05話 プリーストの保護対象
ー フロストヴァルト王宮 ー
子供たちが遊んでいる。
女の子は6歳くらい、男の子は4歳くらいだろうか。
侍女が二人と一緒の時間を過ごしている。
「今度は、アッシュ様がオニの番でございます。
エリザ様はお隠れになってください。」
次はアッシュの鬼の番だ。
はやく隠れなければ!!
とエリザは思った。
エリザは、弟のアッシュと
侍女の二コラと、かくれんぼをして遊んでいる。
エリザは今しがたクローゼットの中に隠れたが、
かわいい弟が、こっちに気が付かず、
あっちに行ったりしている。
なんてかわいい弟なんだろう。
みているだけで幸せになる。
しばらくすると
侍女のニコラが悲鳴を上げて走ってきた。
なんだろう。兄さまにいたづらでもされているのだろうか。
まったく兄さまは、限度を知らないから。
とエリザが考えていた。
しかしながら、エリザが次に見た光景は、
ニコラが後ろから来た男達に、
惨殺されるシーンである。
切り付けられた二コラは
けいれんを起こしている。
エリザの体は動かない。
そしてもう一人の男は、
アッシュを手にかける。
「これがターゲット依頼は一人だったな。」
「いや、ガキは二人いて、大きいほうだぞ。」
エリザの体は動かない。
エリザは声も出ない。
「いや、こっちに来ないで」
とエリザは心の声でつぶやく。
音がしたのか、男がまっすぐにこっちにくる。
そして突然男は剣を突き出す。
エリザの左肩に剣は刺さった。
左肩に痛みが走る。
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エリザは目をさます。
今日も同じ夢を見た。
昔の夢、何も変わらない夢
何もできなかった自分、
皆を見殺しにした自分、
反撃もできなかった無力な自分、
この夢を何回これから見るのだろうか。
この夢を見るたびに、神官長になったあとでも、
自分の無力感に、自分が殺されそうになる。
そのたびにこの傷の痛みを思い出しながら、
歯を食いしばって努力してきたのだ。
さぁ、今日も自分の身支度をし始めなければ。
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_ フロストヴァルド最南端の都市ティアモ ー
エリザ・ノースフォードは、アッシュ王子の姉であり、フロストヴァルド王国の神官長でもある。現在はエリドールの難民の保護のためにフロストヴァルド最南端の都市ティアモに滞在している。
現在フロストバルドは、南方に位置するエリドール公国から発生している大量の難民を支援していた。
財産を失ったもの、
家族を失ったもの、
そして、もともと何も持っていないもの、
懸命に働いているもの、
争いをしているもの、
無気力に生きているだけのもいる。
もともと何もない無気力なものが、
生き延びてきたとしても、
何もないままなのである。
おしむらくは元の地域ではそれなりに仕事もあったであろうが、異国の地で、持つものも失い、習慣も違えば、仕事を得ることは難しい。難民の皆がなにか高い生産性があるわけではないのである。
それに、この急激な増加に見合う分の仕事や食料や場所もさっぱり足りていないのが現状である。
難民間のいざこざを諫め、
現地民とのあつれきを解き、
弱きものを守るのが神官長のエリザの任務であると、
自分で決めてやってきているのだ。
意欲のあるもの、
技術を持つもの、
争うだけの元気があるものには、
仕事を、
無気力なもの、
何もできない老人や子供でも、
できることは手伝ってもらう。
生きているだけで、
人生を取り戻してもらうのがエリザの目標だ。
でも、明日はアッシュが学園都市から戻ってくる日だ。
このエリザお姉さんに会いに来るのだ。
近隣にいた剣聖イングリスも呼び寄せた。
どうやら弟には学園都市ではかわいいお友達もできたらしい。
まぁ、かわいい弟には少しくらい虫がつくのも仕方のないこと。
ただ、その虫はどうやらとてもつよくて、きれいな蝶のようだけれども。
皇女リリアは、敵国サンフォーレ皇国の皇女ではあるが、ヒトとして大事なことをアッシュに教えておかなければと思っていたのだ。
エリザはしばらくぶりの再会を楽しみにしていた。