34話 限界突破
リリアは、自室で、窓の外に広がる夜空を見上げていた。
窓の外には、月明かりに照らされた庭園が広がっている。
しかしリリアは、庭園の美しさに癒されることはなかった。
リリア皇女は怒り狂っているのである。
アッシュが無期限休暇ということで、
学園側の裁定した責任者には呪いをかけておいた。
それでも腹の虫がおさまらないのである。
この時、皇帝の執務室で会議が始まったことを確認した。
アルフォルトが、こっそり念話で教えてくれる。
室内では、皇帝と側近たちが、酒を酌み交わしながら、密談を交わしているようだった。
「…北の外交団は、こちらの思惑通り、すっかり弱りきっているようだ」
父の声だった。
「和平交渉など、時間稼ぎに過ぎん。奴らの食料が尽きた時が、この戦争の終わりだ…」
宰相タラーレンの言葉に、皇帝は高らかに笑い声を上げた。
「だが、油断は禁物だ。和平交渉が進んだとしても、
あの小王は、なかなかやりおります。油断すれば、何が起こるか分かりません。」
「安心するがよい。もし和平を進めなくてはならなくなっても、罠を準備してある。」
リリアは父の言葉に聞き耳を立てた。
「たとえ和平交渉が進んだとしても、調印式で皆毒殺してしまえばいいことだ。
あの王族ともども、皆殺しにすればいいだけのこと。
王も、王子も、あの王女のように殺してしまえばいい。」
リリアは、唇を噛み締めた。
血の味は意外に心地よかった。
「もう…許せない…」
ただでさぇ、アッシュと会えないからイライラしているのに、
このものは何を言っているんだろうか。
「これは、消去しかないわね。消去。」
と、リリアは、父の存在を消去することを決意した。
この時、王女は自分の中で何かがはじけ飛ぶのを感じた。
明らかに魔力量が増大したのを感じた。
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リリアは、念話でアッシュと話をした。
アッシュとリリアは、
このままでは、和平交渉が進行しないことを懸念し、
和平を実現するための方法を探っていたが、
リリアはフロストヴァルドの王、そしてアッシュ王子たちを暗殺する陰謀を父が企てていることを伝え、リリアが父であるレオンドゥスを消去する計画を立てた。
「結局レオンドゥスは圧倒的な軍事力を示さない限り、譲歩はしないだろう」
という結論が、導き出された結論であった。
「またレオンドゥスを消去しないと、和平にはたどりつかない。」
ことも、明らかであり、どちらを先に同時に達成するかは別にしても、
戦略目標は決まったのであった。
「軍事力… か…」
リリアは、アッシュと禁書庫で読んでいた禁忌魔法のことを思い出していた。リリアは禁忌魔法は理論的には理解しながらも、禁忌が破れていなかったので、魔法を使おうにも実感がわかなかったのである。
しかしながら、幸か不幸か最近この禁忌が破れたことを、リリアは体感していた。学園への裁定と、王への激しい殺意が、彼女の暗黒面のエネルギーを解放したかのようだったのだ。彼女は暗黒魔法のさらなる加護を受けたのだった。
翌日一通り、準備をして、ひとしれず空中に向かって魔法を放ってみると、100m程度の黒い球を出力することができるようになっていた。しかしながら、発動には長い時間がかかり、通常で役に立つ魔法とは考えられなかった。
この魔法で、城でも吹っ飛ばせばよいのだが、準備に時間がかかるうえ、近ければ自分がまきこまれ、ともすれば魔法探知に引っかかり、城に度々引きこもる父の直接の暗殺は難しそうだった。
それでもなんとか、暗殺も試してはみたのである。かなりの遠距離から父の自室をダークフレアで吹き飛ばしてみてはした。城が崩れ、大騒ぎになったが、なぜか父は無事であった。
「意外としぶといわね。」
リリアの知らないところで、父は身の安全を確保する魔法を使用しているようだった。
また父を単に暗殺しても、お話は動かない。何か「ストーリー」が必要なのだ。
その為、王の排除は後に行うことにして、関節的に極大魔法を南の王に見せつけることで、和平交渉を進めるさせるための魔法のデモンストレーションをまず行うこととした。
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アッシュは、リリアと協力するために、手紙を書くことにした。国王であり、兄であるレイヴァルト兄に友人に手紙を書くので、王家の封印を使わせてほしい旨願い出たのだ。北の国の代表として偽の手紙をサンフォーレ皇帝に送付し、王家の封印を使った。
「来る日にはエリドール南の領地、サンマルク山のふもとで、正午に和平の盛大なお祝いのセレモニーをします。美しさは保証いたしますが、安全性は保障しませんので、あまり近づきすぎないように。和平交渉が迅速に進むことを期待しております。」
サンフォーレの王は、送り主のない書状をいぶかしげに思ったが、北の国の王の封印がしてあり、本物のように判断されたので、念のため遠方より観察することにした。
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計画の日には、リリア皇女は、数日間の魔法の準備の後に、自分のもてるだけの魔力を思い切り込めて、予定の時間に、極大暗黒魔法を発動させた。
日中だというのに山頂上空に500メルチ程度の黒い球形の雲が現れ、山に降り注いだかと思うと、直後にサンマルク山をまるごと消し去ったのだった。現在の攻城魔法兵器を用いても、あのレベルの威力を実現することは不可能であった。
その光景を目の当たりにした皇帝レオンドゥスは山の消失をみて愕然し、自室が吹き飛ばされたのもフロストヴァルドの威圧行為であることを理解し、しぶしぶ和平交渉を進めることを決意した。
暗黒魔法をこうも好き勝手使用されたのでは、戦争どころではないと。
とりあえず休戦協定を結んで、相手の情報を入手し、策略や謀略で様子をうかがうことが最善であることを理解した。どうせ相手のフロストヴァルドは極寒の北にある、資源のすくない貧しい国なのである。
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ー フロストヴァルド王国首都 フロストファリア ー
レイヴァルドは、楽しんでいた。
実は、あまりに国を愚弄されたというので、部下からの要請で軍事威圧を許可したのだ。
しかしながら本人もあまりにむかついたしまったので、サンフォーレの港町の海上までをすべて氷漬けにしてみたのである。
翌日の新聞を楽しみにしていたのだが、残念ながら新聞には黒い魔法の炸裂で霊峰サンマルクが吹き飛ぶという見出しにかっさらわれていた。
交渉の進展があったのはこのせいなのかと思いながらも、公印を謎使用に使ったアッシュを思い出し、もしかするとアッシュが和平に関与しているかもしれないと思い、そんな妄想を楽しんでいたのである。
そして、新聞の片隅に、異常気象についてがニュースになっていた。
レイヴァルドは弟に「負けたかもしれない」ことを、楽しんでいたのである。
「大きくなってきたなアッシュよ。」
ぽつりとつぶやき、レイヴァルドは和平交渉に臨むのであった。




