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21話 為すべきこと

エリドール公国崩壊後、その領内は地獄絵図の惨状が日常化していた。

奴隷狩りと称して、遊び半分に人が殺され、痛めつけられていた。


町の女の子たちは、逃亡に際して女だとわからないように、皆坊主にされた。

それでも、見つかると、問答無用で、もてあそばれ挙句、多くが殺された。


集団で暴行をされている現場を見てしまったニコライは、青ざめて自宅に帰る。ニコライは田舎からでてきて事情を知らなかったのである。


既に、村は広範囲に包囲されていた。


ニコライは直感した。


これは、おそらく逃げ切れないだろう。


_______________________


「おとうさん、お帰りなさい。」


家の中はまだ平穏そのものだった。


ニコライは娘を抱いた。

力いっぱい抱きしめた。


「お父さん、どうしたの、痛いよ。」


愛する娘と二人暮らし。

娘以上に、ニコライに、大切なものはなかった。

愛するアンナ。

アンナの為に、ニコライの人生は構築されたいたと言ってもいいほど、

ニコライはアンナを愛していた。


ニコライは泣いた。

ニコライは泣きながら、娘の髪を切りにかかる。


「お父さん、どうしたの?やめてよ。」


いつも優しい父、

今日は様子がおかしい。

娘のアンナは、不思議に思う。


ニコライは涙で何も見えなくなっていた。

髪を切っても無駄なのである。


ニコライは、娘の首を絞めた。


娘は苦しむ。


(お父さん、やめて。お父さん、お父さん。苦しいよう。)


ニコライは鬼になった。


___________________________


ニコライは、家を燃やした。


そしてヒトであることを辞めた。


生存本能により、あてもなくさまよった。


泥水をすすり、倒れているところをキャラバンに発見された。


フロストヴァルドに到着した後、食事をとったのだ。


食事は、彼に記憶を呼び戻した。


__________________________


ティアモのキャンプでニコライは、瀕死の状態で見つかった。


自殺を図ったのだ。


エリザは、彼にヒーリングを唱えた。

ニコライは目を覚ました。


「私は鬼なのです。」


「私は愛する娘を殺しました。」


「私は鬼なのです。」


「死なせてください。」


ニコライは泣いて懇願した。


エリザは、いきなりニコライを思い切りひっぱたいた。


「目を覚ましなさい!!!」


エリザはニコライの目を見据えて続けた。


「死ぬのは、私が許しません!

何たる弱気、男のくせに意気地がない!


まずあなたの娘にあやまりなさい!

あなたが弱いから死んだのです。その自分の弱さを呪いなさい!

もっと強くなりなさい!」


エリザは、泣いていた。

エリザはニコライではなく、

エリザは、「自分自身」を叱っていた。


「そして一人家族が死んだくらい、どうなのです。

子などいくらでも病や事故で死ぬものです。

弱いこどもは、どう保護しても時に、死んでしまうのです!

神が1人奪うのならば、2人育てなさい!

神が2人奪うなら、3人育てなさい!

自分で育てられないのならば、

人様の子を育てなさい!

子育てを手伝いなさい!


この過酷な極寒の地で、

我々は常にそうして生を維持してきました。


神が死ねというなら、抗いなさい。

運命が死ねといっても、運命に抗いなさい。

今、自分の為せることをしなさい!」


エリザは号泣していた。泣きながら続ける。


「私はフロストヴァルドの最高司祭として命じます、

生きなさい!そして為せることをなさい。」


そしてこう優しく続けた。


「あなたはまだ死んではなりません。

娘の墓参りもしなければならないではないですか。

その時は私も一緒に参りましょう。」


ニコライは、頭を下げた。


ニコライは、正気を取り戻した。

ヒトとして、できることや、

やらねばならぬことが、たくさんあることに気が付いた。


ニコライはもう1つ気づいた。

このフロストヴァルドの神官は、なぜか泣いていた。ニコライは、まずこの美しき神官を命を懸けて守ることが自分の使命だと考えた。

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