25話 再会と別れ
アッシュは学園都市から無期限休暇という名の追放を宣告された。しかしアッシュはむしろ休暇を楽しみ、愛する姉の元を訪問する。
ー フロストヴァルド最南端都市ティアモ ー
王女、エリザはキャンプの中央に立ち、皆と楽しそうに話をしていた。
難民たちの表情には安堵と感謝の色が浮かび、
彼女の存在がどれほど大きいかを物語っている。
突然、彼女の目に一人の若者が映った。
遠くから見慣れた姿が近づいてくる。
「アッシュ!」
エリザの声が風に乗って響き渡る。
アッシュはその声に反応し、
笑顔を見せながら足を速めた。
彼の後ろにはつきびとのルーナも続いていた。
「姉上、ただいまフロストヴァルドに戻りました。」
アッシュが駆け寄った。
エリザがアッシュに抱きついた。
「アッシュ、元気そうで何よりです。」
エリザは彼をしっかりと抱きしめた。
「姉さんこそ、お元気そうで何よりです。」
エリザはにこやかにうなずいた。
「エリザ様、このキャンプの状況は素晴らしいですね。
お話はよくお聞きしております。」
ルーナは、エリザの難民キャンプの状況について、諜報から報告を受けていた。
報告によれば、ルーナ的にはエリザは難民キャンプに潜む、
サンフォーレの「犬」どもの掃討を行っているとのことだった。
ルーナは、わが国の司祭様は優秀だなと思っていたのである。
「今日はイングリスもキャンプに来ると言っていたわ。
たまたま、駐屯の視察に来るんですって。」
「師匠も来るんですね!」
「そうですね。今夜は久しぶりに一緒に過ごしましょう。
明日からはまた忙しくなるわ。
あなたもレイヴァルド兄様に挨拶に行きなさい。」
「そうするよ。兄さまには学園の報告もしなければ。」
アッシュ王子は国王であり、兄であるレイヴァルドには
手紙でリリアのことを報告していたが、
リリア皇女のことを自分の口で伝えたかったのだ。
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その夜、エリザ、アッシュ、イングリス、ルーナはキャンプの一角で楽しく食事を囲んだ。焚き火の光が彼らの顔を照らし、温かい雰囲気が漂っていた。
イングリスはペガサスナイツを引き連れて巡回中、
エリザに会いに来たのだが、
視察の途中にアッシュが帰ってくるのを聞いていたので、
『アッシュにも』会いにキャンプに寄ったとのことであった。
ルーナという家庭教師がつくまでは、
よくこの3人で食事をしたものだったが、
エリザはハイプリーストの最高神官になり、イングリスは王国最高位の剣士となり、
忙しくしていたので、再会できたのは本当に久しぶりであった。
「学園生活はどうだった?かわいい子でもいたのかしら?」
と、わざとらしく、エリザが尋ねた。
手紙では報告を受けていたことを、少し聞いてみたくなったのである。
アッシュは少し赤くなりながら答えた。
「学園生活は大変素晴らしかったです。
サンフォーレ皇国のリリア皇女と仲良くなりました。
彼女はとても聡明で美しい方です。
彼女と過ごした時間は本当に楽しかったです。」
エリザは微笑みを浮かべた。
敵国の皇女様と仲良くなるとは、わが弟ながらあっぱれである。
「リリア皇女との友情は大切にしなさい。
あなたに今伝えることとしては、そうね。
もし女の子を傷つけたら、”責任”を取らなきゃだめよ!」
「責任ってなんでしょうか、お姉さま。」
「責任は責任よ、自分で考えなさい!」
と手厳しいのであった。
イングリスはお酒を飲んで、エリドールの民たちと変な踊りを踊っていた。
エリザはそれを見ながら笑いこけていた。
アッシュも、楽しそうにしながら、
師匠と姉を温かく見守るのであった。
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翌朝、アッシュをルーナが起こす。
「王子、緊急事態です。エリドール国境に、大規模な軍勢を確認しました。
おそらくサンフォーレ皇国軍です。おそらく主力部隊、その数、約十万、我々は奇襲を受けました。このままでは包囲殲滅を受けます。」
「直ちにティアモ市民と難民の避難が必要です!」
ルーナは、迅速に行動していた。
イングリスが笑顔でティアモの砦に向かう。
「アッシュよ、我が民、エリドールの弱き者の守護を頼む。」
「私も戦います。」
「いや、お前は残るんだ。」
イングリスはいつになく厳しい口調で言った。
「そうですよ、アッシュ、あなたは市民の希望の星です。
市民たちをしっかり導きなさい。
いいですか、これは、姉としての命令です。
市民の避難を完了させなさい!わかりますね、王子。」
とアッシュに指示を出した後、
「砦には魔法防御も必要でしょう。私も参ります。」
最高神官であるエリザもイングリスの後に続いた。
「わかりました。師匠、姉上、どうかご無事で。」
イングリスもエリザも笑顔でアッシュに別れを告げる。
別れ際にエリザはルーナにこっそり伝えた。
「市民の避難を優先させなさい。私たちは時間を稼ぎます。
いざという時はアッシュを命に代えて守りなさい。最優先です。」
エリザとイングリスは素早く準備を整え、ティアモ砦へと向かった。
アッシュはルーナの指示を市民やキャンプの難民たちに伝え、冷静に行動を開始した。
これまでのエリザの不断の努力により、
キャンプの人々とティアモ市民は迅速かつ秩秩序立てて避難を始めた。
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ルーナは避難誘導の最中、うるらく大声を喚き散らす男の声に気づいた。
「この町を見捨てるな!」
「私には財産があるのよ!置いていけるわけがない!」
「逃げたら敵に捕まるぞ!」
「私なら、酒を飲んでサンフォーレ軍と話し合える!大丈夫よ!!」
レダというその男は、避難する人々の中で混乱をわざと招き、秩序を乱していた。
頭が混乱をしているのか、矛盾する言動を意味不明に繰り返し、歩きまわっている。
街道の真ん中で、避難の邪魔である。
ルーナは一瞬、その男を冷たく見つめた後、静かに手を上げた。
「あなたには特等席を用意してあげるわ」
そう言うと、ルーナは軽く指を弾いた。その瞬間、レダの足元から土が螺旋状に巻き上がり、彼の体を包み込んだ。レダは驚愕の表情を浮かべ、逃げようとするも遅かった。土は彼の全身を覆い、瞬く間に固まってしまった。
ルーナはレダを土人形に変えた。
「さあ、町がどうなるか、その目でしっかり見てなさい!」
ルーナは冷たく言い放つと、もう一度手を振り、土人形と化したレダを南に振り向かせて、サンフォーレ軍がティアモの市街地に侵攻するのを見えるようにしてあげた。レダはもはや動けない。ただの立像のように、避難の混乱の中で静かに立ち尽くしていた。
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