04話 初対面初デート♪
ー 東の国の魔法学院ヴェローナ ー
フロストヴァルドの王子、アッシュは、入学式の日に始めてリリア皇女に出会った後、学園都市ヴェローナを散策していた。
アッシュ王子とリリア皇女の一行は、それぞれが、楽しい時間を過ごしていた。
アッシュには姉が一人、フロストヴァルドにいる。「エリザ・ノースフォード」王女であり、若くして回復魔法の才に恵まれ、神官長の座に就いている。
アッシュは長年、姉に魔法を習っていたため、女性と一緒にいることには慣れており、リリア皇女と初対面でも自然に接していた。
アッシュはフロストヴァルドとサンフォーレの関係には懸念があったものの、それ以上にリリア皇女と過ごす時間を楽しんでいた。
散策の間中は、ほぼリリアの方から絶えることなく、
「アッシュ様、あの塔はグロテスクですね。殿方の時計の針みたいに」
「アッシュ様、あのカリンのスイーツ、一緒に召し上がりませんか?」
「アッシュ様、その帽子はお似合いですから、かぶって見て頂けませんか?」
「アッシュ様、そこで一緒に座って頂けませんか?しばらくのんびりしたいんですの」
と、次々に話しかけられたり、案内されたり、指示を受けたりすることが続いたが、アッシュはすぐに慣れた。
最初は緊張していたものの、「隣の敵国の皇女」と意識するよりも、「エリザ姉さんといる」と思うと、次第に違和感なく行動できるようになっていた。
アッシュは
「リリア様は、きれいなだけじゃなくて、一緒にいると楽しいな。」
と思いながら、リリア皇女らとの散策を楽しんでいた。
一方ルーナは気が気でなく、リリア皇女が、塔の見かけが「男根」のようだと王子に卑猥なジョークを言ったり、オトナの滋養強壮剤である花梨のスイーツを一緒に食べたり、王子に猫の着ぐるみのような帽子をかぶせていじって獣人とふき出していたり、公園のベンチで二人ぴったりとくっついて一休みすることに、ハラハラしながらも、かなりイラついてもいた。
首席で軍学校を卒業した15歳から3年もずっと一緒にいれば、ルーナもアッシュ王子のことが気になっていたのである。まだ早すぎると思って気を使って感情を抑えていた自分がたいへんに馬鹿らしく思えた。
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お昼ご飯のあと、皇女殿下は、
「夜の舞踏会には出席されますか?もしよろしければご一緒にどうかと思いまして」
と楽しそうに舞踏会に誘ってきたので、
「はい、喜んで伺います。舞踏会、楽しみですね」
と笑顔で返事をした。
舞踏会は、きっと「ルーナと食事をしているだけの会」よりもずっと楽しくなりそうだ。
どうせルーナは、舞踏会でも「軍事ネタ」や「情報収集の話」しかしないだろう。ルーナは、精霊使いのくせに、度が過ぎた軍事マニアなのだ。
リリア皇女は、
「舞踏会の準備がありますから一時帰宅しますわ。」
と伝えてきたで、その場は別れた。
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ー 学園都市ヴェローナのフロストヴァルド領事館内 ー
アッシュ王子一行は、市街地の散策の後、フロストヴァルドの領事館領内に準備された居宅に引き返していた。
「ねぇルーナ、舞踏会用の洋服とかって、持ってきてあったっけ?」
「簡易な礼装でよいかと思います。正式礼装は、仮面舞踏会ですからやめておきましょう。我が王国の王子と仮面舞踏会で情報を漏らすのは馬鹿げています。仮面の方は、王子には必要ないようにも思いますが、私が魔法で準備いたします」
「やっぱり僕は、目立つのかな。」
背丈のことを気にするアッシュに、
ルーナはやや無神経な発言をしてしまっていた。
「あ、アッシュ様、特に今の年代は身長差が大きくでる年ごろなのです。長い目で見てお気になさらないように。」
とルーナは弁護するように続けた。
アッシュのような晩成成熟タイプの男性は、その分成長も長く続き、相対的に寿命が長くなること、むしろ成長が早い方たちは、その寿命の短さを悔やむことになると伝えたのだ。
ルーナは王子を励ましつつ、認識阻害効果をもつ、舞踏会用の仮面を生成した。
アッシュの背が低いことが補正されればいいのであるが、きっと無理があるだろう。同じ背丈同志では、この魔法も認識阻害も持ちうるが、これだけ身長差があれば、認識阻害も何も効果はきっと持ち合わせない。魔法の範囲というようより、ヒトの認識の問題かと思われた。
「何事もなければよいのですけれど」
と、正直、敵国の南の皇女殿下が何を企んでいるのかわからず、ルーナは大変に困惑するのだった。
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その夜、アッシュはルーナの講義を思い出していた。戦術家でもあるルーナは、フロストヴァルドにて、数々の講義をアッシュに行っていた。
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ルーナの戦術講義
「古より伝わるアイゼンガルド帝国は、数々の戦いを経験し、
その中で洗練された戦術理論を生み出しました。
特に有名なのが、『電撃戦』と『塹壕戦』という二つの概念です」
アッシュは、メモを取りながら、ルーナの言葉に耳を傾けていた。
「これらの戦術は、かの有名な戦術家、シュタインフェルドが体系化したものです。彼は、技術革新と戦術の進化の関係に着目し、時代と共に戦術がどのように変化していくかを鋭く分析しました」
ルーナは、黒板に簡単な図を描きながら説明を続けた。
「まず、『電撃戦』ですが…これは、敵の不意を突いて、一気に戦線を突破する、スピード重視の戦術です。強力な魔法や、突出した戦闘能力を持つ兵士による電撃的な攻撃で、敵陣に混乱と恐怖を巻き起こし、一気に勝負を決めるのです」
アッシュは、目を輝かせながら、ルーナの言葉に聞き入った。
「魔法であれば例えば、空から隕石を落とす『メテオストライク』などが挙げられます。メテオなどは一般の兵などは、ひとたまりもないでしょう。ほぼ全滅です。」
アッシュは、ルーナの言葉に、息を呑んだ。
「…しかし、アッシュ様、安心してください。私たちには、魔法の防御手段もあります!」
ルーナは、力強く宣言した。彼女の表情には、揺るぎない自信がみなぎっていた。
「例えば、地の精霊魔法は、確かに地味で、目立たない魔法かもしれません。
しかし、その応用力は他の属性魔法とは比べ物になりません!敵の攻撃を防ぎ、味方の安全を守り、戦況を支える…まさに、『縁の下の力持ち』なのです!」
ルーナは、熱弁をふるった。地の精霊魔法術式はルーナの専門領域だった。
「例えば、敵の攻撃を防ぐ基礎魔法『プロテクション』や、敵の侵入を防ぐ『オブストラクション』、地面を隆起させる「アースウォール」、または陥没させて敵の進軍を阻む『ランドコラプス』など…」
ルーナは、黒板に、それぞれの魔法の効果を図解し、続けた。アッシュは、真剣に頷いた。
「どんなに強力な攻撃魔法や、屈強な戦士の攻撃でも、地の精霊魔法の防御を突破するのは容易ではありません!私は、この地味魔法が、戦争の勝敗を左右する力だと信じています!派手な攻撃魔法も重要ですが、地形を操作する地味魔法も大事なのです!電撃戦を塹壕戦に変遷できる地精霊魔法こそ戦術家には必要なのです!」
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アッシュは、講義を思い出しながら、静かに寝た。ルーナはいつも軍事の話しになって一方的に話を続け、そしてなぜか機能を停止するのである。アッシュには意味が分からなかった。




