16話 ダンジョンデート♪
ー ヴェローナ学園都市 ―
リリア皇女殿下とアッシュ王子一行は、デルナーク遺跡探索の計画を練っていた。
サンフォーレの首都シャペルブールに行くには、学園都市から馬車で3週間くらいとかなりの遠距離であった。
週末に用事を済ませたかったリリアは、学園都市の転移陣からサンフォーレ宮殿の転移陣を利用して、そこから徒歩でデルナーク遺跡に行くことを計画した。
この「転移陣の利用」が曲者で、というのも、
敵国の王子であるアッシュ王子が転移門を使用されているのを見つかっても、アウトだし、
リリア皇女が、一旦国に帰っていることがばれても、アウトなのである。
フロストヴァリアの王子がサンフォーレに内密で来るなんてのもヤバいし、
リリア皇女と一緒というのはもっとヤバいのである。
皇女であるリリアだけも、父の許可を取らずに出国しているため、一旦サンフォーレに帰ったことが誰かに漏れたら、まためんどくさいことになるのは、目に見えていた。
「アルフォルトに頼んでみようかしら…」リリアはふと思いついた。
宮殿に住んでいるアルフォルトという少女は、彼女を知る数少ない人物の一人であり、時折リリアの『計画』を手助けしてくれる存在だった。
アルフォルトが来た日のことは、良くリリアも覚えている。
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父はその日、遠い異国からの使者を”アルフォルト”と名乗る少女から贈られたブレスレットに目を輝かせていた。父が喜ぶ姿を見るのは、珍しかった。
それは、美しい、黒曜石のブレスレットだった。
「これは… 美しい…」皇帝はそのブレスレットを眺め、嬉しそうに微笑んでいた。
アルフォルトが笑顔で皇帝に言った。
「このブレスレットの所有者は、世界で一番美しいものに出会えるといわれています。」
その後、アルフォルトは皇帝の信頼を得て、皇宮に住むことを許されたのだった。
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遠距離の念話でリリアはアルフォルトに連絡をする。
「アルフォルト、ちょっとお願いがあるの。転移陣の利用がバレないように手を貸してくれない?」
「あら、また秘密の作戦?面白そうね。宮殿での人払いくらいなら、お手のものよ。でも、リリア様、今回はどこへ行くつもり?」
「デルナーク遺跡よ。ちょっと探し物があってね。でもバレると厄介なのよ。」
「ふふ、リリア様は相変わらず大胆ね。でも、そんなこと言われたら協力しないわけにはいかないわ。内緒にしておくから、安心して。」
「さすがアルフォルト、頼りにしてるわ。これが終わったら何かお礼を考えないとね。」
「期待してるわ。でも、お礼はシンプルでいいのよ。リリア様が無事に戻ってきてくれれば、それが一番のお礼だから。」
「ありがとう、アルフォルト。何かあったらすぐに知らせるわ。」
強力な人払いの魔法を使い、転移門をクリアし、変装をして、日中にデルナーク遺跡に行くと、観光地なのでよく人目も入り、そもそも探索どころの話ではなかった。
アッシュはともかくとして、リリアは皇女なのである。皆がリリアを認識するだろうし、認識阻害魔法や、人払い魔法も、魔法には限度があるのだった。
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夜になった。リリアたちは、念のため人払いの魔法を使用し、人知れず遺跡に入った。遺跡は観光用に改造されており、何の問題もなく最深層に侵入した。
図書館から持ち出してきた本を読むと、
何やら、最深部では「王族の証明」の提示が必要とか書いてある。アークは王になるものが使うので、王族の証明が必要なのだそうだ。
ルーナが分からないのは、
『王族のソースをささげろ。ソースと魔力を示し、試練を乗り越えん。』
この文面のくだりである。
「ソース?」
アリアは、いぶかしげる。ソースってなんだよと。
アッシュを見る。
マジかよ。
ルーナは赤面する。
アッシュ王子には見せられないし、そもそも説明できない。
いきづまるルーナがもつ本を、リリア皇女はさっと取り上げて一緒に本を読む。
「まぁ!」
とリリアも赤面する。
ルーナとリリアはお互いに顔を見つめあった。
しばし沈黙の後、
ルーナは、『アーク研究は国家の一大事』であり、つまりこれは『アッシュの一大事』でもあるので、意を決して言った。
「アッシュ様、すこしご相談がございます。。」
ルーナはアッシュに『簡単に』事情を相談し、アッシュの『尿』をコップに確保することに成功した。
(これで、ダメな時は、数年後にまたくることになるのだろうか、、)
とルーナは思いながら、リリアにも魔力供給の要請をする。ルーナよりも皇女のほうが魔力量が多いような気がしたのだ。また、将来の有事の為にも、リリアの魔力を見ておいた方が良い。
リリアとルーナが魔力を解き放つと、秘密扉が出現した。
(おしっこでよかったんだ。)
と、ルーナは大変安堵し、秘密扉を開けた。
扉は下につながる階段につながっており、4人で下層に進んだ。
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下層は、遺跡に比べると随分広い広場であった。中央には、大きな黒い竜が眠っているようだった。
「暗黒竜か、、、」
とルーナはつぶやく。
この世界には竜種は数多くいるといわれるが、
色は漆黒の黒、呪いのダークブレスを用い、ダークフレアなど暗黒魔法を使用する、強力な竜である。おそらくダンジョン最下層の守護者であろう。ルーナも見るのは初めてだった。
この竜が試練なんだろうか。
竜は眠っているようだったが、アッシュ達を侵入者とみなし、目を覚ましたようだった。ルーナはアッシュを守るように即効で防御魔法を展開した。
「私も戦闘要員じゃないんですよぉ」
とノワールもこの中に加わる。
まず、竜の怒号が、ダンジョンの奥深くまで響き渡る。
リリア皇女は竜の咆哮に対してプレッシャーにさしも反応しないようであったが、一般人であるアッシュは超絶どぎまぎしていた。
「ここは私が対処しますわ。」
とリリアが暗黒竜に近付いて行った。
リリアは、漆黒のローブを翻し、暗黒竜に真正面から優雅に歩いていた。
暗黒竜は、人間がなんのようだといわんばかりに、鋭い爪でリリアに襲い掛かった。
しかし、リリアは動じず瞬時に詠唱を終え、漆黒球を左手から放った。
漆黒球は暗黒竜の振り上げた爪を直撃し、前足を消し飛ばした。竜は地上を見上げ、激昂した。リリアは、笑みを浮かべながら、次の魔法の詠唱に入る。
暗黒竜のダークブレスが、リリアに迫る。ブレスはリリアを貫通せずブレスはリリアの周囲にまき散らされただけに終わる。暗黒竜の呪いを黒魔法の呪いで打ち消したのだ。
そしてリリアは暗黒竜の視界から一瞬で消える。リリアは、暗黒竜の背後に回り込み、無数のダークレーザーを放った。レーザーは、暗黒竜の腹部あたりを貫通し、竜は再び悲鳴を上げる。リリアは、己の魔力量に身を任せ、暗黒竜に容赦ないレーザーの飽和攻撃を仕掛けた。
「リリア様、こんな場所で戦うのは危険です!」
ルーナが叫ぶ。
しかし、リリアはなんともないというように、暗黒竜に魔法を放ち続けた。
アッシュたちは、リリアの圧倒的な、魔法力に畏敬の念を抱きながらも、
ダンジョンが崩れやしまいか不安を感じていた。
リリアは、物足りないというような表情をして締めの魔法の準備に入る。ここで、暗黒竜は最後の賭けに出てきた。
暗黒竜は魔法も特殊攻撃も無理だと判断すると、完全なる物理質量攻撃である巨大な体でリリアを押しつぶそうとした。
しかし、リリアは暗黒竜の攻撃を予測し、短距離転移を行い、またも背後に回った。
その後、「マジックアブソーブ」の呪文とともに、暗黒竜の魔力はリリアに吸収された。
暗黒竜はみるみる小さくなっていった。
「あなたは、この場所にとらわれているようね。そうなると、魔力を吸収しつくしたら、魔法で呪縛されてうごけないので、死を待つばかりね。。」
リリアは、残念そうな表情で暗黒竜を見据えた。
「でも、すこしもったいないわね」
とリリアはつぶやき、
「あなた、私に仕える気はない?」
と話しながら、
「でもこんなに暴れん坊ではこまるのよ」
と魔力をさらに吸収し、
瘴気を消し去り、暗黒竜を幼弱化させた。
「黒水晶の光よ、汝の力をもって、この闇の力を吸収せよ。
この闇に染まった魂を、黒く清めよ。
汝に宿る強大な闇を、今、我が手に委ねよ。
我が強き意志よ、汝の力をもって、この闇に囚われた者を解放せん。」
魔法の詠唱を終えると、
「さあ、姿を変えてくれるかしら? 例えば…美しい女性の姿とか。」
暗黒竜は、黒髪の美しい女性に変身し、リリアに頭を下げた。そして竜と思われる女性は、ダメージに耐えられず倒れる。
竜の傷を回復を始めるリリア、リリアは、暗黒竜も彼女の使い魔に加えた。
名はネロとなずけた。
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暗黒竜が守る宝箱には、黒い石板が入っていた。おそらくこれがアークのかけらなのだろう。
ルーナとアッシュはアークのかけらを見つけて喜んでいた。
サンフォーレの遺跡で発掘されたものなので、本来はサンフォーレの所有権があるものだったが、
「別に私はいらないわ。興味ないもの。
だって空間は魔法で生成すればいいし、
欲しいならアッシュにあげるわ。」
こうして、アッシュはリリアから「アークのかけら」を譲ってもらうことになった。




