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勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん  作者: MckeeItoIto
勇者のまったりクエストと魔女さんのお仕事
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冒険者としてじゃなく、勇者としてのクエスト (2)


 被害の報告が無い。


 ということは、報告ができないか、気づかれていないか、といったところになるんだろうが。


 報告ができない、例えば犯罪者なんかは被害を訴えにくいかもしれない。

 気づかれていない、例えばその子供を気に掛ける大人がいないか少ないという状況なのかもしれない。


 どちらの条件でもパッと考えつくのは貧民街の子供。

 犯罪に手を染めるものも多く、多少のまとまりはあれど互いが互いをそこまで気にしてはいない。

 王国の貧民街はそんな感じだったが。


「ところで教国って、貧民街はあるのか?」

「あります。が、教会が定期的に訪問していますし、把握しているコミュニティにも全く動きが無いので、おそらく可能性は少ないかと」


 被害者の子供がどこの集団にも属していない新入りだったり一匹オオカミだったって可能性もある。

 でも子供が何人もいなくなって全く動きが無いってのは、流石に可能性としては低そうか。


「なるほど。じゃあ孤児院は?」

「教会が運営している正規のものと、個人が運営している非正規のものが。教会のものは昨夜確認いたしましたが問題は起こっておりません」


「えっと……非正規の孤児院を教会が監督や監視したりとかはしますか?」

「監督とまではいきませんが、確認はします。私どもだけではどうしても手が足りないため、ほぼ黙認に近いのですが……」

「んー、まぁでも一番怪しいのはやっぱそこだよねぇ」

「子供が使われるという前提で進めれば、やはりそうなりますね」


 割とトントン拍子に話が進んでいく。


「となると、まずはそこを順番に見ていく感じになるか」

「役割の振り分けをどうするかだよねぇ。現状、エステルちゃんしか魔族を見極められないわけだし?」

「魔族に対して単独であたるのは、危険でしょうね。判別の魔術を相手に気取られる可能性も考えると、最低でも二人一組。討伐も考えると、むしろ全員で動いた方が良いでしょう」

「気取られるなんてヘマしません……といいたいですけど、魔族の強さ次第ですかね。私自身、経験豊富とは言い難いですし」



「……そういえば、エステルは実際に魔族に会ったことって、あるのか?」



 話をしていて、ふと、疑問に思った。


 魔族を判別する魔術。存在自体が魔術師の敵であるのだから、それがあるのはわかる。

 それを魔術師として、エステルが教わっているのもわかる。

 決して信じていないわけではない。



 でも、()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 魔族は、ゴブリンなどのどこにでもいるような下級の魔物とは違う。

 ドラゴン、ヴァンパイア、デーモン、ケルベロス、クラーケン、そんな上級の魔物に並ぶ存在。


 魔王軍が遠い昔に滅んで散り散りになった魔族たちも、かつての勇者が聖剣と共にほとんど討伐したと聞く。

 少なくとも、滅多に遭遇するような存在ではないはずだ。


 俺も直接見たことはない。見ても気づいていないだけな可能性もあるが……。




「あー……あります。あるというか、なんというか……あんまり大きな声では言えないんですが……」


 随分と歯切れが悪い。ひょっとして何か、悪い事情でもあるのか……?


「えっと、3、4年前くらいですかね。帝国、魔族に襲撃されたことがあるんですけど」



 それは、ギルドで噂程度の話は聞いたことがある。

 魔王が復活したことで、魔王軍は帝国を襲った。


 それをほとんど一人で鎮圧したのが、当時冒険者だったエステルの師匠。

 国の危機と、皇帝の命を救い、そのまま帝国に仕えることになったという。


 無名の冒険者が、皇帝に”クードヴァンデュシエル”という名を与えられ、世界に知られるようになった大きな事件だ。



「ししょーはその前後の期間、自主的に高位の魔物や魔族狩りのようなことをしていたらしいんです。……国が魔術院にししょーを縛り付けてからはそれも減ったそうなのですが」


 前後、となるとエステルの師匠の、冒険者時代の話だろうか?

 そのころの話というか情報はかなり少なく、真偽不明の噂程度しか聞かない。


 とんでもない実力者のはずなのに、不思議なほど過去の話が見えてこない。

 そのためか、魔神の過去の噂については色々あり、没落した帝国貴族だとか、謎の美少女だとか、元犯罪者であるだとか、魔術院の実験体だとか、




 果てには、()()()()()()()()()()()()()、だとか。


 そんな何の根拠もない中傷じみた噂さえあった。




「それって、ギルドの依頼関係なくってことだよね?」

「そうですね。依頼が出る前に勝手に討伐して、ギルドに素材とか持ち込んでたらしいです」

「……魔神さまって、実は結構おバカ?」

「……」


 ……目を逸らすなエステル。お前の師匠だろ。


「ま、まぁ、実際に被害が出てたりで、確実に討伐対象になり得る危険な魔物なんかを全くの無報酬で倒してたので、現地の人たちとかからはすごく喜ばれてたらしいですよ!」

「でもそれ冒険者と冒険者ギルドの人たちからは確実に嫌われるよね……?」


「う、ぐ…………、……その話はさておいて、ししょーは魔族を含めた魔物をこれまでにたくさん狩ってきたんですが」


 擁護を諦めたエステルが強引に話を進める。うん、まぁ、流石になぁ。

 ちょっと、いやかなり冒険者としては非常識というかなんというか……。


 冒険者の魔物討伐は依頼を受けて行うのが原則だ。じゃなきゃ、ギルドが状況を把握できない。

 それに、報酬が絡まない討伐は他の冒険者の飯の種を奪うことにもなりかねない。

 違法、とまではいかないが……周りに嫌がられるのは間違いない。

 冒険者登録してる冒険者なのであれば、確実に周りからの評価は良くない、だろうな。

 素材とかでそれ以上に成果を上げてるから仕方なく黙認されてた、とかだろうか。誰か教えてやればいいのに。


 冒険者になるときの講習、ちゃんと受けなかったんだろうか。

 まぁそもそも俺が受けた時でも真面目に聞くやつ、少なかったしなぁ……。

 割とためになる話ばかりなんだが……。


「魔術顧問になって以降のも含めて、ししょーの研究室には高位の魔物の素材がいっぱいあるんです。その中には魔族のものも」

「へぇ。なんかすごそう。つまり死んだ魔族には会ったことあるってことね」

「あ、いえ。死んでないのもあって……」


「……え? 大丈夫なのそれ?」


「いや、えーと、ちゃんと生きてるともいえないんですけど……魔族に限らずですが、バラバラで錬金液漬けにされてるのとか魂だけ縛り付けられた黄金像になってるのとか…………そもそも魔族って死ぬとほぼ魔力になっちゃいますし……」

「魔神さまこわっ……」



「……聞かなかったことにしましょう」

「そうだな……」



 なんか最近は魔神に少しだけ親近感みたいなのが湧いてたんだが、ちょっとお近づきになりたくない感じになってきたな……。

 なまじ魔族が人と同じ姿だから、想像すると残酷に思えてしまうというか、敵ながら哀れというか……。


 あれか。敵には容赦しないタイプなのか?




 ……思えばあいつも、敵と判断したやつには容赦がなかったな。


 二人旅時代、夜中に見張りしてた俺が油断して、野盗に襲われかけたときのことだった。

 いつの間にか起き出していたあいつが全く躊躇なく、そいつらを消し炭にしたのを見た時は……いろんな意味で肝が冷えた。


 子供時代のあいつは子供らしくなく変わってはいたが、人が好きで、誰かの役に立てるのを心から喜ぶような純粋無垢と言える少女だったのに。


 あいつがあの時恐れていたのは、野盗のような平気で人の命を奪うようなやつと対峙することでも、そいつらの命を奪うことでもなくて。




 その後で目が合った、()()()()()()()()、だけだった。そう、見えた。




 ……俺の反応は、大丈夫、だったのだろうか。正直、わからない。


 まだ俺は、人間に対してその一線を越えたことはない。だけど冒険者を続けていれば、いつかは越えることになるだろう。

 仕方ないことだ。そういう世界なのだから。必要ならばやらねばならない。その必要があいつには既にあった、ということ。


 とはいえ……俺はあいつにそんなことを、できれば戦って欲しくもなかった。

 この世界、この時代、それは難しいのかもしれないが……戦うことなく平和に過ごしてほしかった。


 魔術を忌避する王国内での話だ。

 元々あいつの力は極力借りないようにしていたが、あれ以来俺は、あいつを戦わせないよう、とにかく危険から遠ざけることに躍起になっていた。


 果たしてそれは、結果的に正しかったのだろうか……?




「……アル? ちょっとアールー?」

「むむ……」


「ん。ああ、すまん。じゃあ大丈夫だな。ともかく、あとはどう動くかだけか」


「む……? あ、そういうことですか……。……まぁ、そうですね」


「てなるとー、アリアが教会の人間として訪問するのが一番かな?」

「そうですね。私とベルさんとで先に訪問し、異常がないかの確認をしつつ時間稼ぎ。その間にエステルさんに怪しそうな人物を判別してもらう形が良いでしょうか」

「万全を期すのであれば、数分くらいは時間欲しいかもしれません。ししょーなら一瞬で終わるんですが……」

「大丈夫ですよ。それで、訪問する孤児院のリストはこちらに」

「準備がいいねぇ。さすがアリア」


 そこまで対象の数は多くない。両手に少し余るくらいか。

 手分けせずとも、順に一つずつあたってけば今日中には終わりそうだな。


 何やら聖剣も、ピカーッ!と光ってやる気を出している。

 でもあんまり光ると目立つからしばらく鞘の中で大人しくしててくれよな。


 って意思を伝えると、ちょっと落ち込んだ意思が伝わり、光がおさまった。

 いや悪いな、ちゃんと出番あるはずだから、そん時はいっぱい活躍してくれ。


 ……よし、よし、いい子だ。



「よし、じゃあクエスト開始といくぞ!」


「やる気満々だねぇ。おーっ!」

「お、おー?」

「ふふ……行きましょう」



「ま、これ正式な依頼は出てないから正確にはクエストじゃないんだけどね!」



 おいそこの褐色エルフ、揚げ足を取るんじゃない。

 なんていうかこれは、気合いを入れるためというか、気持ち的なやつなんだよ。



 ……そうだ。俺は冒険者としてじゃなく、勇者として、この事件を解決する。



 依頼とか関係ない。報酬も見返りも必要ない。


 そう、あの頃のあいつのように。ただ、誰かのために。

 その先の、あいつの生きる世界のために。


 元々そのつもりだったが、改めて決意を……、





 ……、……()()()()()()()()()()()()





「……アルさん?」

「もう。早く妄想から帰ってさぁ、行くよー」


「ん、悪い。今行く」



 いま、何か引っかかった気がしたが……気のせいか。


 とにかく、今回は魔族が相手になる、はずだ。聖剣があるとはいえ、あまり油断はできない。



 気合いを……入れないとな。やるぞ!



・・・

聖剣ちゃん「しょぼん。出番が来たらいっぱいがんばろ……」



(次回、魔女パート)

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