究の手がかりにはなるかもしれんな……」
「情報を集めてみるか……」
「くっ……くくっ……魔の神、とな。我を差し置いて面白い存在だ。実に傲慢。人間如きが烏滸がましい」
「まぁ、あの女ほどじゃないだろうが。気晴らしに魔神とやらの顔でも見てやるか」
「なにあれ。すご」
「え? どういうこと? 待って、ちょっと待って、理論がわからんから訳がわからんかった。ちゃんと調べよ……」
「『初級魔術指南書』著:クードヴァンデュシエル。ふむ、なるほど。あの人間はクードというのか」
「く、くくくっ……、やはり我は天才……この程度児戯に等しい……! 帝国式魔術とやらも多少は過去の偽魔法より発展してるが、何、大したことないな……!」
「『中級魔術探究書』……え、ちょっと待って、この間になんかないの? あれの次がこれ? 急に飛躍しすぎじゃない? は?」
「……ふん。まぁ所詮はこの程度か。しかし……この術理……理論構築……なるほどな。かつてのあの女ですらクードほどではなかった。これほどの人間が存在するとは……」
「『上級魔術窮極書』……流石に簡単には手に入らんか。中級ですら制限扱いで軍の保管倉庫には一冊しかなかったからな」
「改めて帝国に乗り込むのは……できれば避けるべきだろう……そもそもあやつの索敵から逃れるために無理にでも異次元に入らざるを得なかったという現状が……」
「あっちに展開してる魔界を経由すれば恐らく大丈夫だろうが……肉体的にも魔力的にも衰えてる現状では正直この接続も切ってしまいたい……しかし繋がりを断つと新たな知識を得られない……やはりあの書は欲しい……」
「魔王さま、今度こそお時間よろしいでしょうか……?」
「ええいうるさい。我は忙しい。後にしろ。ゲートを開けてるだけでも有り難いと思え」
「ぐっ……く、申し訳、ござ」
「あ、いやちょっと待て」
「……?」
「クードヴァンデュシエルという人間の書いた書物があったら献上せよ」
「! 承知いたしました! ああ! ついに魔王様が!! あ、あと、さ、差し出がましい願いを」
「よい。新たな書一冊につき、一つ魔法を与えてやろう。献上済みのものであっても何かしら取らす」
「ありがとうございます! 全軍に通達いたします!!」
「さっさといけ。我は忙しい」
「はっ!」
「……よし」
「有り難き……幸せ……」
「よい。受け取ったならさっさといけ。我は忙しい」
「はっ……」
「……」
「……ふ、ふふ」
「くくく、やった、ついにやったぞ。『上級魔術窮極書』、どこぞの上級冒険者とやらには不幸だったろうが我に関係無いしな」
「これであやつの魔術全てを平らげ、我の真なる魔法を完成させてやろう……!」
「待っていろ怠惰なる女神よ……愚かな貴様に変わり……我こそが世界を統べるのだ……!」
「まじゅつなんもわからん……」
「え、うそ、まだこの上がある? うぅ……ぐぐ……」
・・・
魔王さん「『秘匿禁忌』とやらも欲しい……実在するかもわからん根も葉もない流言でしかないが……」
女神さん「zzz……」
(次回、勇者パート)




