はじまり
昨今アラサーの処女率は約3人に1人
「処女が恥ずかしい」
「男性からどう見られているか気になる」
と悩む女性も数多くいる
そしてここにも1人、密かに悩む女性がいた
彼女の名は黒部 椿
入社一年目の新人賞を皮切りに様々なプロジェクトを任されてきた会社でとても頼りにされている社員である
そして今は大手の会社との取り引きを成功させ部長に褒められている
「黒部君のプレゼンのお陰でスクボウイングとも良い取り引きが出来そうだよ」
「ありがとうございます」
「スクボウイングは業界屈指の最大手だ。取り引き出来るからと言ってままだまだ油断は出来ない。気を引き締めていくんだぞ」
「はい!頑張ります!」
「そういえば黒部君は今日、誕生日だったな?」
「はい…」
「じゃあ今日は黒部君の誕生日とプロジェクトの成功も祈って祝賀会を開くというのはどうかな?」
「あっ…」
と椿が言うよりも早く他の社員から
「部長、黒部さんは誕生日は彼氏さんと過ごしたいと思うので別日にした方が良いですよ」
「黒部さんも最近忙しかったから彼氏さんと会えてないでしょう?今日くらいは2人でゆっくり過ごしなさいな」
「ハハハ!そうだな。なら祝賀会はまた別日に変更だな」
喉元まで言葉が出かかっていた椿とは裏腹に周りの社員は皆笑顔で溢れていた
その夜椿は自宅にてテーブルにケーキを広げていた
だが置かれていれるケーキは一切れ
「ハッピーバースデートゥーミー…ハッピーバースデートゥーミー…ってなーにが彼氏さんと2人きりで過ごせよ!彼氏なんていねーんだよ!!!」
椿はかっくらうかのようにケーキを口元に運んだ
椿は現在どころか、生まれて今日で30年一度も彼氏が出来たことがないのだ
「オメーらが飲み会イヤなだけだろが…」
ケーキと一緒に買った缶ビールとビーフジャーキーも豪快に口に運ぶ
椿の容姿は決して醜くない
寧ろ美人の中に入る
美人ですねと褒められる事も多々あるがどれも恋愛に発展はしない
「美人ですねって褒めるくらいならバーにでも誘えや」
やさぐれている椿の耳にダンッ!という音が入る
「ヤマト〜…私と一緒にいてくれる男はお前だけだよ〜」
そう言いながらケージを開ける椿
勢いよく飛び出したのは椿が飼っているウサギだった
ヤマトと名付けられたウサギは嬉しそうに椿に近寄り彼女の手をペロペロと舐める
ヤマトとの出会いは去年のクリスマスイブである
合コンに行く予定が偶然にも全員インフルエンザで倒れるという奇跡的なハプニングにより無くなってしまった
その際に寂しさを紛らわすために入ったペットショップで出会ったのである
「男がみんな動物みたいになってくれたらまた違ったのに…」
椿は人間の男にはモテないが何故か動物にはとても好かれる
小さい頃から犬や猫はもちろん
人間以外の生き物には異常に好かれていた
ヤマトを迎えたペットショップでも椿が視界に入った動物たちのテンションの上がり具合は店員がパニックになるほどであった
「はぁ…今日で30歳か…男は30まで童貞だと魔法使いになるとか言うけど、女も30まで処女だったら魔法使えたりすんのかなぁ…?」
想像してみたが自分が魔法を使ってるのを想像するがないないとすぐに否定した
「魔法使えても男との出会い結びつかなきゃ意味無いっての」
幸い明日は土日で会社も休み
今夜はヤケ酒でもしようと缶ビールをいつもより多めに買い込んできたのだ
「こうなりゃもう、男は諦めて仕事を恋人にしてやるー!!」
その後も酒のペースはいつもよりも早く
気がつけばヤマトと共に眠りについてしまった
しかし
椿はこれから想像もしない経験をしていく