11話 洗脳五奉行見山!
ー フロストバルド最南端都市 ティアモ ー
フロストバルドの王女エリザが、王国の南に位置する都市ティアモの難民キャンプに滞在し初めてから、しばらくがたっていた。
キャンプに滞在するにつれて、エリザは、サンフォーレ皇国への嫌悪感が増大していた。
フロストヴァルドの国民と難民の間に生まれた溝。
要所要所で発生したイベントが単なる偶然ではないという確信が、
エリザの胸に重くのしかかっていた。
「洗脳五奉行ー」
彼らは、おそらくサンフォーレ皇国が、
フロストヴァルドに派遣したスパイ組織。
エリザが勝手に存在を予想して、勝手に名命した。
五つの役割、
それぞれが特殊な役割を持つ、
恐るべき洗脳のプロフェッショナルたち。
扇動者 - 人々の不満を煽り、怒りの炎を燃え上がらせる者
フロストヴァルド出身の「ガレス」
教化者 - 巧みな言葉で人々の思想を操る者
元プリーストの「レダ」
崇拝者 - 偽りの希望を与え、盲目的な信仰を植え付ける者
「ガレス親衛隊」たち
サイレンサー - 真実の声を封じ、異論を抹殺する者
元役人の「ヨハン」
現実逃避者 - 人々を虚構の世界に引きずり込む者 麻薬の販売組織
元吟遊詩人の「レイモンド」
よく組織化された、巧妙な洗脳工作。
私たち、フロストヴァルド王国は知らぬ間に、
国内から足元をすくわれようとしていたのだ。
「このままでは、わが国が内部崩壊してゆく。」
呟きが、冷たい夜風に消えていく。
これまで、多くの忠臣たちがこの悪魔の毒牙にひっかかり、社会的に抹殺されたり、左遷されたりを繰り返してきた。協力者には、フロストヴァルド出身のものもいるから根が深い問題である。
真面目なものたちが馬鹿を見るように、
国力もそがれ、分裂させられてきたのだ。
この組織を倒さなければ、真の平和は訪れない。
私が目標に掲げた
「国民と避難民の協調」
も、幻想に終わるだろう。
「一つづつ、つぶす!」
エリザはそう強く、決意する。
「洗脳五奉行、覚悟しなさい!
あなたたちの策略を、この手で打ち砕いてみせるわ!」
エリザの心の声は、夜の闇に吸い込まれていく。
これから始まる戦い。
それは、目に見えない敵との
静かなる攻防の幕開けとなるだろう。
それでも、エリザは焦らない。
相手をよく観察し、ただ生きることで、
蜘蛛の巣をつくるのが優先なのだ。
こちらがが先に相手の毒牙にかかる必要はない。
エリザは深く息を吸い込み、
第一歩を踏み出す。
洗脳五奉行との見えない戦いが、
今、始まろうとしていた。
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ガレス親衛隊たちは、エリザ王女の姿を陰から静かに見つめていた。その目には冷たい計算が宿り、彼女の動きを逐一観察している。彼らのリーダーであるガレスは、エリザの毅然とした態度を鼻で笑いながら、部下たちに低く囁いた。
「どうだ?あの高貴なお姫様をどう料理してやろうか?」
部下の一人が薄笑いを浮かべて答える。「まずは、彼女の心の隙を突くんです。彼女が民を守りたいと思っていることは明白だ。それなら、その弱点を利用してやればいい。」
別の親衛隊員も頷く。「そうだ。正義感の強い者ほど、脆いものはない。特に、彼女のような理想主義者はな。」
ガレスは一瞬考え込むようにしてから、さらに指示を出した。「エリザ王女が助けたいと思っている人々を人質にする。それで彼女を揺さぶってみよう。王女の強さを誇るのは結構だが、いざ自分の信念が揺らぐ瞬間を見れば、どれだけ冷静でいられるか見物だな。」
「それだけじゃない」と、もう一人の親衛隊員が言葉を続ける。「彼女が焦りを見せた時がチャンスだ。エリザ王女が追い詰められた時、我々の本当の狙い に気づかないようにするんだ。」
ガレスは薄暗い笑みを浮かべた。「奴らの精神を崩壊させることこそが、我々の勝利の鍵だ。彼女がいかに優れたプリーストであろうとも、人間の心の弱さに抗うことはできまい。」
親衛隊の間に、冷たい笑いが広がる。彼らは、エリザ王女を精神的に追い詰め、じわじわとその力を削ぎ取る計画を練り始めた。




