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03話 忠臣は忠告する♪

ー 東の国の魔法学院ヴェローナ ー


サンフォーレの皇女リリアとノワールは、

フロストヴァルドの王子アッシュと

入学式をすっぽかして市街散策をしたのち、

宿泊中の高級ホテルスィートに戻っていた。


猫の使い魔のノワールは、皇女リリアと身支度をしている。


「リリア様、今日はやっぱり舞踏会に出席するの?

参加なんかしないと思っていたのに。」


と、気まぐれな皇女様に話しかける。


 さっきまで『行く』とか言っていたのに、やっぱり『行かない』ということはこれまでも日常茶飯事であった。今回も、どうせそんなことだろうと高をくくっていたのである。


「気が変わったのよ。今回はドレスは赤が良いかしらね。さっきは黒でしたから、赤にしましょう」


と、楽しそうに赤いドレスを自分のきれいな肢体に合わせる。


「ひょっとするとあの王子にホントに会いに行くの?」


「そうだとすると何か悪いのかしら」


「都合は良くはないと思いますよ。でもなんでよりによってアッシュ王子なんですかねぇ、ひょっとするとホントにリリア様は相手が《《フロストヴァルドの王子》》でも関係ないってこと?」


「そんなの関係ないわ」


とあっさりとリリアは言った。


 前述のとおり、フロストヴァルド王国は、リリアのサンフォーレ皇国にとって現実的に最大の敵国である。長年の係争の後、現在は停戦条約を結ぶのみの関係にあった。緩衝国として、その間にあるエリドール公国をもってして、なんとかその均衡を保っている状態で、一触即発の状態がもう30年以上継続している。小競り合いや外交的な係争は日常茶飯事だった。


 そんな敵国の王子と外国で一緒にいるだけで、奇異にみられるのは当然である。


「いやいや、世間はまた違う目で見ると思うよ。なぜどうして敵国の子女で一緒にいるのって。」


「そんなの、私は全然気にしませんわ」


「リリアが気にしなくっても、他の人が気にするよ!何かあっても、ここは本国じゃないから、今まで通り国内で使ってた《《箝口令》》とか、《《記憶操作》》とか、表立ってできないんですよ?」


「これまで通り、ばれるはずもありませんわ。そんなに問題なら、魔法でもかけて人目に付かなければいいのですわ」


魔法について自信満々なリリアには、


「何を言っても無駄か」


と思い始め、

ノワールは論点を変えることにした。


「そうだといいんだけどね、それと、あの、言いにくいんだけどさ、あの「アッシュ君」は見た目は10歳とか12歳くらいに見えるんだよね。」


「そうよね、なんてかわいらしい♡」


「リリア様は14歳とかサバ読んでるけどホントは今年16歳だからね。

どうみても《《おとうと》》と《《おねいさん》》にしか見えないよ」


「弟とお姉さんでも良いではないですか。仲の良い姉弟もいるものですよ」


 リリアは、全く悪びれる様子もなく、むしろ嬉しそうに微笑む。


 ノワールは内心でため息をついた。この皇女様は、一度こうと決めたら誰が何を言っても聞かないことを、彼女はよく知っていた。


「いやいやリリア様、かなり年が離れているように見えるし、下手すると、サンフォーレの皇女様が幼児趣味(ショタコン)だって言われかねないよ」


リリアはむきになって答える。


「べ、別に、言わせておけばいいではないですか。サンフォーレの古典においてもこの年代の恋愛小説なんて五万とありますし、それこそ《《無教養》》とか《《芸術音痴》》と笑われるだけですわ。そんな古典や神話を全て『禁書』にしてからそんな発言をしてほしいわ。そんなの、とんでもなく馬鹿げているでしょう?」


 ため息をつきながら、ノワールはこの方向ではだめなことを理解し、今度は変化球を投げる。


「でも、そんな噂がたったら、きっともうお嫁に行けなくなるよ?」


 リリアは、ノワールの言葉に一瞬だけ動きを止めたが、すぐにまたドレスの裾を翻し始めた。


「べ、別に行く必要はありませんわ。それに私、あの王国を継ぐつもりもちっともありませんの。私は魔法を極め、そして世界中を旅してまわりたいものですわ。狭い場所でじっと身を潜めているのは、もう金輪際ごめんですの。」


 ノワールはこれ以上何を言っても無駄なことを悟り、口をつぐんだ。この皇女様は、行くところまでいかないと、やはり理解できないらしい。


「自分は助言はしました。あとは知りませんよ。」


 とノワールは心の中で独り言を言った。


 ただ、この皇女様を守るため、またはどんな結末を迎えるのかを見届けるためには、自分はそばにいなければいけないのだということだけはノワールは理解した。

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