ひまわり娘
親に連れられて、昔に遊んだ場所へ帰ったんだ。
夏真っ盛りの蝉が大合唱する、大学2年の夏の日。
父方の祖父母の家に久しぶりに帰省、という名の家族に強制連行された1週間。喪服が気になるが。
祖父母に簡単に挨拶をすまして、することもなくなった俺は自転車を借り、散歩をすることにした。
中学1年くらいから来ていない間に町並みは変わってしまった。都心より離れ田畑が多い土地柄だった。
今は田畑が半分くらいになり、見渡せば硬く綺麗に舗装されたコンクリートの上を、カラフルな鉄の塊が走っている。
電車も1時間に2本は当たり前だったが、今は5本と倍近くなりルンルンバスとやらも出てきているらしかった。
周りは小さなショッピングモールやコンビニなども増えつつある。
舗装された道を走り大きな通りを抜けるとひまわり畑が目に飛び出してきた。
「まだ育ててたのか」
「そうよー、久しぶりね。拓人君」
「え、あれえ?」
ポツリとつぶやいたのだが、小柄な女性に声をかけられる。
女性はニコニコしながら、俺のパチクリしている姿を見る。
「あ、雪菜?その頭、本当に?」
「うん、そうよー。あーうん本当。1週間だけだけど一時帰宅」
「そっか」
雪菜は3年前の夏、ガンに侵され抗がん剤の影響で髪が抜けてしまった。
その為、バンダナや毛糸のニットを着飾っている。と、両親から聞いた。
久しぶりにあったのに、何も言葉がかけられなかった俺。
昔はあんなにひまわりのように暖かい笑顔が印象的だったが、今は辛そうな顔が見え隠れした。
「ねえ、拓人君!あのね、あ…」
「?」
「たく、とくん?拓人君じゃないの?いつ来たんだい?」
「あはい!えと、先ほど」
名前を呼ばれた方に振り向くと、雪菜の母親が大きなひまわりを腕に抱きながら近づいてきた。
ひまわりの色に似合わず、服は喪服で全身真っ黒。
目は泣き腫らした目なのか赤い。
その姿を見て疑問をぶつけた。
「あの、つかぬ事をお聞きして、すみません。誰かのお葬式ですか?」
「誰ってうちの娘雪菜のだよ。2日前に、急に容体が悪化してね。今日、通夜だよ」
「…え、今…」
雪菜の母親の言葉に疑問を持ちつつ、雪菜が居た場所を振り向くと誰もいなかった。
幻覚か?それとも会いに来たのか?
「どうしたんだい?通夜の時間とか拓人君の両親に伝えたんだけど…」
「…え?」
早急に自転車を飛ばし、祖父母の家に戻って両親に問いただした。
言えなかった、大事なことなのに。と言われた。
無性に腹立たしかった。
言わなかった両親もだが、あの雪菜の事を忘れようとしていた自分に。
通夜に出たが、あの写真の笑顔姿にさらに涙をそそったが我慢する。
あの素敵な笑顔に惚れた、昔の初恋の雪菜に対して笑顔で送り出してやろうではないか。
そして、俺は強く生きてやるよ。
ひまわりみたいな笑顔の雪菜、いやひまわり娘。
また幽霊でもあったら、あの続きの言葉を聞いてやる。
終
それは懐かしい顔だった。
あの時のままだった気がした。
こんな恋なんてしなければ良かったなんて思ったり。